前期課程・英語体験記
前期課程(1~2年)の学び 2019.03.31
2019.03.30
#英語 #英語 #外国語学習 #外国語学習 #文学部の人 #文学部の人
寄稿:東京大学大学院人文社会系研究科 教授 阿部 公彦(英語英米文学研究室)
英語の学習ではみなさん苦労されるようです。「なぜできない?」「どうしたらいい?」と悩みます。しかも、悩みの種は千差万別。万人に効く特効薬はありません。症状に応じた対策が必要となる。
そこでこの欄では三つほどの症例をとりあげて対策を考えてみようと思いますが、その際に、まず頭に入れておいて欲しいことがあります。「英語は生き物」だということです。イメージをより具体的にするために、「英語は馬である」と考えてみましょう。「英語ができる」は「馬に乗れる」となる。すると以下のようなことが見えてきます。
(1) 馬は動く。
→ 言葉も「運動」です。
(2) 馬に乗るには、馬と仲良くなるのが近道。
→ 英語と仲良くなろう。興味を持ち、接触しよう。
(3) 馬のことを知ろう。癖や性質を学ぼう。
→ 英語を使いたければ、英語のことを知ろう。
(4) 馬は動物臭い。
→ 英語も言葉臭いです。
とくに大事なのは(1)の「運動」です。みなさんは英語を読んだり書いたりして英語に触れますが、そうした作業はどうしても「頭でっかち」で静止的なものになりがちです。英語を使うのは身体的な行為でもあります。読み、書く際も、「リズム」や「ノリ」、「間合い」が大事です。
だから、ちょうど馬に乗る人がカッパ、カッパというリズムを学ぶのと同じで、言葉を乗りこなすなら、その「運動感覚」を身につけたい。それにはどうしたらいいか。すぐに思いつくのは「音を聞く」ことです。でも漫然と聞いてもあまり効果がない。注意したいのは、英語には日本語にはない運動パターンがあるということです。大袈裟に言えば、英語を聞いたり話したりするときには、日本語と違う神経や筋肉を使うのです。
まずは英語ではどう呼吸をし、どう間をあけ、どう小声や大声を使い分けるか、耳を澄ましてみてください。カギになるのは「アクセント」と「切れ目」です。読むときも書くときも、もちろんしゃべるときも助けになります。東大TVの「文学部式リスニング必勝法」という動画で私も解説しているので、参考にしてみてください。
ただしこれは「だからオーラル英語だけやればいいのだ!」という話ではありません。むしろ、逆です。実は読んだり書いたりすることでこそ、私たちは英語の「呼吸」を学ぶのです。spoken Englishとwritten Englishを別物として扱うのは誤り。是非、読書を通して、英語の「声」を聴けるようになってください。
では、この先は、みなさんの「症状」に応じた対策を考えてみましょう。
その1.英語が嫌いという人
馬が嫌いだという人を無理矢理に馬に乗せるのは酷です。無理は言いません。ただ、ひょっとすると「まちがえて嫌い」なだけかもしれない。
まず英語学習の流れをシンプルに考えてみましょう。たとえば、When I visited America, I realized that I needed to study English harder. という文があったとします。英語をまったく知らない人には、それが(1)のように聞こえるでしょう。しかし、単語や語句を勉強すると(2)になる。さらに文法を勉強すると(3)、そして慣れてくると、(4)になります。
4段階の違いがおわかりでしょう。言葉の学習では、こうして段階的に言葉の「切り方」を学ぶのです。言葉は馬のように動きつづけますが、うまく切れれば、その動きに惑わされるどころか、むしろ最大限に活用できるようになる。相手のポイントもわかるし、こちらのポイントも伝えられる。
最終的な到達目標は「強調」です。構文がつくれても、何が強調点なのか、何が本当の「意味」や「意図」かが相手に届かなければダメです。だから、同じことを言ったり書いたりするのに、皆、いろいろと工夫する。
こうなると「工夫」の方法も知りたくなるでしょうが、それは上級者の話。英語が嫌いだというキミ、まずは英語という「馬」に乗るには「切り方」が大事だと、そして、その習得はたった四つのステップでいいと考えてください。学校の授業も宿題も、すべてはこの四つの段階のどこかにつながります。そう考えると、少し見通しがよくなりません?
その2.英語は好きだけど、できるようにならない。
勉強はやった。点数もまあまあ。でも、壁を感じる。いざ、使おうとするとうまくいかない…。そんな人もいるでしょう。しかし、「学校の英語じゃ、だめだ」「受験英語なんて意味がない」と考えるのは早計です。学校の勉強はまずは馬に乗っかり、ゆっくり歩くところを教えてくれる。そこがスタートラインです。
その先、どう進むか、単なる遊歩を楽しむのか、障害物競走か流鏑馬かという選択をするのは、みなさん自身です。希望する進路が医者か、自動車の開発か、スマホのセールスかで、必要とする英語の知識は違います。すべてを一気にカバーする必要はない。ただ、最大の関門は、まずは語彙だということは覚えておきましょう。だから、自分が「これ」と思う領域の表現を集中的に勉強したい。まずは10~20個からスタート。そこから関連する文章を読んだり、レクチャーやプレゼンを聞いたりして、自分の「専門」を広げる。あっという間に領域は広がるはずです。
その3.英語は得意だけど、勉強する気にならない。
これは難題です。何を困っているのか、よくわからない。でも「お悩み解決法」の頁を訪れるくらいです。きっと、何かしらお悩みがあるのでしょう。
そんな人には、(4)であげた匂いの話をしたいと思います。馬と同じで、英語にも生理があります。使う人の匂いもするし、温度も異なる。学習の最中は、そうした差異や異物感は無視しがちだけれど、これらがなければ言葉に血は通いません。
英語が「言葉臭い」とはそういう意味です。使う人の個性が滲み出す。少し難しい言い方をすると、「他者性」がまとわりつくのです。表向きの「顔」や「機能」とは違い、ここは通常は蓋をされた、まさに「臭い部分」ですが、実は言葉の養分がつまった、豊穣なところでもあります。そこが楽しめるようになると、みなさんは言葉の味がわかる「美食家」となれる。そんな仕組みが「おもしろい!」「もっと知りたい」と思えたら、しめたものです。芋づる式に言葉の神秘が見えてきます。もはや、あなたが文学部を進学先に選ぶのも時間の問題でしょう。ようこそ、未来のキミ!
(このあたりについては、拙著『英詩のわかり方』『英語文章読本』『小説的思考のススメ』など参考にしてください。