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常識という制約から解放してくれる経済学なら、人の行動や社会の仕組みを深く理解できる―経済学部・佐藤泰裕教授

2018.10.26

研究室探訪

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PROFILE

佐藤 泰裕(さとう やすひろ)

1996年東京大学経済学部卒業。2000年に同大学大学院経済学研究科博士課程を中途退学し、名古屋大学情報文化学部講師に就任。2002年に東京大学博士(経済学)を取得。名古屋大学大学院環境学研究科准教授、大阪大学大学院経済学研究科准教授を経て、2016年より東京大学大学院経済学研究科准教授。2018年に同研究科教授に(現職)。専門は都市経済学および地域経済学。特に、都市や地域間の人口移動に関する分析や、地域経済政策の外部性についての分析を行っている。

お金だけじゃない!経済学

経済学はお金だけに関する学問だと思っていませんか? お金は経済学の研究対象として大事なものの一つですが、他にも重要なものがたくさんあります。経済学の役割は、人が集まったときのルールや共同体のあり方を幅広く考えることなのです。ですから、人がどのように行動するかを真剣に考え、社会の仕組を理解しようとします。

例えば、よく街中で見かけるエスカレーターですが、東京では人が左に、大阪では右に立ち、逆側を人が歩いています。エスカレーターの運営会社は「危険なのでエスカレーターは歩かないで」と案内しており、どちらか片方に並ぶルールはありません。それにも関わらず、多くの人が左や右側に立ちます。不思議ですね。

こうした疑問も、経済学のゲーム理論で理解できます。東京の場合、左に立たずに右に立つと、後から来た人にプレッシャーを受けるので多くの人が左に寄ります。左に寄らない人の後ろには、先を急ぎたい人の列ができ益々プレッシャーは大きくなります。時には「どいて」などと言われる場合もあるでしょう。

この場合、他の人と異なる行動を取ると、そうした人は損をします。どちらかに並ぶ状態が起きると、それから外れにくくなるというわけです。複数の人間がいて、必ずしも利害が一致しない戦略的な状況を分析できるのがゲーム理論です。ゲーム理論はミクロ経済学の手法として開発されたのですが、今では経営学、心理学、社会学、生物学、政治学などにも活用されています。

自分の直観を越えていける学問

経済学には、基礎分野(ミクロ経済学、マクロ経済学、計量経済学)に加えて、応用分野(金融論、財政学、国際経済学、労働経済学、都市経済学、開発経済学、環境経済学等)がありますので、自分の興味に合わせて選ぶことができます。私は大分県別府市という地方都市の出身ということもあり、都会と田舎の違いなどを考えることができる都市経済学に興味を惹かれました。

都市経済学は、都市への人口と産業の集中メカニズムや、混雑のような都市に関わる諸問題を解決するための政策を研究します。私がこれから取り組もうとしているテーマは文化の役割で、ある都市や地域によそから来た人と元からいる人の対立や融和がどのような条件で起きるのか、ゲーム理論などを使って解明したいと考えています。

経済学の面白さは、いろいろな問題に対して自分の直観と違う考え方ができるということです。直観に基づく議論は、人それぞれで人生経験や常識が違うため、すれ違うことが多々あります。経済学では、議論する前に自分が何を前提としているのか可能な限り表明しますので、議論のすれ違いを最小限にすることができます。経済学を学んだことで、常識という制約から解放される面白さを実感しました。

経済学だけに限ってみても基礎分野のように数学に近い領域から、各種応用分野のように現実の話題に直結するものまで幅広くあり、自分の興味のあるものを選べます。まだ自分が何を勉強したいかわからないという人は、教養学部の2年間で自分の興味と能力に応じてじっくり考えて選ぶとよいと思います。
 

取材/2018年3月
インタビュー・文/佐原 勉
撮影/今村拓馬