東大ゼミ訪問 ~ゼミに入ったら、キミはどう変わる?(2)―ゼミで卒業論文を書くってどんな感じ?

2021.12.21

東大ゼミ訪問

#ゼミ #ゼミ #文学部の人 #文学部の人 #心理学 #心理学

村本由紀子先生

「ゼミ」とは何か、東大の先生に聞いてみました!

自称「神出鬼没のキミの東大ライター」タカハシカズコさんが、「ゼミって何?」というギモンを徹底解明する企画。シリーズ第2回も、文学部の村本由紀子教授の解説をお届けします。

タカハシカズコ
神出鬼没の「キミの東大」ライター。永遠の17歳。
東大に興味をもっているものの、志望校を決め切れずにいる高校生・受験生がたくさんいると聞いて、東大のあれこれを調査中。目標は、「東大に進学するってどういうこと?」それをちゃんと知って伝えること!今回は「東大のゼミ」を調査するべく、文学部教授の村本由紀子先生(社会心理学)に話を聞きに行ってきました!

カズコのギモン

● 卒業論文って大変なの?
● 身近な困りごとを卒論にできる?

卒業論文の第一関門

タカハシカズコ(「キミの東大」ライター) 村本先生、卒論ゼミのことも教えてもらいたいです。
村本由紀子(東京大学文学部教授) はい、どうぞ。

村本由紀子先生
前回に引き続きお話を聞かせていただく、文学部の村本由紀子教授。
※感染対策のため、マスクをした状態でお話を伺いました。

カズコ 4年生の4月に指導教員、所属ラボが決まるっていう話だったけど、そのあとはどんな感じで進むんですか?
村本 社会心理の卒論だと、基本的にデータを収集して分析する、というものになるので、まずは、夏休みがあけたらできるだけ早くデータをとるということに照準を合わせます。
そうなると、4年生の前半は必然的にそのための準備をする、ということになるよね。4~5月にテーマを決めて、夏休みまで具体的な実証研究の計画をたてる、というかんじかな。早い段階で予備調査をすることもあります。
カズコ みんなそんなにうまく進めることができるんですか?
村本 そうだね、順調に進めることができる人もいれば、そうじゃない人も、もちろんいます。ほら、企業への就職を目指している人と、公務員を目指している人とでは、就活に力を入れなければいけない時期も違うしね。
でも、ワーワーいいながら、結局みんなちゃんとまとめていくかな。
カズコ 卒論に取り組む中で、一番難しいことって何ですか?やっぱり、何について書くかを決めることですか?
村本 うーん、まず、社会心理のテーマは日常生活の中にあるので、みんな、どういった現象を扱いたいか、ということはかなり早い時点で出してきますね。
カズコ そっか。
村本 やっぱり大変なのは、それを「問い」にするところかな。うん、これが第一関門だね。「〇〇についてやりたい」っていうのは簡単だけど、それを「問い」のかたちにまでもっていくには、かなりのやり取りが必要になってくるかな。
カズコ 先生、「大学では何を学ぶか」系の本とか、あるじゃないですか。こういった本を読んでみると、いま、村本先生が言った「問い」って言葉がでてくるんですけど、正直いってよくわからなくて。だから、先生がいま「問い」にするところが大変っていってくれたけど、どうもよくわかりません。

興味関心から研究へ―その昇華を支える指導

村本 じゃあ、少し説明を変えてみようかな。もう一度言うけど、「この現象に興味がある」というのは、割と早い段階から学生たちも出すことができるのね。でもそれを研究にするためには、「なぜ、△△という現象が起きるのだろう?」とか、「これまで◎◎という現象については、■■の視点から説明されてきたけれど、ここに★★の視点を加えると、どのようなことがいえるのだろう?」といった「問い」にしなくちゃいけなくて、しかもその「問い」が学術的に意味のあるものである必要がある。こういった「問い」までたどりつくのが難しい、っていったらわかってもらえるかな?
カズコ あ、それならわかる気がします!
村本 よかった!
カズコ 小学生のときにやった夏休みの自由研究とは全然違うんですね。
村本 そうだね。…ところでカズコさんはどんな自由研究をやったの?
カズコ わたしですか?「ペンギンの秘密」っていうのをやりました!ペンギンって世界に18種類もいるんですよ。ちなみに17種類という説もあります。村本先生、知ってました?
村本 え、そんなに?知らなかった。
カズコ えっへん。
村本 すごい、すごい。あ、それでね、ここも大事なところなんだけど、私は学生たちに「最初から『研究になるものはどれか』とか、気にしなくていいよ」と伝えています。みんなが想像してる以上に、結構「研究」になるものだから、あまり狭く考えなくていいよ、ってね。まずは関心を話してもらうのが大事で、学生本人がわかっていないところですごく面白いことを話していることがあるから、それに対して「そこ、面白いね!」っていうのが、自分の仕事かな、と思っています。

村本由紀子先生

カズコ へぇ~。あ、先生、それが4年生のゼミっていうことでいいんですよね?
村本 そうだね、毎週、リサーチミーティングというのをやっていて、それが4年生のゼミになるんだけど、そうそう、そこには大学院生も参加しています。ミーティングでは大学院生の研究相談もやっているから、4年生も、「あ、この院生の研究は、私の関心に近いな」とか、そういうことを感じながら参加しているんじゃないかな。
カズコ 大学院生とのつながりとか、考えたこと、なかった!
村本 たしかに、高校生はあまりそんなこと考えないかもしれないね。私の研究室では、大学院生に4年生のアドバイザーになってもらっています。大学院生が、4年生の関心を聞いて、「そういうことだったら、自分が最近読んだこの論文が近いというか、参考になるよ」とか、「こういう話もあるよ」とか、熱心に助言してくれていますよ。

どこに研究の種があるのかを伝える

カズコ 先生、もう少し、先生が4年生に伝えているアドバイスについて、具体的に話してもらってもいいですか?
村本 そうだね、まず、学生自身が面白いと思っていても、「問い」にまでなっていない段階であれば、「ここが面白いんじゃないか」ということ、そして「なぜ、私がそこを面白いと思うのか」ということを伝えるようにしています。「あなたの話のどこが研究の種として面白いのか」ということを伝えようとしている、といってもいいかな。
「それは議論され始めているけど、まだ十分開拓されていないテーマだよ」とか、「あまり注目されてこなかったことをいま話しているから、そこにこだわってごらん」とか、「いま言ってることは、従来言われてきたことと逆のことだから、そこを掘り下げていくと面白いかも」とか。そういうアドバイスをすることで、モヤモヤした学生の興味関心を、研究へと引っ張り出す・・・。
カズコ うんうん、イメージがわいてきました!!

村本 「問い」にするには、先行研究のレビューをするとか、理論を知っておくとか、そういうことも大事になることも伝えてますね。そうすると、学生たちは文献を読み、理論を勉強し、自分なりの問いをひねり出す。そしてまたゼミの場で議論してっていうかんじで、「問い」が洗練されていく感じです。

編集部注:「先行研究のレビュー」とは、自分の知りたいことに似たテーマや、同じような対象を扱っている過去の研究を読み、先人がこれまでに何を明らかし、何が課題として残っているのかを整理すること。大学の研究はここからスタートする。

カズコ 村本先生が学生にテーマを与えるってことはしていないんですか?
村本 そういうやり方もあるとは思うんだけど、いくつか候補を出す、というのが私のやり方かな。「これでいくのか、あれでいくのか、どっちもそれぞれ面白そうだけど、あなたはどちらをやりたいのか考えてみたら?」ということを学生たちにはよく話しているように思います。

オーディエンスを意識する

カズコ 村本先生、わたし、テニス部なんですけど、試合に負けると、なんかメンバーの仲がぎくしゃくすることがあって・・・。こういう「イヤなことがあったときも、ぎくしゃくしない方法」っていうのは、研究になりますか?
村本 うーん、なんていえばいいかな。学術理論を使って、自分の部活で何が起きているのかということを説明するのは、それはそれで面白いんだけど、でもそれって、「私が知りたい!」っていうことだよね?
カズコ そう・・・いうことですね。
村本 うん、その「私が知りたい」というのは大事なんだけど、できれば卒論は「私が知って終わり」にはしてほしくなくて、「私」だけじゃないオーディエンス(研究の読み手・聴き手)に向かって伝えるものにしてほしいと思っています。
だから、カズコさんのその質問には「その研究でわかったことをどうするつもりなのかということまで考えて、テーマや『問い』を考えなさい」っていうことになるかな。

村本由紀子先生

カズコ オーディエンスかぁ。それも考えたことがなかった!
村本 うんうん、「私」から始まる「問い」でもいいんだけど、その先にはオーディエンスを意識したほうがいい。そうだね、言い換えると、カズコさんのテニス部のことを知らない人にとっても面白いものにするには、どうすればいいか、ということを考えてほしいなってことかな。もし、そこから、既存の研究に対して新しいことを言えたとしたら、それがベストだし。
カズコ 先生、テーマや「問い」が決まったら、あとは結構スムーズに進むものなんですか?
村本 「問い」が決まったら、そのあとは、調査や実験の計画になるんだけれど、実際に計画してみて「問い」を見つめ直すということも少なくないから、そこからも結構やりとりしながらってかんじかな。
カズコ そうやって、なんだかんだ卒論に向けて1年間進めていくというのが、4年生のゼミになるんですね。

今日のまとめ

● 卒業論文の最初のハードルは「問い」を作ること。大変な作業だけれど、先生や先輩が、ゼミで助けてくれる。
● 身近な困りごとを卒論にするときは、自分のことを知らない人に「面白い」と思ってもらうにはどうしたらよいのかを考える。

第3回に続く

取材/2021年10月
取材・構成・文/タカハシカズコ(「キミの東大」ライター)
写真/学生サポーター・福澤治幸
企画/タカハシカズコ、「キミの東大」企画・編集チーム