東大生が高校、大学で読んだ本(4)―『浜村渚の計算ノート』『青の数学』

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東大生によるオススメ本の紹介

東大生は一体どのような本を読むのでしょうか。今回は、読書好きの東大生に高校や大学で読んだ本のなかから、オススメの2冊を紹介してもらいます。東大生の視点で選んだ本を通して、新しい知識や価値観に出会えますように。

あなたは文系?理系? どちらにもおすすめの数学小説!

ストーリーを楽しみながら、数学の知識が増える!

 私が高校2年生の冬、そして大学1年生の夏に読んだ2冊をご紹介していきます。どちらも数学に関係した小説です。先にご紹介する『浜村渚の計算ノート』では、章や節番号にlog10、log100や√1、√4と言った数が使われており、フィボナッチ数列に関係する章の節番号は、フィボナッチ数列を用いて、1、1、2、3、5となっている徹底ぶりです。これを見て「おっ」と思われた方には特におすすめです。また、数学の話ばかりではなく、ストーリー自体も非常に魅力的で、普段はあまり本を読まない高校生の皆さんにとっても読みやすい2冊だと思います。
 

高校で読んだ本
『浜村渚の計算ノート』

『浜村渚の計算ノート』

青柳碧人著

2009年

講談社

 それではまずは1冊目の『浜村渚の計算ノート』からです。ストーリーを一言で言うと「数学を用いて事件を起こすテロリストたちと、女子中学生浜村渚が、数学で戦う」といった話です。犯行の背後にある規則性(被害者の名前や、犯行現場の地名に法則がある)や、被害者からのメッセージに数学が関係しており、それを浜村渚が見抜くというのが主なパターンです。
 私がこの小説を読んだのは高校2年生の冬頃。本格的に受験を意識し始め、同時に自分の数学力のなさを痛感していた時期です。そのような時に同級生にこの作品をすすめられたのが、読んだきっかけです。
 私にとってそれまでの数学と言えば、教科書で勉強して問題を解くといったものでした。実際多くの方にとっては同様なのではないかと思います。しかし、この作品には大学受験で出されるような数学以外の問題も多数登場します。例えば最初に登場する「四色問題」はエリアの塗り分けという、一見するとパズルに見える問題ですが、立派な数学上の定理となっています。他にも、中学で習って以来慣れ親しんでいる(?)円周率に関しても、新しい視点を得ることができました。こうした話を読むと、不思議と受験勉強へのモチベーションも上がったことを覚えています。
 最後に、中学生が数学に関する謎を解くという設定について説明します。この作品では、教育課程において理系科目が軽視され過ぎたことで中学生や帰国子女以外には数学ができる人がいないという、現実とは異なる特殊な設定がされています。この小説は確かに数学の話が中心ではありますが、教育関係を志している方にも読んでいただきたい作品でもあります。(ちなみにこれと関連した内容は、竹内薫氏による解説にも書かれています。)
 

数学とは何か? ちょっと抽象的な数学小説!

大学で読んだ本
『青の数学』

『青の数学』

王城夕紀著

2016年

新潮文庫刊

 そして大学に入ってから読んだのが『青の数学』です。こちらは数学オリンピック予選に出場する高校生たちの物語です。主人公の栢山(かやま)が、国際数学オリンピック2連覇の京(かなめど)に出会う場面から始まるこの作品。作品全体を通して「数学とは何か」「なぜ数学をやるのか」といった問いが登場し、これこそ大学生におすすめしたい内容です。
 私がこの作品を読んだのは大学1年生の夏頃、そろそろAセメスター(秋学期)が始まる時期でした。正直に言うと、抽象度が一気に増した大学数学は難しく、高校までとのギャップを感じていました。そんな時にこの作品を読んだことで、数学の見方が変わったと思います。
 作品内では大学受験のような数学の問題から、非常に抽象的な話題まで幅広く登場します。それを読んでいるうちに、大学の数学は、高校までと全く異なるわけではないのだと思い始めました。具体的に言えば、大学では、極限や連立方程式、数列の特性方程式など高校までに習って来たことについて、高校とは異なる方法でさらに深く勉強するような内容もあるということに気付かされました。だからと言って数学が得意になるかはまた別の話ではありますが…。とにかく学問としての数学に対する見方が大きく変わる作品です。
 この本では参考資料として、数学に関連した書籍が多数紹介されています。中には高校生や大学1年生には難しいものもありますが、これらを手に取ってさらに知識を深めることができます。また、教授や大学院生も登場し、数学科で学ぶ数学の雰囲気を感じることができるので、数学科への進学について意識したことのない方でも、興味がわく内容だと感じました。まだ進路に迷っている方もぜひ読んでみてください。この本が運命の出会いとなるかもしれません。
 

まとめ ―きっと数学に対する見方が変わるはず

 『浜村渚の計算ノート』では親しみやすい文章や奇抜な設定を楽しみながら数学の豆知識を得ることができ、『青の数学』では、さらに進んで抽象度が高い数学にも触れることができます。豆知識とは言っても、どうでもいい内容というわけではありません。例えば、最も美しい数式と言われる「オイラーの等式」などは、教養として知っておいても良いものだと思います。
 教科書的な数学の勉強と、学問的な数学を繋いでくれる『浜村渚の計算ノート』と、さらにそれを深めてくれる『青の数学』。小説としてもとても面白い2冊ですので、ぜひ多くの方に読んでいただけたらと願っています。
 

紹介者のPROFILE

市川 響己 さん
理科一類2年

現在は前期課程に所属していますが、将来的には人工知能や仮想現実のようなIT関連の技術を実社会に応用することに興味があります。自分の手で社会を豊かにしていきたいです。

文/学生ライター・市川響己
企画・構成/「キミの東大」企画・編集チーム