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人々がより健康に暮らせる社会を作る力になりたい。それが研究の原動力です。―医学部・橋本英樹教授

2019.03.27

研究室探訪

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研究室探訪・橋本英樹教授

PROFILE

橋本 英樹(はしもと ひでき)

1988年東京大学医学部卒業。医師として東京大学附属病院などに勤務した後、ハーバード大学公衆衛生大学院へ。1997年に東京大学大学院で博士号取得(医学)、1999年にハーバード大学公衆衛生大学院でも博士号取得。帝京大学医学部准教授などを経て2012年より現職。社会と個人の健康が相互に影響するメカニズムの解明を研究テーマに据え、研究成果の社会への発信にも注力している。

「それは本当に、言われている通りだろうか?」

少子高齢化によって医療費は今後も増加の一途をたどり、若い世代は莫大な負担を強いられるようになるだろう。いや、その前に健康保険制度が破綻するかもしれない…。これが、いま社会で共有されている日本の将来像だと思います。

しかしそれは本当でしょうか? 医療費が増え続けているのは事実ですが、先の見通しはそんなにも絶望的なのでしょうか。

私の研究室では、様々な基礎データをもとに日本の高齢者4000万人分のモデルを作り、スーパーコンピュータを使って2035年までのシミュレーションをしてみました。すると、医療費はいま言われているほどには増大しない、という結果が出てきました。

広く信じられていることに「本当にそうか?」と疑問を持ち、科学的に検討を加えること。それが、研究という営みです。

研究室探訪・橋本英樹教授

社会格差が人々の健康を左右する

私は、先の医療費シミュレーションのような「個々人の健康が社会に与える影響」を解明すること、また、その逆方向の「社会が人々の健康に及ぼす影響」を解明することを研究テーマとしています。

後者の研究の一つが、社会的な格差に着目した調査です。

私たちが東京の四つの自治体で調査を行ったところ、学歴や所得が高いほど健康で、低いほど不健康という傾向がデータとして如実に見えてきました。しかも、その傾向は親から子へと受け継がれようとしている。このような「健康格差」は、いま社会問題として認識され始めたところです。

国や自治体が行っている医療費抑制や健康増進の施策の中には、科学的な裏付けがないまま、こうするとうまくいくのではないかという推測で行われているものも少なくありません。それではいくらコストをかけても有効な解決にならないでしょう。

まずは人々が問題のありかを知り、解決策を探るための材料が必要です。そもそも、医療費増加が止まらないという前提は正しいのか。子どもの健康に影響を与えているのは何なのか。私の仕事はこうした問いをひも解き、科学的な根拠とともに提示することです。

私たち研究者こそが正しい答えを持っている、と言いたいわけではありません。よりたしかな材料で人々に検討・判断してもらいたい。それが今の社会をより健康な社会に変えていく、と考えているのです。


この研究には医学はもちろん社会学、心理学、経済学など様々な学問の知識や深い人間理解が必要。
「人間相手の研究は文系・理系では分けられないですから」

「医学部だから医師に」ときめつけずに

東大の医学部というと、病気のメカニズムを研究する医学・医療研究に力を入れているというイメージが強いかもしれません。しかし東大医学部では医療を含め、社会と個人の関係、環境と人間の関係、看護など多様な側面から「健康」に迫る研究が行われている。それこそがここの個性だと思います。

大学で学ぶということは、思い込みや世間の常識から自分を自由にすることです。まずは、医学とはこういうもの、医学部に進んだら医師になるもの、という思い込みを取り払って、自分が関心をもった分野を学んでいってください。

研究室探訪・橋本英樹教授

 

構成/江口絵理
撮影/今村拓馬