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食料と環境を支える幅広い総合学問=農学に、ぜひ大学で出会ってほしい―農学部・藤原徹教授

2018.11.02

研究室探訪

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PROFILE

藤原 徹(ふじわら とおる)
東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命科学専攻 植物栄養・肥料学研究室 教授

1989年東京大学大学院農学研究科修士課程修了、1989年ワシントン大学生物学部留学、1992カリフォルニア大学デービス校留学、1994年コーネル大学留学、2003年生物生産工学研究センター助教授、生物生産工学研究センター准教授、2010年東京大学大学院農学生命科学研究科教授(現職)。2009年日本土壌肥料学会賞受賞ほか受賞多数。

「なぜ」を多様な分野から追究

食料がなければ人類は生存できません。また、70 億人が生きていくには食料の増産が不可欠です。食用に供する作物や家畜等を増やし続け、安全で美味しい食料を効率的に生産できなければ、人類は今日のように繁栄できませんでした。現在の日本のように豊かな社会では実感が伴わないかもしれませんが、それを実現したのが農学であり、農学は人類と共に歩んできたといっても過言ではありません。

そして今日の農学は、それらを効果的に行うための生命科学や生物資源科学、持続可能な社会を実現するための環境科学や社会科学、生活科学等を含む総合科学へと発展しました。「なぜ」を多様な分野から追究できるフィールドであり、課題を解決することで社会に貢献できるのが農学です。

例えば、私は役立つ植物を作る研究の過程で、ホウ素を沢山与えないとうまく育つことができないシロイヌナズナの変異株を偶然発見しました。この変異株の原因遺伝子を追究したところ、生物界ではそれまで知られていなかったホウ素トランスポーター(輸送タンパク質)遺伝子であることがわかり、『Nature』に論文を出すことができました。その結果、これらのトランスポーターを使って、ホウ素が少ない土壌でも、逆に多すぎる土壌(多すぎると毒になる)でも生育できる植物を作ることができるようになりました。


研究に用いられているシロイヌナズナ

また、つい最近も、植物の根が水に向かって伸びるように、栄養のあるところに向かって伸びることを研究員が発見しました。意外にも今日まで誰も気づいていなかったことです。根は栄養の濃度勾配を検知して、栄養のある方向に伸びていたのです。

これを応用すれば、より少ない肥料で作物を育成できるようになり、農家の費用負担を軽減できるだけなく、環境負荷をも減らせます。このように農学には、社会に役立つ研究テーマが沢山あるだけでなく、先端科学を活用して生命や地球環境の仕組など、真理を探究することもできます。

農学は「知りたいこと」と「役立つこと」が密接に結びついている

そして農学は、研究室での実験と違い、現場でしかわらないことを見つけだすことができます。私たちの研究は、教科書に書かれていることと違うことを発見できるのが、とても楽しいのです。

ただ、研究は楽しいですが、努力すれば必ず成果が得られることはないかもしれません。やってみないとわかりませんが、やってみる以上は真剣に没頭して初めて成果につながり、楽しさに到達できます。

しかし、中学・高校の教科には農学がないため、物理や化学、生物、数学のように、進路として選択されることが少ないのがとても残念です。農学は狭いイメージがありますが実際は裾野が広く、社会に役立つと共に真理探究にもチャレンジできます。

私は小学生の頃から植物が好きで、社会に役立ちたいと思って農学部に進み、幸い成果を出すことができました。この間を振り返って見ると、農学は「知りたいこと」と「役立つこと」が密接に結びついていることを実感しています。農学部に進み、自分のやりたいことを思い切ってやって、人の幸せに貢献して欲しいと思います。

 

取材/2018年3月
構成/佐原 勉
撮影/今村拓馬