東大ゼミ訪問 ~ゼミに入ったら、キミはどう変わる?(5)―みんなの力を借りながら卒論を書こう!
東大ゼミ訪問 2022.02.17
2022.02.17
#教育学 #教育学 #ゼミ #ゼミ #教育学部の人 #教育学部の人
「ゼミ」とは何か、東大の先生に聞いてみました!
自称「神出鬼没のキミの東大ライター」タカハシカズコさんが、「ゼミって何?」というギモンを徹底解明する企画。シリーズの第4回からは、教育学部の額賀美紗子准教授のゼミにお邪魔して、実際のゼミでの卒論指導の様子をお届けします。
タカハシカズコ
神出鬼没のキミ東ライター・永遠の17歳
東大に興味をもっているものの、志望校を決め切れずにいる高校生・受験生がたくさんいると聞いて、東大のあれこれを調査中。目標は、「東大に進学するってどういうこと?」それをちゃんと知って伝えること!今回は「東大のゼミ」を調査するべく、教育学部准教授の額賀美紗子先生(比較教育社会学)に話を聞いてきました!
タカハシカズコ(「キミの東大」ライター) 額賀先生、こんにちは!
額賀美紗子先生(東京大学教育学部准教授) あ、カズコさん。どうしたの?
カズコ いま、ちょうど文学部の村本先生のところにいってきて、「東大のゼミ」っていうのがどういうものなのか、具体的に教えてもらった帰りなんです。
額賀先生 へぇ~。村本先生のお話、どうだった?
カズコ いや、もう、東大のゼミってすごいなって。濃いな~って。
額賀先生 いいお話を聞いてきたんだね。
カズコ 学生たちを研究に導く東大の先生の指導、生でみてみたいなあ…(遠い目)。
額賀先生 うーん、あ、もしよかったら、私のゼミでのディスカッション部分を録画してあげようか?ほら、私のゼミの時間帯、カズコさんは学校があるからゼミに参加できないけど、あとで録画したものを一緒にみるっていうことだったらできるじゃない?
カズコ 本当ですか!?お願いしちゃってもいいですか?
額賀先生 大丈夫よ。明日、卒論ゼミの日だから、みんなに断って、録画しておくね。
カズコ ありがとうございます!!楽しみにしてます!!
カズコ 額賀先生、こんにちは!
額賀先生 いらっしゃい。時間ぴったりだね。
カズコ 今日はありがとうございます。楽しみで、昨日は寝れなかったんですよ~。
額賀先生 ふふ。さて、では今日一緒に見る動画なんだけど、代田さんと松原さんっていう2人の学生の卒論進捗状況を扱った回のものになります。あ、動画を見る前に、額賀ゼミの特徴を簡単に説明しておくね。
額賀ゼミについて
・2021年度はZoomで実施。
・額賀先生の専門は「比較教育社会学」。社会や文化の違いがどのような影響をもたらすのか、という視点から議論することが多い。
・学部生と大学院生が参加。ときどきゲスト教員の参加もあり。
・卒論指導の回は、(1)卒論生が進捗状況発表(10分ほど)、(2)額賀先生によるコメント&ゼミ参加学生同士の議論(20分ほど)という流れ。
・1回につき複数人の卒論生の発表をとりあげる。
額賀先生 早速はじめようか。まずは、代田さんの発表内容要約を確認してくれる?
カズコ はい!
代田さんの発表内容要約
【テーマ】
長期インターンシップの3か国比較
※インターンシップ=学生が特定の企業などで実際に仕事を体験する制度のこと
【問題関心】
・日本において、長期インターンシップは政府が推奨しているものでありながら、1か月以上という長期インターンシップを実施する企業は少数派。
・他方で長期インターンの応募者数は急激に増加。
・日本における長期インターンの現状と課題は何か?日本以外の2か国との比較からこの問いにせまり、日本型雇用システムにとって有用な制度や仕組みが何かについて検討を加える!
【メインの方法】
インタビュー調査
【進捗状況】
・日本・アメリカ・スウェーデンの雇用の現状を整理し、インタビューも日本9名、アメリカ3名、スウェーデン2名に実施。
【悩んでいるところ】
・日本以外(アメリカ・スウェーデン)について、インタビューできている人がまだ少ない。
・3か国の状況がわかるにつれて、むしろ各国のどこに焦点を当てればいいのかがわからなくなりつつある。
カズコ 確認しました。
額賀先生 じゃ、再生するね。あ、気になるところがあったら、どんどん言ってね。
カズコ ありがとうございます。
~代田さん・動画再生(1)~
額賀先生 はい、発表ありがとうございます。インタビュー調査、進んでいるようでよかったです。
代田さん ゼミメンバーや額賀先生に紹介してもらった方と連絡が取れて、始めることができました。
額賀先生 ちょっと安心した、というところですかね。
代田さん はい、ありがとうございます。
カズコ 先生、とめてください!
額賀先生 え、もう?
カズコ インタビューしたいっていうことになったとき、対象者を紹介してもらうってこともあるんですね。
額賀先生 そうだね。今回は、調査に協力してくれそうな知り合いを紹介したけど、ほかにも「この人に助言してもらったら?」とか、「実際に現場を見てきたら?」とか、こういうかんじで紹介するってこともありますね。
カズコ 先生やみんなのネットワークにお邪魔するってかんじですね。
額賀先生 そうやって自分なりのネットワークをつくっていくのね。続けるよ。あ、カズコさん、質問があるとき、自分で動画をとめても大丈夫よ。
カズコ ありがとうございます。そうします。
~代田さん・動画再生(2)~
額賀先生 インタビューメインで進めることになると思いますが、「焦点が分からなくなってきた」と最後に言ってましたね。いまのところメインのリサーチクエスチョンは、どういったものになりそうですか。
代田さん まだ固まっていないんですけど、ほかの2カ国の制度や仕組みが日本にどう応用できるか、がリサーチクエスチョンかな、と思っています。
カズコ リサーチクエスチョンってなんですか?
額賀先生 研究を貫く「問い」のことですね。どんな研究であっても、なぜその研究をするのか、その研究をすることでどんな「問い」に答えることができるのかを考えておく必要があるのね。代田さんの例でいったら「インターンシップについて」とか「インターンシップの研究」というだけじゃ、研究にはならなくて、インターンシップの何を、なぜ追究したいのか、ということを考える必要がある…っていえばわかるかな?
カズコ 村本先生にも「問い」って何か、じっくりと教えてもらいました(村本先生へのゼミ訪問第2回目はこちら)。「問い」っていったり、「リサーチクエスチョン」っていったり、いろいろんなんですね。
額賀先生 うん、私は結構「リサーチクエスチョン」と表現することが多いけど、「問い」という人もいるし、「研究設問」ということもありますね。
~代田さん・動画再生(3)~
額賀先生 先行研究はどんなかんじでしたか?
代田さん 長期インターンに特化した日本の研究は多くなかったです。諸外国では、調査が進んでいるようでした。
額賀先生 短期インターンの研究は日本でもよくみるけれど、長期になるとそうなんですね。そのことはちゃんとまとめておく必要がありますね。
代田さん はい。
額賀先生 あと、アメリカとスウェーデンの違いがみえてこないとのことでしたが、2つの国は「教育⇔仕事⇔教育⇔仕事…」という流動性の程度に違いがあるのではないですか。その違いがインターンをどう位置付けるかに反映されているのではないかな、と思うんですけれども。そのあたりインタビューで出てきましたか。
代田さん アメリカとスウェーデンのインタビューからは、まだそこまでの違いが読めるデータが取れていません…。
額賀先生 日本のインタビューはどうでしたか。
代田さん あ、日本は、アメリカ・スウェーデンとの違いが明確です。日本の学生は就活のためにインターンをしているところがあるんですけど、アメリカやスウェーデンの学生は「可能性がまだいろいろあって」、「就職するか大学に残るか分からない」というかんじで、インターンについても、どう考えているのかみえにくいところがありました。
額賀先生 意味づけの違いが面白いですよね。第1章で制度の違いについて整理して、第2章以降で「じゃあ、学生たちが、長期インターンシップをどう捉えてるか」という議論になっていくか…?
カズコ 額賀先生、「データが集まるにつれて、どこに焦点を当てればよいかわからなくなった」と言っていた代田さんに、先生が道筋を示しているように見えたんですけど、それであってますか?
額賀先生 わかってくれた?インタビューってどうしても語ってくれた話自体が面白いから、積み重ねると混乱しちゃうところがあるんだけど、ここで「社会による捉え方の違い」っていう視点を出して、議論の方向性を確認した、というかんじかな。
カズコ 社会とか、そういう周りの環境によって行動や意識が違うっていうのは、村本先生のところでも聞いた話でした!
額賀先生 うんうん、社会科学では重要な切り口だしね。
~代田さん・動画再生(4)~
代田さん ありがとうございます。たしかに、日本の学生からは、インターンを就活の手段にしているという語りがきけました。でも、アメリカやスウェーデンは違います。その点を描くということはできそうです。
額賀先生 うんうん。欧米は資格社会というところがあって、グローバルな労働力をあてにしているところがあるから、何を学んできたかという中身を重視せざるを得ない状況があると思います。あ、ちょっと画面共有しますね。
代田さん お願いします。
額賀先生 こちらにもあるように、諸外国では、フォーマルな教育を受けていなくてもスキルを持っていれば、資格とみなす。そしてその資格をもって求職者と企業とのマッチングが成立、ということがみられるわけですよね。でも、日本はこうしたことが進展しない。卒論では、こういうシステムについて説明して、対象としている国が「資格」「スキル」にどう意味づけしているのか。学生たち本人はどうか。そしてこうした議論を長期インターンシップに応用するとどんなことがいえるか、という議論を加えるといいのではないかと思います。
カズコ 先生が資料を提供するってことがあるんですね。学生が持ってきたものについて、コメントするだけだと思い込んでいました。
額賀先生 資料があったほうが指導しやすいこともあるしね。Zoomだと、議論のなかで「この情報、教えておいた方がいいな」と思いついたらすぐに画面共有できるし、そのあたりはZoomのゼミのいいところとして挙げられるかな。
カズコ オンラインのゼミだからこそ、ということですね。
~代田さん・動画再生(5)~
額賀先生 代田さんがやろうとしているのは、とくに学生の経験から浮き彫りになる課題ですよね。どんな課題が出てきそうですか。
代田さん 日本の学生は、インターン経験自体は「よかった」って肯定的に評価しています。でも、かなりの時間を使ったにもかかわらず、スキルを獲得できたわけでもないともいいます。そのあたりの話を丁寧に分析したいと思います。
額賀先生 あ、永福さん、手を挙げてくださっていますね。どうぞ発言してください。
永福先輩 ありがとうございます。大学によっては長期インターンをすることで単位を出すところがありますよね。同じ長期インターンシップでも、どういう形態のものを経験しているのかによって意味づけも変わってきますから、そのあたりは注意する必要があると思いました。
代田さん たしかにそのとおりです。ご指摘ありがとうございます。
額賀先生 事例の位置付けは大事ですね。どういうサンプルなのかというのをきちんと説明したうえで分析していく。「ここまでは言えるけれども…」といったかんじの限界も含めて、もう少し考えてみてください。
代田さん ありがとうございました。やってみます。
カズコ 大学院生の先輩登場!村本先生も、大学院生が学部生に指導しているって教えてくれました。
額賀先生 大学院生もいいアドバイスしてくれますね。
カズコ 村本先生がおっしゃっていた「みんなで考える」っていうのは、こういうことなんだぞ!!というのを見せてもらったような気がします。なるほど…。
額賀先生 それは良かった。次は松原さんの発表だけど、その前に5分休憩しようか?
カズコ そうしましょう。私、ストレッチします!先生もご一緒にいかがですか?
額賀先生 …一緒にやろうかな。
後編に続く