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ひとつの疑問をとことん突き詰めたい人に「哲学」を―教養学部・石原孝二准教授

ひとつの疑問をとことん突き詰めたい人に「哲学」を―教養学部・石原孝二准教授

研究室探訪

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石原孝二准教授

「なぜ、自分と他人は違うのか」が哲学を志すきっかけ

佐藤咲良(学生ライター/農学部) 本日は、哲学を専門とされている石原先生にいろいろ教えていただきたくて参りました。よろしくお願いします。さて、早速ストレートな質問を投げかけたいのですが、哲学を大学で学ぶ、というのは具体的にどのようなものなのでしょうか。

石原孝二(東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 准教授) そうですね、私の学生時代の話をしますと、テキストを読み込むという作業が中心でした。原書を自分で読んだり、輪読したり、です。

佐藤 哲学研究室って、それぞれがひたすら何かを考え続けているようなイメージを抱いていたのですが。

石原 ある哲学者の主張を理解するためにはその主張はどのような時代背景でなされたのか、どのような問題意識をもってなされたのか、を知らなければなりません。
哲学は主張の他に歴史の面もあるので、その学習にも時間が割かれるわけです

佐藤 哲学というのはただ「考える」だけではないんですね。では、最近だと、出生前診断や臓器移植の哲学、倫理などを扱うことも増えてきたと思いますが、そのような新しい時代の哲学はどういう風に学びますか?

石原 基本的には先ほどと同じです。例えば、臓器移植を考えるには、そもそも人間は臓器をどのように捉えてきたのかということを知っておかなければいけませんね。移植の前提として「臓器は独立に機能しているものだ」という発想が必要になりますが、その発想がいつ頃、どのように生まれたのか。こうした歴史をまとめるのも、哲学者の仕事になるかと思います。

佐藤 つまり、哲学とは、問いに答える学問というよりは、問いを確認する学問という理解でいいでしょうか?

石原 そうですね。問題となっていること、例えば臓器移植などの科学技術が、どのような前提のもとに成り立っているかを整理するのが哲学者の役割だと考えています。

佐藤 石原先生は、精神医学についても研究していらっしゃいますが、その場合もやはり問題の前提の整理を行っているのですか?

石原 基本的には精神医学の歴史や実践の分析と整理なんですが、今後の方向性に関する考え方の提示も行っています。精神障害を持つ人のニーズへの対応というものが重要だと思っています。
関連して、当事者研究というものもあるということに触れておきたいと思います。この研究の主体は、名前が示すように障害をもつ人や自身です。当事者が持つ感覚と他の人の持つ感覚のギャップをどうやって伝えるのか、それを当事者として研究していくものです。

当事者研究の研究

佐藤 無理に世界のルールに合わせよう、ではなくて、自分のルールと世界のルールの何が違うのか、それを理解して社会で暮らしやすくしていこう、ということですね。ここに来て、精神医学と哲学がつながったような感じがします。なんだか現象学の考え方に似ているような気がするのですが。

石原 そうですね。もともと、私は「なぜ、自分と他人は違うのだろう」という疑問を持って哲学科に入りました。その結果、いま佐藤さんがおっしゃった現象学に出会いましたし、当事者研究に興味を持ち、精神医学に携わるようになりました。私の経歴の話になってしまいますが…。

佐藤 ぜひ聞かせてください。

精神医学の科学と哲学

精神医学への興味と展開

石原 まず、大学院在学時までは、ハイデガーや現象学を研究していました。そして大学院修了後に、現代社会人の心に影響を与えている人工環境と人との関係、科学技術の影響などについて研究するようになり、科学技術哲学や技術倫理、リスク論などを研究していました。そうこうしているうちに、精神医学ってとても奇妙な分野だと気が付いたんですね。臓器や器官を扱う医学と違って、眼に見えず触れないものを扱っている。そしてさらに、精神障害をもつ人のケアをどのように行うのかという方針は、社会設計の上で社会全体に影響を与えていく。しかも、基準が明確ではなく、精神科医それぞれで考え方も違うので、「合う」「合わない」ということがしばしば問題になる。

佐藤 効果の有無も、言葉にしづらいですね。

石原 そういったこともあって、精神医学の分野はあまり整理されていない。この問題の重要性を感じ、今取り組んでいる、といったかんじです。

佐藤 お話を聞いて、より精神医学と哲学との関連性というのがみえてきました。

精神障害を哲学する

あらゆる場でいきる、批判的思考

   
佐藤 質問が世俗的になってしまいますが、哲学を専攻した後の進路や就職先にはどのようなものがありますか?

石原 私の所属している教養学部の科学技術論コースで言えば、不動産や経済関係、省庁など、卒業生たちは様々なところに就職しています。哲学を修めたからっていう就職先は特にないです。研究者になる人もけっこういますね。

佐藤 それでは、哲学を学ぶことで社会に出て役に立つことはありますか?

石原 テキストを読む力がつくというのは、社会に出てからも確実に役に立つと思います。クリティカル・シンキングといわれますが、批判的に見る力が養われると思います。一つの言説に対して、どのような背景があるのか、前提は正しいのか、この言説を確かめるには何を行えばいいのか。この考え方は、どのような場にいても役立ちます。

佐藤 最後に、哲学に興味があるとか、哲学の学科に進みたいと考えている人に対して、何かアドバイスや一言をお願いします。

石原 物事を突き詰めて考えてみたい人や、とことん議論してみたい人に哲学は向いています。「ひとつの疑問」について、極点な例を出せば、「ひとつの文章の意味」についてとことん考えるということに取り組んでみたい人にはお勧めです。そのような深い考察へと導いてくれるのが、哲学です。

佐藤 ありがとうございました。

取材日:2018年9月11日

PROFILE

石原 孝二(いしはら・こうじ)
東京大学 大学院総合文化研究科 准教授

群馬県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻(哲学専門分野)博士課程修了。北海道大学准教授を経て、現在、東京大学大学院総合文化研究科准教授。
専門は、科学技術哲学、現象学。最近では、精神医学の哲学、当事者研究、障害の哲学などを中心に研究している。
著書に、『精神障害を哲学する―分類から対話へ』(東京大学出版会、2018年)、編著に『当事者研究の研究』(医学書院、2013年)など。2015年7月よりオープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン共同代表。

2019.5.21
取材・構成/学生ライター・佐藤咲良