• TOP >
  • 研究室探訪 >
  • VRで私たちの生活は変わりますか?―情報理工学系研究科・雨宮智浩准教授(3)

VRで私たちの生活は変わりますか?―情報理工学系研究科・雨宮智浩准教授(3)

2021.05.07

研究室探訪

#研究 #研究 #情報理工学系研究科 #情報理工学系研究科 #東大の先生 #東大の先生 #VR #VR

研究室探訪_雨宮准教授

【研究者に聞く】第3回 VR研究の最先端、VRが作る未来。

VR技術を社会で役立てるための研究拠点「東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター」の准教授、雨宮智浩先生に、VRと私たちの生活についてお話を伺う企画。第3回は、VR研究とその未来についてお話していただきました。想像していたよりもずっと複雑なVR研究の世界…。でもその先にはより良い未来が待っているようです。VR研究に興味のある高校生・受験生のみなさんへのメッセージもいただいていますので、ぜひ最後まで読んでみてください!

PROFILE

雨宮 智浩(あめみや ともひろ)
東京大学大学院情報理工学系研究科・連携研究機構バーチャルリアリティ教育研究センター 准教授

山梨県生まれ。2002年東京大学工学部機械情報工学科卒、2004年東京大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻修士課程修了。日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所を経て、2019年より現職。この間、英国University College London認知神経科学研究所客員研究員兼務。博士(情報科学)(大阪大学)。人間の知覚特性や錯覚を応用した情報提示研究に従事。

「VR研究=VR装置を作る」ではない?

――ここまで、VRの開発には人間の感覚を理解することが不可欠だということを学んできました。では、人間の感覚を理解するための研究とは、どのようなものなのでしょうか?

人間の感覚を理解するためのアプローチは様々です。感覚そのものを理解するために脳の研究になる場合もありますし、体に刺激が受容されてから人々の感情が生まれるまでのメカニズムを理解したい場合は生理学的な研究になることもあります。

――様々な専門分野が関わっているということですか?

VR研究はまさに「学際的」という言葉がぴったりくる領域です。工学部以外にも、医学部や、文学部で心理学を研究してきた人など、多様な学問領域で経験を積んできた人が集まっています。海外ではニューロサイエンス(神経科学)が専門の人も多いですね。

――専門分野が違う人とともに研究していくことは難しくはないのでしょうか?

VR研究者は専門こそバラバラですが、「VRを通して人間を理解したい」という知的好奇心を共有していると思います。私たちは、「人間がなぜVRを本物のように思えるのか」という問いを、VRを作りながら検証しているんです。お互いの専門分野は違っても、根本の問題意識を共有できているので、いいとこ取りをしながらVR研究の質を上げていけるのではないかと思っています。

研究室探訪_雨宮智浩准教授
学会には様々な専門分野の研究者が集まる(※コロナ禍以前の様子)

――専門分野が異なる人は、それぞれ役割分担をしながら研究しているのでしょうか?たとえば先生のような工学系の専門家がHMD(Head-mounted Display、いわゆる「VRゴーグル」)などのVR装置を作って、感覚を測定するのは心理学者がやる、とか・・・。

もちろん異分野で構成されたチームで研究することもありますが、VR研究ではそういった明確な役割分担があることはまれで、ほとんどの研究者は研究の手続き全般に携わります。私の場合は、もちろんVR装置を作ることも研究の一環ではありますが、実験したりデータを解析したり、人間の触覚の仕組みを理解するために必要なことを一通りやっています。
それに実のところ、HMDなどのVR装置を作ることを最終目標にして研究に取り組んでいる人は、VR研究者の中にもそれほど多くはないんですよ。

――そうなんですか。

たとえばHMDの場合、2016年頃から企業が開発した安価で高性能なデバイスが市場に出回るようになりました。このように、装置を作ることだけに限って言えば、研究者よりも産業界の方が得意なこともあるんです。ですから、個人的にはやはり、人間の感覚の根本を探究するという研究者としての目線を大切にしながらVRの発展に貢献したいと思っています。

――産業界のVR開発と、研究者のVRへのアプローチの仕方は異なるんですね。

そうですね。商業的な成功や社会での普及を目指す産業界は、装置をどう使うかはユーザーに委ねます、というスタンスでとりあえず装置を作って売り出すということもあり得るんですが、我々研究者にとっては、何か装置を作るにしても、その装置を使う効果を実験などを通じて客観的に示すことが重要になってきます。ただ、自分たちの研究を社会に役立ててもらうことは私たち研究者にとっても大事なことなので、しっかりとした研究の手続きをとりながらも、ある程度のスピード感で研究成果を実用に移すことを意識してやっています。

長大なVR研究の道のり

――先ほど実験の話が出ましたが、VRの実験はどのように行われるのですか?

私の研究関心は触覚、つまり、柔らかい・硬いといった触感、熱い・冷たいといった温度の感覚、重さなどの力感覚、歩いている感じといった身体感覚といった人間の感覚にあります。研究は、まず自分がどの触覚を研究したいのかを決めて、その触覚について調べるための実験装置を作るところから始まります。

研究室探訪_雨宮研究室
雨宮先生の研究室で開発された実験装置の数々
(c) 東大VRC雨宮研究室

――そこで工学系の本領が発揮されるんですね。

はい。しかも装置は1回作ったら終わりではなくて、実験しながら課題を洗い出して改良する、という手順を何度も繰り返して、正確な実験ができるような装置に仕上げていきます。さらに、実験に使用する他の機材との相性を考えて装置を作り直さなければならないこともあります。たとえば、脳のはたらきを見るためにfMRIを使う場合、発熱や吸着事故の恐れのある磁性体は使えなくなります。

――どういう実験を行うかを見据えて装置を作っていくんですね。今fMRIの例を出していただきましたが、その他にはどんな方法で実験を行うのですか?

fMRIは、脳内の血流の変化を見て刺激の受容にどの脳の部位が関わっているのかを調べる実験で活用することが多いですね。同様に脳のはたらきを調べる実験で言うと、安全を確保したうえで脳の機能の一部を一時的に抑制した状態にして、刺激を与えて体がどう反応するかを調べるTMSやtDCSという方法も注目されています。

あとは、刺激に対する生理的な反応を調べる実験の場合は、心拍数や発汗量を測定することもあります。あるいは、行動やふるまいの変化から影響を推測することもあります。

それから、感覚というのは私たちの主観の領域にも関わるので、実験の被験者に対して直接質問することもあります。それも、イエス・ノーで答えられるような簡単な質問の場合もあれば、「どの程度歩いている感覚がありますか?」という質問に対して7段階くらいで評価してもらうような質問になることもあったり、様々ですね。

――目的によってどういう実験をするかも様々なんですね。

そうですね。だから研究上で直面する問題も多種多様なんです。装置が動かないという問題でつまずくこともあれば、選んだ実験方法が研究目的に対して適切なのかどうかで迷うこともあります。ですから、色々な専門分野の研究者と情報交換しながら研究を進める必要があるんです。

――先ほどおっしゃっていた「横のつながり」がここで重要になってくるんですね。

VRの未来はどうなる?

――ここまでVR研究の一般的な方法について教えていただきましたが、雨宮先生は今後どのような研究に携わっていかれる予定ですか?

最近、新型コロナウイルスの影響で「外を出歩く」とか「触れる」といった体験が著しく制限されるようになってしまいましたよね。そういった制限によって失われた感覚をどうやって補うことができるかを研究していきたいと思っています。


雨宮先生が開発中の歩行実験装置
(c) 東大VRC雨宮研究室

――「失われた感覚を補う」方法としてはどういったものがあり得ますか?

たとえば触覚の通信ですね。今の通信技術で伝えられるのは視覚と聴覚の情報に限られます。視覚にはモニター、聴覚にはスピーカーがあるように、触覚を伝えるための共通の基盤をどのように作れるのかといったことを考えています。

――そういった基盤があれば、物理的距離を保ちながら誰かと握手したりできるかもしれないですね。そうすればお互いの心理的な距離も近づきそうです。

あくまで疑似体験ですが、そういったことも可能になるかもしれません。それから、外を出歩く感覚を補うための研究も進めています。ゲームやソーシャルVRアプリなどでコントローラーを操作してVR空間を歩き回る体験をしたことがある人は多いと思うんですが、それに歩行感覚を追加して、実際にVR空間を自分の足で歩いている感覚を再現したいと思っています。

――家にいながら外を出歩けることは、今私たちが最も必要としている体験かもしれません。

はい。でもコロナ禍に限らず、「触りたいのに触れない」「外に出たいのに出られない」という困難は、実はこれまでも私たち人間が直面してきた問題だと思います。ですので、いわゆるアフターコロナの時代への応用も見据えて研究を進めています。たとえば歩行感覚の研究は、将来的にはリハビリに応用されることも期待しています。こういった医療・福祉分野へのVR技術の応用も、VR研究で盛り上がりつつあるテーマの1つです。さらにいえば、外に出るのを我慢できない人の気持ちを理解して、そういった人たちの生活の質をどのように担保していけるかを考えられるようになるかもしれない。相手の立場に立てるというのはVRならではなんですよ。

――VR研究の可能性はとてつもなく大きいんですね。

東大でVR研究という選択肢

――これからVRの研究に携わりたいという高校生・受験生も多いと思うんですが、東大でVR研究を行うことの魅力はどこにあると思いますか?

まずはバーチャルリアリティ教育研究センターができたことで、東大の中でVR研究がどのように行われているかが見えやすくなりました。これから研究に足を踏み入れる人にとって良い道しるべになればと思っています。

研究室探訪_雨宮准教授_VR教育研究センター
バーチャルリアリティ教育研究センターの概要。
VRに関する多様な研究が、相互に連携しながら行われていることがわかる。
(c) 東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター

それから東大には優秀な学生が多いので、友人同士で協力しながらVRの開発に取り組めることも大きな魅力だと思います。さらに、学生が発信した成果が教員の目に留まって、大きなプロジェクトにつながることも増えてきました。たとえば、先日のオープンキャンパスで公開された「バーチャル東大」は、もともと東大のサークル(UT-virtual)で取り組んでいた企画や開発力が教員に評価されて、東大公認のプロジェクトに発展したと聞いています(※)。学生が中心となって作りあげた好例ではないでしょうか。

――学生でも大きなことにチャレンジできる機会が東大にはあるということですね。

はい。私の研究室も含め、研究室配属前の学生をインターン生として受け入れているところもあります。色々な関心を持った学生に会えることは私たち教員にとっても刺激になるので、VRに興味のある人は、東大に入ったらぜひ「こういうことにチャレンジしたい」と積極的に発信してほしいですね。


2020年度オープンキャンパス(オンライン開催)で公開された「バーチャル東大」。東大の学部学生が制作して話題となった。

――「東大でVRの研究をしたい!」と気持ちを奮い立たせた高校生・受験生も多いと思います。本日は面白いお話をたくさん聞かせていただきありがとうございました!

※「バーチャル東大」を制作した教養学部2年(当時)の所壮琉さん、工学部3年(当時)の中川雅人さん・西澤優人さんが、一連の活動で令和2年度の東京大学総長賞を受賞しました。こちらのページでは、所さん・中川さん・西澤さんからのコメントを見ることができます。
 

取材/2020年12月
インタビュー・構成/「キミの東大」企画・編集チーム