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「文化資源」から新たな可能性を見出し、社会につなぐ―文学部・中村雄祐教授

2018.11.02

研究室探訪

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PROFILE

中村 雄祐(なかむら ゆうすけ)
東京大学大学院人文社会系研究科 文化資源学研究室/次世代人文学開発センター 教授

1995年11 月、東京大学大学院総合文化研究科 博士号(学術)を取得。同大学院総合文化研究科および人文社会系研究科助教授、国立民族学博物館文化動態研究部門客員研究員などを経て、現在は東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究専攻教授。読み書きを学際的に捉えるリテラシー研究に取り組み、研究から得られる知見を隣接諸分野との有機的な接合や社会連携に生かすべく、日々積極的な活動を行っている。
参考リンク研究サイト:文テク

文化を見直すことも、それを社会へ還元することも

学問は究めるほど狭く深いものになっていきます。それは研究というものの宿命といってもいいでしょう。たとえば、ひとつの古文書を研究するとき、歴史学者や文学者なら文章を読み解こうとしますし、言語学者は文法を調べ、書誌学者なら「これはいつの時代の紙だろう」と考えます。いずれの研究も答えが出たと思ったら新たな問いが見つかる、その繰り返しで少しずつ進んでいきます。どの分野も他では代わりのきかない奥深いものですが、世の中は意外なところでつながり合っていますから、やはり専門家の仕事は大切です。

他方、多様な専門分野の成果を踏まえたうえで、隣接する異分野の学問が協業し、ひとつのテーマを様々な角度から研究するスタイルを「学際系」と呼びます。文化資源学研究室も学際系の研究室で、「文化資源」という考え方を基本にしています。「資源」は、たとえば英語でresourcesといいますが、sourceの第一義は水源や源泉、漢字と同じく川や流れの始まる場所を意味します。文化資源学研究室では、人々が作り出す「ことば」「かたち」「おと」など、まさに文化の源に注目し、2つの側面からアプローチします。

ひとつは、研究対象が体系化され特定の側面に注目される以前の姿に立ち返って文化を見直すことです。そして、もうひとつは社会連携、つまり、博物館、美術館、アートプロジェクトなどへのかかわりを通じて、文化資源を見直すことから得られる知見を社会へ還元することを重視しています。たとえば、歴史研究の成果を踏まえてまちおこしの一環として地図アプリのプロデュースを行うなど(※写真参照)の試みもしています。

中村教授がコンテンツ・マネージャを務めたスマホアプリ「神田祭ぶらり」。
江戸・明治と現代の地図を自由に行き来しながら、神田祭の巡行路にまつわる歴史情報を確認できるアプリだ。
たとえば、基本機能である「地図からぶらり」では、今昔の地図をボタンひとつで切替えることができ、今立っている場所が江戸時代にはどんな土地だったのか、明治時代の地図にはどう描かれているのかなど、歴史の変化を実感することができる。
東京文化資源会議の一環として行われたプロジェクトのひとつ。

「人と一緒に考えるからこそ面白いことができる」が文化資源学の考え方

このように、文化資源学では、様々な分野の研究を横断しいろいろな専門家と協力し合いながら研究を進めていきます。ですから、少なくとも卒論を書けるくらいには何らかの専門分野を学んでおく必要があり、大学院のみの研究室となっています。また、社会人にも大きく門戸を開いているのも研究室の特徴です。それから、文系の大学院では個人で研究するというイメージが強いかもしれませんが、この研究室ではグループワークも積極的に行い、成果を発信しています。詳しくは文化資源学研究室ホームページの「フォーラム」をご覧ください。

文化資源に寄り添い、新たな発見や可能性を見出そうという研究ですから、好奇心が旺盛な人、学問における前提やルールといったものについても、それを面白い文化資源と捉えられる人には特に向いているように思います。原点に立ち戻ってこそ分かることがあるし、人と一緒に考えるからこそ面白いことができる、というのが文化資源学の考え方です。みんなで取り組む学びの場として、東大の大学院には「文化資源学」というコミュニティがあるということを覚えておいていただければと思います。

 

取材/2018年3月
構成/加藤由紀子
撮影/今村拓馬