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建築学では基礎研究と社会に役立つ研究を行き来できます―工学部・藤田香織教授

2018.08.09

研究室探訪

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PROFILE

藤田 香織(ふじた かおり)

1999年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)取得後、東京工業大学建築物理研究センターCOE研究員を経て東京都立大学工学研究科助手に。2000年に同研究科講師、05年首都大学東京都市環境学部准教授、07年東京大学大学院工学系研究科准教授、19年より現職。2003年に日本建築学会奨励賞、05年にJAABE Best Paper Award(Journal of Asian Architecture and Building Engineering, May, 2004)、08年にIABSE Prize(The International Association for Bridge and Structural Engineering)を受賞。

木造建築の構造性能を解き明かす

日本は巨大地震や激しい台風が多く、木は石や鉄よりはるかに弱い建材です。それなのになぜ、法隆寺五重塔や唐招提寺などの壮大な木造建築が作られ、1000年以上も建ち続けてこられたのでしょう? 私は、こうした歴史的な木造大規模建築物の構造性能を明らかにするための研究をしています。

ずっと注目してきたのは、木造建築で屋根の重みを柱に伝える役割をしている「組物」という要素(写真)。本来、建物はつなぎ目がないほうが強いのですが、木材はもともと長さが限られているのでどこかでつながざるをえない。そのつなぎ目が構造の弱点になります。

しかし、木造建築ではつなぎ目となる組物の中にごくわずかな隙間があり、それが地震の揺れをうまく受け流しているかもしれないと言われてきました。私はそのことを様々な実験を通じて確かめようとしています。


木造建築の柱上にあり、屋根の荷重を柱に伝える「組物(くみもの)」。寄木細工のように部品が複雑に組み合わされている
建築物において木材をつなぐ方法(仕口・しぐち)はほぼ無限にある。学生が課題として考え、作った仕口の数々

好奇心を原点とした基礎的な研究と、いま社会に役立つ研究を行き来する

1995年の兵庫県南部地震では歴史的な建物だけでなく多数の木造住宅が倒壊し、多くの人命が奪われました。それをきっかけに古い木造建築の耐震補強の研究にも足を踏み出しました。実は、それまでの日本の建築学では木造建築の耐震に関する研究が少なく、基礎的な知見が非常に不足していたのです。

最近は木造の古い個人住宅をどう補強していくかという問題に加えて古民家再生も注目を浴び、こうした研究の成果はますます強く社会に求められるようになっています。

建築学は、このような点も魅力かもしれません。私の組物の研究のように「どうなっているかを知りたい」という好奇心を原点に建築を追求していく基礎的な研究と、個人住宅の耐震補強研究のように、いま社会が直面している問題に直接的に役立つ研究を行き来できるのです。

一つ「軸」を決めることで見える世界が広がる

また、物理学を駆使する構造計算のようなエンジニアリングからデザインや歴史といった文系的な分野までカバーする幅広さも建築学科の特徴です。建築に興味があるけれど自分は文系だから……とためらう学生さんによく会いますが、実際には、文系から建築学科に進んで優れた研究をする人もたくさんいます。

私自身は建築が好きで、理数系の学問も自分に向いていると思って建築学科に進みました。反面、歴史は苦手でした。ですから、自分がいつか歴史に関連した研究をする人間になるとは思ってもいませんでした。

けれど建築という「軸」ができると、歴史は自分と無関係な昔の出来事の羅列ではなく、いま目の前にある建築物を理解するのを助けてくれる、自分と地続きのものと感じられるようになりました。その後の私の研究はすべて、歴史と建築が不可分に組み合わさっています。

高校生の時には進路をたった一つの領域に決めることを難しく感じる人もいるかもしれません。でもまず一つ決めておけばそれが軸足となり、見える世界が広がっていきます。大学に入ってから、あるいは専門的に学び始めた後にほかのテーマを面白いなと感じたらそれは自分の成長の証だと考え、胸を張って変えていい。後で変わることを恐れず、「いま自分が好きなことは何か」を大事にしてください。
  

取材/2018年3月
構成/江口絵理
撮影/今村拓馬
※ページ内容は作成時のものです。
(※2019.4.1 一部更新)