【開催レポート!】2022年度 第3回 学校推薦型選抜オンライン説明会―現役推薦生と交流しよう
学校推薦型選抜(推薦入試)
2023.01.24
2019.03.02
【よくわかる東大推薦入試】
高大接続研究開発センター・入試企画部門、濱中淳子教授が語る、東京大学の推薦入試の狙いと魅力
2016年度からスタートした東京大学の推薦入試(※)。概要については全学ウェブサイトや大学案内にも記載されていますが、東京大学がどのような思いで推薦入試を始めたのか、推薦入試で入学した学生は、前期日程試験で入学した学生と何が違うのかといったことについて、さらに詳しく知りたい人も多いはず。そこで、推薦入試の導入経緯、目的やその特徴、意義について、東京大学高大接続研究開発センター入試企画部門の濱中淳子教授に、2回にわたって伺います。
(※現在、推薦入試は学校推薦型選抜に、また大学入試センター試験は大学入学共通テストへと名称が変更されていますが、記事内ではインタビュー時の名称のまま表記しています。)
――東京大学は言わずと知れた、全国でもっとも「偏差値」の高い大学です。入学者選抜も良質な学力試験を課し、その点数で決めるという方法を久しくとっていたわけですが、その東大が2016年から推薦入試を開始したと聞いて、驚いた人も多いと思います。
なぜ、学力試験以外の方法である推薦入試を始めることになったのか、その背景について教えてもらえますか。
わかりました。それではちょっと長くなりますが、順を追ってお話ししますね。
まず、東京大学が来てほしいと期待する学生像というのは「高い学力を持つ学生たち」であることに違いはないのですが、もう一歩踏み込んでいうと「総合的な学力を獲得した学生たち」というところに大きな特徴があります。
東大の入試は、大学入試センター試験の後、前期日程試験(=二次試験)によって合否が決まるわけですが、その試験科目は理系でも数学と理科(2科目)にくわえて外国語と国語があり、文系でも国語、外国語、地歴(2科目)にくわえて数学があります。ですから理科、文科と分かれていても、文理どちらの力も見る総合型の試験を課しています。
言い方を変えると、東京大学は、学生たちには総合的に学力を伸ばしてきてもらいたいと思っている。そしてそれが入試のあり方に反映している。まずは、そのことをお伝えしておく必要があるかと思います。
――偏りのあるタイプではなく、全科目に満遍なく高い学力を持った学生を求めてきたということですね。
というのも、本学に入学した学生は全員、まず前期課程(教養学部)に入り、2年間幅広く教養科目を学ぶことになっているからです。そして3年以降、2年次の「進学選択」で決まった学部学科に進み、専門性を極めていくことになります。「レイト・スペシャリゼーション(Late Specialization)」と呼ばれる教育システムです。
他の多くの大学が受験時に法学部、経済学部……と学部(・学科)を決めて入学しその歩みをはじめるのに比べて、東大は入学した後に専門を決める。これが他の大学には見られない、東大ならではの特徴をなすものなんです。
――リベラルアーツ教育を重視しているところに東大の特徴があるということですね。
はい。ただ、総合型という学生像をメインに据えながらも、一方で学生の多様化も重視する。ここが、推薦入試を理解するポイントになります。
――偏りが生まれるのはある面、仕方がないことのようにも思えますが、なぜ多様化が重要なのでしょうか。
東京大学がこれまで担ってきた学術的役割は強調されるべきものですが、そのうえで申し上げれば、優れた学問、研究は、多様なメンバーが関わってこそ実現するという側面があります。様々なものの見方、様々な価値観、様々な知識を持ち寄ってこそ、知は発展します。
そしてこの「多様性が大事」というのは、何も教員だけがそうであればいいという話ではありません。学生たちも、そこに多様性があれば、お互い刺激し合えることになるわけです。そして、教員と学生との間の相互作用も活発になる。言ってみれば、多様性が確保されることによって「わくわくする環境」が生まれるんですね。
ところが、近年、東京大学では学生の画一化がみられる。具体的にいうと、首都圏出身者が半分、私立高校卒が3分の2、男子が8割という状況です。3つの偏りが課題になっています。東大としてもこの偏りをなくし、多様化を進めるためにさまざまな努力を重ねてきました。その努力、試みの1つが、推薦入試導入ということになります。
――多様化を促進するためにこれまでどのような対策がなされてきたのでしょうか。
推薦入試が始まるまで行われていた「後期日程試験」のことまで遡って説明するほうがいいかもしれませんね。
1980年代末、入試で分離・分割方式がとられるようになってから、本学でも「前期日程試験」「後期日程試験」の2つの入試を行っていました。そして学生の多様化を目指す本学としては、「後期日程試験」の試験問題を、「前期日程試験」のそれとは違うものに、ということを強く意識していました。タイプの異なる問題を出題することで、多様性を図ろうとしていたわけです。
ただ、いくら試験問題を工夫しても、「後期日程試験」の実施時期までは変えられない。ここに大きな悩みがありました。当然ですが、「後期日程試験」は、「前期日程試験」の後に実施される。そのため、「後期日程試験」を受験するほとんどの人たちが、「前期日程試験」を受け、「前期日程試験」では合格しなかった人たち、という構図になっていたんです。
――「後期」で多様化を狙ったにもかかわらず、そこで合格した人たちは「前期」受験者と変わらない層だった、と。
その通りです。「前期日程試験」「後期日程試験」の方法だと、受験者層の多様化をもたらすまでに至らないわけです。加えて別の課題もありました。つまり、少なくない「後期日程試験」の合格者たちが、「前期日程試験に合格できなかった」という、持たなくてもいいコンプレックスを持つということが起きてしまったのです。
本来、「後期日程試験」で合格した人は、「前期日程試験」とは性格の異なる試験をクリアした学生であって、そのことを誇りに思って入学してもらいたいわけです。でも、入試が実施される順番が「前期」⇒「後期」となっているために、望ましくない力学が働いてしまったんですね。
こうした問題を解決しようと、はじめは「後期日程試験」という枠組みを維持した中での改革が試みられました。たとえば科類ごとに問題を別にしていたのを、文系と理系の2グループに分けて、グループ間は共通問題にするといったことなどです。
ただ、それだとなかなか大きな変化が生まれない。そうした中で濱田純一・前総長が、「もっと根本から見直そう」と決断しました。
では、どうすればいいのか。さまざま可能性を視野に含めながら議論を重ねた結果、多様化という問題をクリアするには、「前期日程試験」よりもさらに前に、「前期日程試験」とは異なる入試を行うのがいいのではないか。それによって従来の総合型とは違う強みを持つ学生を取り、多様化を図ろう。そのような判断にいたったわけです。
――試験の時期を「前期日程試験」より前に持ってくることに決めたことと、それが推薦入試になったことには何か関係があるのでしょうか。
まず、日本の入試制度上の問題です。「前期日程試験」よりも前の時期に実施する方法は、「推薦入試」と「AO入試」の2つしかありません。そのどちらかを選ぶことになるのですが、「AO入試」は自分で自分を推薦するものですから、明確な基準が設定しづらい面があります。やはり高校の先生方の協力のもとで、しっかりとした新しい選抜に取り組みたい。このように考え、推薦入試という方法をとることになりました。
ですから、改めて申し上げれば、「時期」と「大学と高校とのつながり」という2つの観点を意識して改革を行った結果が、「後期日程試験」の廃止、「推薦入試」の導入ということになります。
――前期日程試験と推薦入試とのあいだに、学力試験か否かという点以外の違いはあるのでしょうか?
はっきりとした違いがあります。
「前期日程試験」からいえば、それは6つの科類別に学生を選抜するという方法を取っています。受験生も文科一類に出願、文科二類に出願…といったように、各科類に出願しますよね。他方で「推薦入試」は、各学部が入学者を選抜する、いわば「学部入試」の方法をとっています。ですから、各学部が設定した要件・条件にかなうかどうか、そこが鍵となる選抜が行われるわけです。
――科類に入学するのと、学部が決まって入学するのとでは、大きく違いますよね。入学後に受ける教育も違ってくるのでしょうか。
そのとおりです。誤解がないように先に断っておきたいのですが、推薦入試で入学した学生は、まず入学した学部にもっとも近いとされている科類(法学部なら、文科一類といった具合い)に所属していただき、科類に課された前期課程(教養学部)の授業を受けていただきます。その点では、前期日程試験で入学した学生も、推薦入試で入学した学生も同じです。ただ、こうした共通点とは別のところに違いがある。大きく2つの特徴が指摘されるように思います。
1つ目は、学部2年次の「進学選択」を意識しない自由な学びができるという点です。学部(・学科)が決まって入学するわけですから、自分が望む学部・学科に、赤点さえとらなければ進学できるわけです。言ってみれば、プレッシャーがないなかで、学びを進めることができる。このことを魅力的に感じる推薦入学者も少なくないのではないでしょうか。というのも前期日程試験で入学した学生のなかには、教養課程の成績が思うようにとれず、希望の学部・学科に行けない人も出てきます。人気の学部学科は希望者も多く、最終的には成績で振り分けられますからね。
2つ目は、「早期専門教育」が施されるということです。先ほど、東大の特徴は、レイト・スペシャリゼーションだと申し上げましたが、推薦入試で入学した学生には、前期課程(教養学部)のときから、教養教育と並行して専門に触れる機会が提供されます。学部にもよりますけれども、履修の前倒しができたり、夏季休暇期間には研究室で何らかの体験をしたり、といったことが行われます。その点で、3年生から専門課程に入る他の学部生とは大きな違いがあります。
さらに、1年次からアドバイザー教員がつき、個別に助言・支援を受けるなど全面的なバックアップ体制が用意されています。
――多様化を狙ったのはわかりますが、早期専門教育という大きな改革まで同時に行ったのは、何故なんでしょうか。
レイト・スペシャリゼーションは本学の大きな強みだとは思うのですが、高校生の中には、自分が進みたい道ははっきりしているのだから、少しでも早く専門のことをやりたい、早く先の授業を聞きたい、先輩たちと一緒に研究室に入って何か体験してみたいという人もいるはずです。
そういう人たちからすれば、東大で早期専門教育が受けられるというのは、大きな魅力だといえるように思います。東京大学としても、「行きたい学部(・学科)に進学できるかどうか、進学選択のふたを開けるまでわからない」「専門を学ぶまでに時間がかかる」という理由で東大進学を選択肢から外してしまう優秀な高校生がいるとすれば、それは避けたいところでもあります。
――改めて選抜方法のところに話を戻すと、東大の推薦入試は、学部によって多少の違いはあるものの、基本的には志望理由書と面接が核になっています。個人の高校時代の活動や個人的な研究を評価するというのは、東大の歴史を考えると随分、思い切った内容だなという印象があります。
高校生たちの中には、高校時代から、あるいはもっと前から、自分の関心に沿って一生懸命動いている人たちがいます。通っている学校の学習活動に精を出す人もいれば、部活動で、あるいは学校を離れた場でいろいろ取り組んでいる人もいます。いろいろなところで提供されているプログラムを利用して海外に行って何かを調べてくるとか、ボランティアを体験するといったことに挑戦している高校生もいます。科学オリンピックなどへの挑戦、「○○甲子園」といった大会に情熱をかける高校生もいます。
このような活動に取り組んできた人たちにとって、推薦入試は自らの行動の記録を発表する場にもなるわけです。実際に推薦入試で合格した学生に話を聞くと「自分が高校時代にやってきたことがどういうことだったのか、振り返りのチャンスになりとてもいい経験でした」と皆さん話します。
自分が高校で取り組んできた体験が評価されることは自信にもなりますし、自分の関心を貫いて、時間や情熱を注いできてよかったと感じてもらえるのではないかと思います。
――しかも東大の先生に聞いてもらえるというのは、高校生にとって貴重な体験ですね。
――とはいえ東大が推薦要件として提示している事例を見るとハードルは高いですよね。やはり相当レベルの高校生でなければ推薦を得られないのでは?
○○オリンピック、という要件が独り歩きをしているように見受けられますが、先ほども言いましたように、東大の推薦入試は、いわゆる「学部入試」です。学部によって要件は様々であって、また、○○オリンピックというのは、分かりやすい事例として挙げただけだというところがあります。事例として挙げたことのインパクトを払拭したいという学部が、推薦要件の表現を修正するということも行っています。関心のある方は、ぜひ、募集要項を丁寧にみてください。そして、「自分がやってきたこと」と「関心のある学部が要項に書いていること」を照らし合わせて、可能性を探ってみてほしいと思います。
学校長の推薦が必要な推薦入試ですが、自分から「私を東大に推薦してください!」と学校に掛け合ってもいいわけです。「我こそは」と思う全国の生徒にチャレンジしてもらいたい、というのが東京大学の思いです。
定員枠の小ささに不安を感じ、躊躇する人もいるようです。たしかに推薦入試の定員枠は全体で100人程度、それを各学部に割り振っていますから、学部によっては数名というところもあります。
しかし、自分でハードルを作ってあきらめる前に、ぜひ高校の先生などに相談して、まずは可能性を探っていただきたいし、意欲を持ってチャレンジしてもらいたいと私たちは思っています。