東大生が高校、大学で読んだ本(7)―『ハーモニー』『遥かなるケンブリッジ 一数学者のイギリス』
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2021.07.29
#考古学 #考古学 #遺伝学 #遺伝学 #理学部の人 #理学部の人
東大生によるオススメ本の紹介
東大生が高校生・受験生のみなさんにぜひ読んでもらいたい、オススメの本を紹介します。
第2回は、理学系研究科生物科学専攻修士1年の脇山由基さんによる紹介です。
『ネアンデルタール人は私たちと交配した』
2015年
文藝春秋
私が大学4年生の時、配属された研究室の課題図書として読んだ本を紹介します。
本書は、著者スヴァンテ・ペーボがネアンデルタール人のゲノム解読という偉業を成し遂げるまでの、30年にわたる研究生活について記された自伝です。
スヴァンテ・ペーボは、死後時間のたった生物から遺伝情報を伝える物質(DNA)を抽出し分析する「古遺伝学」という学問領域の創始者の一人です。大学院生の頃に、ミイラ研究(エジプト学)とDNA抽出・分析(分子生物学・遺伝学)を組み合わせるというアイデアを思いつくところから彼のキャリアが始まります。試行錯誤を繰り返しながら古遺伝学は発展していき、ペーボはネアンデルタール人のゲノム解析に挑むことになります。ネアンデルタール人は、遠い昔に私たち現生人類と分岐し異なる進化の道を歩んだ人類で、3万年前に絶滅したと考えられています。ペーボはその数万年前の人類の骨からDNAを抽出し、そこに記された遺伝情報のすべて(ゲノム)を解読することに成功します。
本書の面白さは、古遺伝学が生まれてから世界中が興奮する大発見を成し遂げるまでの過程を追体験できるところにあります。今でこそ古代ゲノム解析の手法は確立されてきましたが、ペーボが研究を始めた頃は何もかもが手探りで、失敗の連続でした。例えば、古代DNAは試料から取れる量が非常に少なく、現代のDNAが実験中に混入してしまうと、古代DNAは現代DNAでかき消され検出されなくなってしまいます。当時はまだこのことが認識されておらず、古代DNAだと思っていたものが実は実験室に舞っているホコリ由来のDNAだった、などということが多々ありました。さらに、ライバル研究者との駆け引きも記されており、研究の苦悩や焦りが伝わってきます。これらの困難を乗り越え、新たな発見を成し遂げたときには、それまでの苦労がわかる分、こちらまで達成感を感じてしまいました。
また、本書にはペーボの研究姿勢や優しい人柄が表れていて、非常に興味深いです。ペーボは緻密で抜け・漏れのない研究を重視しています。そのため、研究の歩みが遅れてしまったり、他グループのインパクトだけを求めた杜撰な研究への対応に疲弊したりしていました。しかし、その誠実な研究姿勢があったからこそ、貴重な古代史料の保有者からの信頼を得ることができ、大発見へとつながりました。この研究者として誠実で丁寧な振る舞いを、私も身につけておきたいと感じました。
ここでは2つの注目点を挙げましたが、本書には他にも、研究所の立ち上げや資金繰りに関する裏話やユーモアあふれる語り口など、この記事では紹介しきれない見所がたくさんあります。ぜひ一度読んでみてください。
紹介者のPROFILE
脇山由基 さん
理学系研究科 生物科学専攻 修士1年