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やり方が分かっていたらそれは研究ではない―工学部・矢谷浩司准教授

やり方が分かっていたらそれは研究ではない―工学部・矢谷浩司准教授

研究室探訪

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研究室探訪・矢谷浩司准教授

技術をより広く、よりうまく人々に使ってもらうには?

世の中には新しい技術が次々に生まれますが、技術自体がいくら優れていても、人に使われなくては意味がありません。たとえば携帯電話をリユースできる技術や仕組みがあっても、人々がプライバシーの漏洩を心配するならその技術はうまく使われません。ならば、ここで必要とされる技術は何であろうか,そうした「技術とそれを使う人間の関係」を考えることが私の研究テーマです。学問領域としては「ヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)」と言います。

この研究には大きく分けて2つのアプローチがあります。ひとつは、ある技術がどうしたら人々に使われるものになるかを考える道筋。もうひとつは人々が求めている技術は何か、社会が抱えている課題を解決できる技術は何かを考えるアプローチです。このように、「技術開発」と「社会のニーズ」を行き来しながら研究として組み上げていくのが、私の研究室における研究の特徴です。

東京大学というと基礎研究のイメージが強いかもしれませんが、社会の課題解決を目指す応用研究に取り組んでいる研究室もたくさんあり、私の研究室もその一つです。こうした多様性も東大の特徴といっていいのではないでしょうか。

私の研究室から生まれた技術には、スマートフォンを指紋認証でアンロックするついでに心拍が計測できるセンサーや、車椅子で入れる飲食店を探すときに使える、お店のエントランス写真を集めてくる検索システムなどがあります。


スマートフォンの指紋認証と同時に心拍を測れるデバイス。毎日高頻度で行う指紋認証のついでに測れるため、日常の健康管理に有効。

「なぜこの技術を作るのか」を突き詰めて考える

研究室では学部生にも院生にも、どのような課題に対しどのような技術的解決策があるかを考える「設計」、その技術を開発する「実装」、対象としているユーザに使ってもらう「評価」の3つをやってもらいます。私の研究室では、実装の前後にある設計と評価も非常に重視しているためです。特に、「何を、なぜ、どのように解決すべきか?」という問いを自分で設定し、そのためにどんな技術が必要かを突き詰めて考える「設計」が研究の成否を握ると私は考えています。

実は学生さんが一番戸惑うのは、最初の「問いを設定する」段階です。学生さんにはよく「やり方が分かっていたらそれは研究ではない」と伝えています。誰もやり方がわからないからこそ、研究を通してそれを明らかにしないといけないわけです。こんな答えが出るだろうとわかっていることは研究しなくてもよいはずです。かといって、たとえば「世界を平和にするには何をしたらいいか?」というような漠然とした問いではどうアプローチするべきか見当をつけることができません。科学的に検討できる問いを見つけるのは、大変労力のいる作業になります。


液体に入れるとアルコール濃度によって違う色の光を発する。飲んだアルコール飲料の強さを簡単に記録することが可能となる技術である。

問いを見つけるには、何かで調べてわかった気にならず、自分で動いてみることです。たとえば視覚に不自由がある方の困りごとを解決する技術を考えたいなら、その方々からじっくり話を聞いてみる。車椅子利用者の役に立つ技術を考えるなら、自分自身が車椅子生活をしてみる。知らない世界、頭でわかったつもりの世界から良い問いは生まれてこないけれど、動いてみると思わぬ発見に出会うものなんです。この問いを見つけることはとても大変ですが、その後の研究にやりがいを感じるためにもとても重要なプロセスであり、学生さんにもそれをしっかりと体験してもらいたいと思っています。

高校までは先生から出された問題を解いていればよかったかもしれません。しかし、大学は自分で問いを見つける場です。仮に大学卒業後に研究者にならないとしても、大学での研究を通して培われる「問題発見能力」はこれからの時代、どんな職業においても必要とされると私は信じています。私は教員としてその能力を学生さんに養ってもらう場所を、研究を通して提供したいと思っています。

研究室探訪・矢谷浩司准教授

PROFILE

矢谷浩司(やたに・こうじ)

2005年に東京大学大学院工学系研究科で修士号(科学)、 11年にトロント大学で博士号(コンピュータ科学)を取得。 11年から14年までマイクロソフトの研究所「Microsoft Research Asia」(HCI グループ)に勤務し、14年より現職。生体認証と生体センシングを組み合わせたセキュリティシステム、生産性・創造性支援、ユーザの行動変容を促すシステムの研究を軸としてヒューマン・コンピュータ・インタラクション分野の幅広い研究に従事している。http://iis-lab.org/

2019.3.5
構成/江口絵理、撮影/今村拓馬