【開催レポート!】2023年度 第3回 学校推薦型選抜オンライン説明会―現役推薦生と交流しよう

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【開催レポート!】2023年度 第2回 学校推薦型選抜オンライン説明会

東京大学では学部教育の総合的改革の一環として、学校推薦型選抜(以下、本選抜)を導入しています。制度開始より一貫して、特定の分野における卓越した能力やさまざまな学問領域に対する極めて強い関心・学びの意欲を持つ学生を募り、学生の多様性を促進して、学部教育を活性化することを目指しています。
東京大学高大接続研究開発センターでは、今年度も全国の中高生を対象に、オンラインでの説明会を開催。本選抜のねらいや概要を伝えると同時に、本選抜で入学した現役学生(推薦生)との交流を通じ、制度に対する理解と興味を深めることが目的です。
今年度第3回目の開催となる12月16日の説明会は、令和6年の本選抜出願後の開催のため、高校2年生以下を対象とし、後日の動画視聴も含めると260名ほどのエントリーがありました。当日、彼らを温かく迎え入れるのは約40名の推薦生です。推薦生の深い探究心や、充実した学生生活が伝わる模様をダイジェストでレポートします。

準備を経て「大学で何がしたいのか」が見えてくる

冒頭のあいさつでは、東京大学副学長で文学部教授の秋山聰先生が登場し、本選抜の受験を検討している中高生に向けて、心のこもったメッセージを述べました。

秋山先生「本選抜を担当する立場からまず伝えたいのは、この制度では各種の学術オリンピックやコンクールの入賞歴、留学経験といった、華々しい実績のある人だけを求めているわけではないことです。そもそもそうした表彰制度のない分野で、信念にしたがって精力的に活動している高校生もたくさんいるはずです。本選抜ではみなさんが所属する学校からの推薦の言葉を真摯に受け止めて、特性を見極めたうえでの判断をとても大切にしています。

そして、本選抜の最大の特徴は、体験活動の側面を持つことです。みなさんの日ごろの活動や課題意識について、各分野の専門家である本学の教員に伝え、意見を聞き、質疑も行える貴重な機会といえます。本学の学生でも、一般選抜だと専門科目の教員と直接話すのは3年になってからというのも、珍しいことではありません。高校生の時点で取り組みをレビューできることは、選抜の合否によらず自身の糧となるはずです。
ですから“敷居が高い”と敬遠せず、迷っているくらいならぜひ挑戦してほしいというのが私たちの願いです」

続いて、進行役を務める教育学研究科准教授(高大接続研究開発センター兼担)の植阪友理先生より、東大の特徴や本選抜について解説しました。中でも重点が置かれたのは、本選抜で入学した場合の独自の学修のしくみです。

植阪先生「本選抜は出願時に3年次に進学予定の学部を決めることで、前期課程の教養も大事にしつつ、早い段階で専門教育に触れる機会を保障しようというものです。前期課程(1、2年)の教養教育を経て専門の学部を決める、一般選抜入学との大きな違いです」

このことに関連し、高大接続研究開発センター特任教授の高橋和久先生が、次のようにアドバイスしました。

高橋先生「東大で学ぶにあたり、本選抜と一般選抜との間に良し悪しはありません。人によって向き不向きがあります。出願の前にじっくりよく考えてほしいと思います。

というのも、東大生の中には『前期課程で学ぶうちに、自分のやりたいことがやっとわかってきた』という人が、少なくないからです。大学で初めて本格的な学問に触れて、高校までの勉強との違いを認識する、また前期課程やいろんな学習プログラムを通じて、探究したいテーマとの出会いを果たすといったことが起こり得ます。ですから、今の時点ではやりたいことがおぼろげで、何となくしかわからないというのであれば、一般選抜に絞ったほうが賢明といえます。

とはいえ、本選抜で入学した学生でも、志望理由書を作成するなど出願準備を進める過程で、『大学で何をしたいのかがはっきりした』という人が多いのも確かです。自身がこれから進むべき道を考えるときに、どうして自分はこの問題に取り組んでいるのかと、これまで辿って来た道を振り返ることになります。そのときに『私はこれまで○○だったから、これから進むべきは××ではないか』と明確なイメージが沸くようなら、本選抜を試すに値するのだと思います」
 

やりたいことが明確だからこそ、幅広く学ぶことが大切

制度の概要がつかめたところで、推薦生による話題提供に移ります。司会進行は、同じく推薦生の川瀬翔子さん(農学生命科学研究科修士2年)と板谷舞華さん(教育学部3年)が務めました。発表した3名の推薦生たちは、学年や専攻、出願の動機は異なるものの、自身の興味や関心が原体験に基づくという点で共通していました。

日浦萌々音さん(理科二類1年、農学部進学予定)

小学校の頃、環境問題に漠然とした危機感を抱えていた日浦さんは、中学で運命的な出会いを果たします。それは「環境微生物学」の分野でした。

日浦さん「中3のときに生態系における微生物の役割を知り、『わたしのやりたいことはコレだ…!』と心が決まったのです」

高1からは大阪大学のプログラムに参加し、ウキクサの根の周辺に生息する微生物の、水中の有害物質を分解する機能について研究を始めます。2年間にわたる活動により見えたことは、ひとつの問題について多面的に検討することへの関心と、生物が持つ機能の応用研究に対する情熱でした。

日浦さん「この両方を満たす環境は、私の中では東大しかありませんでした。前期課程で分野を問わず幅広く学べるうえ、応用研究ができる大学は限られていたからです」

とはいえ、自身の研究に取り立てて実績がないことから不安も大きかったため、高3の春から本選抜に向けた準備を始めます。

日浦さん「夏休みの忙しい時期に焦らずに済み、何度も提出物を推敲して精度を高められました。一方で、本選抜の準備に偏り過ぎないように取り組みました」

東大入学後、自身の選択は間違いではなかったと確信しています。

日浦さん「やりたいことが明確だからこそ、前期課程では幅広く学ぶことの大切さを実感しています。実際『環境問題でもこんな切り口があるのか』と、いろんな気づきを得ているところです」

農学部主催のOne Earth Guardians育成プログラムでの企業へのインターンに参加するなど、さまざまな活動を通し、環境問題と微生物への探究を続ける日々です。

宮島梧子さん(教育学部3年)

小学生の頃、ご家族の転勤が多かった宮島さん。東日本大震災が起こった2011年当時、岩手で体験したさまざまな出来事は、宮島さんの課題意識として影響を与えることになります。

宮島さん「数年後に首都圏で暮らすようになり、東北地方と首都圏での3.11や防災に対する認識のギャップに驚きました。そのような中で、中学の国語で『聞き書き』についての授業があり、この手法を震災伝承に応用できるのではと考えるようになりました」

その後は、個人的に研究を始め、平和活動や聞き書きにまつわる企画に次々と参加、学校の外にネットワークを築いていきます。三陸地域を取り上げた本郷キャンパスでのイベントにも足を運び、東大の先生方と関わる機会もありました。

これらの活動を通して「人が互いに歩み寄る関係を築く、教育的なアプローチ」に関心を持つように。活動で出会った方の「せっかくなんだから、挑戦してみれば?」というひと言が、本選抜にチャレンジするきっかけになりました。

宮島さん「大学では、オンライン留学プログラムに参加したり、早期履修制度を使って専門科目を受講したり、高校時代の活動の中でつながった方と青ヶ島というおもしろい島に出かけたりと活動的に過ごしています。」

現在は、各県の特産品を置くセレクトショップの経営にも参画。さらに、1年のときにNPOのインターンとして半年間過ごした岩手県大槌町で教育実習を行う準備を進めています。

宮島さん「本選抜の準備を通し、高3時点での『学びの現在地』を形にすることができました。私にとっては、今も立ち返る場所のひとつです。進学後の活動につながる収穫の多い体験になりました」

本多一貴さん(工学部4年)

幼少期に祖父がつくっていたケント紙の紙ヒコーキに始まり、飛行機を作って飛ばすことに夢中になった小学生時代、そしてラジコン飛行機の飛行実験に取り組んだ高校時代。となれば、大学では航空宇宙へと進むのも自然な流れ。本多さんは、高校で進めていた環状翼飛行機(翼がひとつなぎの輪の形をした飛行機)の研究をより深める気持ちで進学します。

本多さん「高3の4月に先生から本選抜を紹介され、取り組んできたことを校外の研究会や学会で発表しました。研究をまとめながら、『探究心や仮説検証力など、学科試験では測れない資質には自信がある。自分は本選抜に向いているのでは?』と思うようになりました」

入学時はコロナ禍と重なり、授業がオンラインに。友達との関係づくりや気持ちの切り替えに苦慮した反面、推薦生ならではの早期履修をキャンパス間の移動なくできたことは、ラッキーだったと振り返ります。

本多さん「1、2年で早期履修をしていたのに、3年の1年間は人生で一番勉強した時期と胸を張れるくらい課題に明け暮れて大変だったけれど、『航空宇宙って楽しい!』と、心から思いました」

そして、4年次には高校時の研究テーマを発展させ、環状翼飛行機の構造と設計を卒業研究の題材に。研究の末、この機体形態に大きなメリットはないことが明らかになりました。

本多さん「喜ばしい結論ではないかもしれないけれど、推薦で東大に入った目的が達成されたという意味で嬉しかったです!研究したいものが明確だったことが、学びのモチベーションに繋がっていました」

来春からは大学院に進学し、複合材の研究に取り組む予定の本多さん。モノづくりを通じて、人の役に立つことが将来の夢だといいます。
 

推薦生たちの溢れんばかりの好奇心に圧倒!

休憩を挟み、いよいよ推薦生とのグループ交流の時間です。少人数に分かれ、数名の推薦生と大学での生活や進路のことなどについて自由に語り合います。また本編終了後には、「法律・政治・経済」や「ものづくり」など、10のテーマに分かれての交流タイムも設けられました。ここではグループでの対話の一部をご紹介します。

高校生A「オリジナルの経験」が大事とはいえ、学業がおろそかになるのが不安です。先輩方はどのように両立を図っていましたか。

  • 自分なりの経験を得るのは、時間が要ることだと思うんです。となると、腰を据えてしっかり取り組めるのは、長期休みではないでしょうか。夏休みや冬休みなどまとまった休みで、普段は参加できないプログラムにエントリーするのがよいと思います。ただ、学校の勉強は優先度を高く位置づけていました。
  • 同感です!予備校や塾には通っていなかったので、学校の授業や板書、教科書や副教材が、そのまま受験対策につながっていった気がします。そして夏休みに地方の農家にインタビューしたり、冬休みに学習ボランティアに参加したりと、探究活動は長期休みを利用していました。

高校生B「東大での人間関係って、高校までとどこが違いますか?」

  • シンプルに楽しい!関心のある学びのテーマもみんな個性的。コミュニティーも前期課程のクラスに限らず、部活にサークル、課外プログラムなど、自分の居場所をたくさんつくれるのは、東大ならではの気がします。
  • 好奇心旺盛で、互いに高め合えて、自分のことを素直に話せて、その話を面白がってくれる人が多いです。人とのつながりが広がって、精神的にも成長できる。今は大阪から出てきて、本当によかったと思っています。
  • 推薦生同士のつながりも面白いよね。私は文系でジェンダーについて関心があるんだけど、工学部で航空宇宙を専攻している人と「女性の宇宙飛行士がなぜ少ないか」という話になって、視野が広がる体験をしました。

高校生C「今取り組んでいる研究は、高校のときの活動とどう関係していますか?」

  • 高校では化学部にいて、今はDNAやRNAなど核酸による薬の研究をしています。僕は化学の研究に、生物の要素を取り入れることに興味がありました。近年開発されている医薬品は、生体中の物質に近い、高分子のものが増えています。シンプルに化学をやるよりも、広がりが生まれそうと思ったのがきっかけですね。
  • 高校のときに、香りを使ってがんを抑制できないかという研究をしていました。薬学部を選んだのはその延長ですね。がんの抑制といえば抗がん剤と関連が深いので。でも入学して、脳科学の先生の授業を受けたらすごく面白くて! それでマウスの嗅覚にまつわる脳の研究に取り組んでいます。

何事にもポジティブで、溢れんばかりのバイタリティが画面越しでも伝わってくる推薦生たちを前に、参加した高校生は、自分の興味や関心を広げ、行動を起こすことの大切さを受け止めている様子でした。
 
【参考リンク:今後の説明会の開催日程など、学校推薦型選抜の各種情報はこちら】
東京大学ウェブサイト:https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_26.html

取材/2023年12月
取材・構成/たなべやすこ