東大ゼミ訪問 ~ゼミに入ったら、キミはどう変わる?(1)―「ゼミ」って何?

2021.12.21

東大ゼミ訪問

#ゼミ #ゼミ #文学部の人 #文学部の人 #心理学 #心理学

村本由紀子先生

「ゼミ」とは何か、東大の先生に聞いてみました!

「ゼミ」という言葉、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。なんとなく、大学生らしい、かっこいいイメージはあるけれど、実際にどんなものなのか、その実態を知っている人は意外と少ないのでは?今回は、自称「神出鬼没のキミの東大ライター」タカハシカズコさんが、実際に東大の先生に会って、「ゼミって何?」というギモンを徹底解明してきてくれました。シリーズでお送りします。

タカハシカズコ
神出鬼没の「キミの東大」ライター。永遠の17歳。
東大に興味をもっているものの、志望校を決め切れずにいる高校生・受験生がたくさんいると聞いて、東大のあれこれを調査中。目標は、「東大に進学するってどういうこと?」それをちゃんと知って伝えること!今回は「東大のゼミ」を調査するべく、文学部教授の村本由紀子先生(社会心理学)に話を聞きに行ってきました!

カズコのギモン

● ゼミって、具体的に何をするところ?
● ゼミを受講したら、どのようなことができるようになるの?

タカハシカズコ(「キミの東大」ライター) 村本先生、こんにちは!
村本由紀子(東京大学文学部教授) あれ、カズコさん。こんにちは。今日はどうしたの?

村本由紀子先生
取材に協力してくださった、文学部の村本由紀子教授。
※感染対策のため、マスクをした状態でお話を伺いました。

カズコ えへへ、今日は、「東大のゼミ」について教えてほしくてきました。
村本 うんうん、そっか。
カズコ このあいだ、東大に進学した学生さんと話す機会があったんですけど、そのときに「東大のゼミって、大変だけど、楽しくて」って話してくれて。でも、ゼミって何なのか、よくわからないまま話を聞いていたんですよ。一緒に話を聞いていた高校生は、大体そんなかんじだったみたいで。
村本 たしかに高校生にとって、ゼミって馴染みがないものかもしれないね。私が所属している文学部の社会心理学研究室の例でよかったら、紹介できるけど。
カズコ わあ!嬉しい!ありがとうございます!

3年生のゼミ・4年生のゼミ

村本 文学部のなかでも、研究室によってやり方は様々なんだけど、社会心理学研究室の場合、3年生のときのゼミと、4年生のときのゼミは、違うもの、と考えてもらったほうがいいかな。
カズコ そうなんですか?
村本 そう。カズコさんも知っていると思うけれど、東大の場合、2年生の秋の進学選択で専門が内定して、そこから専門のカリキュラムが少しずつ始まっていくのね。全体の流れは、図1みたいになるかな。

社会心理学研究室の履修の仕組み
図1 社会心理学研究室の履修の仕組み

村本 社会心理学を本格的に学ぶようになって半年してから、3年のゼミが始まるの。ゼミは、社会心理学研究室の教員4名(教授もしくは准教授)がそれぞれ担当するから、春学期に2つのゼミ、秋学期に2つのゼミの、合計4つのゼミが開講されているわね。
カズコ じゃあ、MAXで4つ履修できるってことですか?
村本 本人の希望次第では履修可能ね。実際、3つ履修する学生はよく見かける。
カズコ そっか。4年生のゼミっていうのは?
村本 4年生のゼミは卒業論文(卒論)の作成がメイン。4年生の4月に指導教員が決まって、これで「所属ラボ」が決まることになるんだけど、そこで研究計画を立案、実施、分析、執筆、という流れになるのね。

編集部注:「ラボ」は、Laboratoryの略語で、似たような研究テーマをもった教員や学生たちが、協力して実験や調査などの研究活動を行うグループのことを指す。ただし、このようなグループを「ゼミ」や「研究室」と呼ぶ学部・学科もあり、東大生同士でも「ラボって何?」という話になったり、「ゼミ」や「研究室」という言葉の意味が違って伝わっていたりと、なかなか難しい。

輪読とグループワークで「切り口」の多様性を学ぶ

カズコ 4年生のゼミで卒論を書くのはわかったけど、だったら3年生のゼミって何をやるんですか?
村本 基本的に輪読(数人が順番に、論文や本などの文献を読み、議論すること)とグループワークが多いかな。
カズコ いきなり「自分がやりたいことをやる!」というわけじゃないんですね?
村本 社会心理学っていうのは、基本的に調査や実験という実証研究がベースになるんだけど、2年生から実習で調査や実験のやり方を学び始めるのね。3年でもこうした実習は続いて、そして3年ではさらにゼミも加わって・・・。
カズコ なんか「段階を踏んで」っていう感じがします!
村本 そうだね(笑)。

村本由紀子先生

カズコ 村本先生が担当した3年のゼミでは、どんなことをやったんですか?
村本 今年は13人が履修していたんだけど、「多元的無知」をテーマにした輪読と研究計画の立案をしました。多元的無知っていうのは、「集団内に存在する暗黙のルールについて、自分は支持していないにもかかわらず『他の人たちは支持しているのだろう』と、その集団の多くの人が思い込むことで、結果的に誰も望まないルールが維持されてしまう現象」のことなんだけど、これを扱った文献を取り上げています。
ちなみに去年は「心と文化の研究」を扱いました。東洋と西洋では人々の心理や行動の傾向に違いがあるけれど、なんでだろう?ということを考える領域といえばいいかな。
カズコ  ・・・村本先生、輪読で勉強するっというのが、イメージできません!書かれていることをみんなで理解しよう、っていうことで合ってますか?
村本 ああ、ごめんごめん。理解するっていうのはもちろん大事なんだけど、そうだなあ、切り口を学んでもらうっていうのが、もっと大事なねらいかな。
カズコ 切り口?
村本 「心と文化の研究」で説明しようか。心の文化差っていうのは、自然環境や社会構造から説明しようとするマクロの切り口もあれば、逆に神経科学のようなミクロの方向から考えましょうという切り口もあるのね。学会ではこういうことが議論になってて、切り口も多様なんだよということを知ってもらいたい、といえばいいかな。

編集部注:マクロは「巨視的」、ミクロは「微視的」と訳され、学問分野によって意味が異なる。村本先生の専門の社会心理学では、社会の仕組みやそこで起こる現象といった、大きな規模の対象に注目することを「マクロ」、個人の行動や細胞の反応といった、社会や人体の構成単位に着目することを「ミクロ」と呼ぶことが多い。

カズコ 学会に参加するような研究者たちのあいだで議論になっていることに触れるってことですね!なんか、急に「学問」って感じがしてきました。
村本 あとは、「この領域ではここまでわかっているけれど、ここから先、まだ問いが残っていて、みんなだったらどの切り口で考えてみる?」ということを考えてもらったり。
カズコ そっか!そうしていろんなアプローチを知ったうえで、自分の関心に取り組む卒論について考えましょう、ということを先生は考えているんですね?
村本 カズコさん、鋭い!そういうことなのよ。

トピックではなく、切り口

カズコ 高校生は、大学に入ったら、ジェンダーとか、環境とか、こういうトピックのことをやりたいよね、ということは考えているけど、どういう切り口でっていうことは、考えたことはなかったです。
村本 うーん、「トピック」ということでいうと、どんなトピックであっても、私たち社会心理学研究室の教員は卒論指導をすることができると思うのね。教員はみんな実験もするから、学生の関心があるっていうトピックについての実験へと導くことはできると思う。
だけど、教員によって、どこに一番注目して実験をデザインするかが違ってくるかな。さっきから話しているように、切り口が違うから。
カズコ マクロの切り口からみるか、ミクロの切り口からみるか・・・。
村本 そう、私自身は、社会とか、文化とか、マクロな視点からの研究に取り組んできたから、そういう切り口で卒論を書きたい、っていう学生向きのラボっていえるかな。

村本由紀子先生

カズコ 村本先生は優しそうだから、指導教員は村本先生で!ていう決め方じゃまずいんですね。
村本 (笑)。やっぱり、問いの立て方とか切り口が自分とぴったりくる教員の指導をうけることこそが、ワクワク感につながると思うからね。
カズコ なるほど~。なんとなくわかってきました。
村本 あと、3年生のゼミでは、「これをみんなで議論したい」というトピック出しも学生たち自身にやってもらっています。自分たちで考えたトピックなので、議論も盛り上がっていますよ。 もちろん、状況によっては、私が助け舟を出すこともあります。

今日のまとめ

● ゼミは、受講者全員で同じ論文や本を読み、その内容について話し合う「輪読」や、卒業論文の指導など、様々な形態で行われる。
● それぞれの学問分野にはいくつかの「切り口」があり、これを理解することが3年生のゼミの大きな目標の1つ。

第2回に続く

取材/2021年10月
取材・構成・文・図/タカハシカズコ(「キミの東大」ライター)
撮影/学生サポーター・福澤治幸
企画/タカハシカズコ、「キミの東大」企画・編集チーム