『父と子』『なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える』――高校で読んだ本、大学で読んだ本(3)

#教育学 #教育学 #教育学部の人 #教育学部の人

東大生によるオススメ本の紹介

東大生は、高校生のときにどのような本を読んできたのでしょうか、また、大学ではどのような本を読んでいるのでしょうか。
高校生・受験生の皆さんが、大学での学びを知り、自分の進路を考えるきっかけになるような本を、東大生の高校・大学での経験とともにご紹介します。

「教育とはなにか?」を考える

 高校時代に出会ったロシア文学、大学時代に読んだ教育にまつわる新書。一見するとあまり関連性が無いように思われるかもしれませんが、どちらも私の興味の幅を広げたり、教育や人格形成への問題関心を顕在化させたりして、自分の進路選択に大きな影響を与えたものです。
 ある人の人格やパーソナリティはどのように形成されるのか、そんな普遍的な問いについて考える機会を与えてくれた本たち。今回はそんな2冊を皆さんにご紹介します。
 

世代間の対立から、教育について考える

高校で読んだ本
『父と子』

『父と子』

ツルゲーネフ著、工藤精一郎訳

1998年

新潮文庫刊

 これは、『初恋』などで知られるロシアの文豪、イワン・ツルゲーネフの長編小説です。当時の私は、『アンナ・カレーニナ』や『カラマーゾフの兄弟』など、ロシア文学の世界観を好んで読んでいたのですが、それならば是非読んでみて欲しいと高校時代の恩師がおすすめしてくださいました。
 この本では、1860年代、農奴解放前後のロシア帝国を舞台に、「父」=旧世代と「子」=新世代の世代間対立が描かれています。古いロシア的な思想や道徳、宗教といった既存の権威や伝統を真っ向から否定する若きニヒリスト、主人公のバザーロフを中心に、新旧世代の思想の相克や、恋愛模様とその葛藤が展開されていきます。

「きみの親父さんは、いい人だよ」とバザーロフがいった。「だが、旧時代の人間さ、彼らの時代はもうおわってしまったんだ」 (p.86)

「それにしても現代の若者どものあの高慢ぶりはどうだ!」(p.108)

 ジェネレーション・ギャップというのは誰しもが経験しうるものではないでしょうか。世代間での考え方や価値観の違いによる葛藤やすれ違いは、当時高校生だった私も感じていたことであり、読みやすかったことを覚えています。主人公は「子」世代のバザーロフですが、「父」世代の登場人物たちの心理描写も丁寧にされており、様々な人物に寄り添って読み進めることもできました。全面的に共感は出来ずとも、どこか感情移入してしまう部分をそれぞれに持っていたのが魅力的でした。
 しかし、何故バザーロフをはじめとした若者が急進的な思想を抱き、「ニヒリスト」となるに至ったのかという疑問が、読み終わった後も心に残りました。子供を教育するのは親や教師といった大人であるにも関わらず、どうして思想や慣習には世代間で違いが生じるのか。教育について、興味関心を抱くようになったのは、この本の影響が大きいです。
 

「教育×生物学」で、学ぶ理由を考える

大学で読んだ本
『なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える』

『なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える』

安藤寿康著

2018年

講談社

 この本とは、大学時代に出会いました。教育学関連の本は何冊か読んだことがあったのですが、「なぜ学ぶのか」という普遍的な問いを生物学的な側面から考えるというのが新鮮で心惹かれたのを覚えています。実際、読んでみたところ大変興味深く、結果的に自分の専攻を選ぶ決定打となった本です。

家庭環境の差ももちろんあります。本人の努力や先生の指導の仕方の差も多少はあります。しかし学業成績の個人差の一番大きな要因は遺伝的な差です。(p.134)

 この本では上記のように、教育界でタブー視されてきた「遺伝と学業成績の関連」について果敢に触れています。遺伝的な要素から目を逸らし、環境や努力を全てだとみなす現在の教育観に警鐘をならしつつ、どのように学べば他人より優れた成績を取れるかではなく、何を学べば生きていく意味を見いだせるのかを模索すべきだということが書かれています。行動遺伝学や教育心理学を専門にされている大学教授の方が執筆されているのですが、専門的な内容も分かりやすく説明されています。

 「人生にとって意味のある学習を追求し続ける必要があり、教育はその学習のための手段である」という内容のメッセージは、私のなかで曖昧だった学習と教育の差異を、「目的と手段」であると明瞭化してくれました。「なぜ学ぶのか」や「教育とはなにか」という高校時代から興味のあった漠然とした問いに、一つのヒントが与えられたように感じ、心が震えたのを覚えています。
 大学2年生の進学振り分けの時期に読んだこともあり、教育についての興味や、後期課程(大学3、4年生)で教育学を学んでみたいという意欲が掻き立てられました。教育に関する問いを深められそうだと感じた現在の所属先、教育学部の基礎教育学コースへの進学を決めたのは、この本の影響が非常に大きいです。

 いかがでしたでしょうか。内容に直接的な繋がりはありませんが、高校時代に読んだ本によって芽生えた教育への興味関心が、大学時代に出会った本によって深められたエピソードをご紹介いたしました。私にとって大変印象深い2冊、皆さんにもぜひ一度読んでいただけると嬉しいです!
 

紹介者のPROFILE

佐藤さん

佐藤 琴子 さん
教育学部4年

私は教育学部の基礎教育学コースに所属しており、主に教育に関連した歴史・哲学・臨床学について学んでいます。ざっくり言えば、「教育とはなにか」を様々な観点から考える学問領域です。卒業論文では、日本の女子教育史を研究テーマとして選びました。

作成/2022年3月
文/学生ライター・佐藤琴子
企画・構成/「キミの東大」企画・編集チーム