東大生が高校、大学で読んだ本(7)―『ハーモニー』『遥かなるケンブリッジ 一数学者のイギリス』
この本、読んでみて! 2022.09.26
2021.05.20
#ロボット #ロボット #文学部の人 #文学部の人 #工学 #工学 #哲学 #哲学
東大生によるオススメ本の紹介
東大生が高校生・受験生のみなさんにぜひ読んでもらいたい、オススメの本を紹介します。
第1回は、人文社会系研究科修士課程2年の伊達摩彦さんによる紹介です。
『ロボットとは何か―人の心を映す鏡―』
2009年
講談社現代新書
私が本書を読んだのは、東大での学生生活にもだいぶ慣れた、大学2年生の時だった。
当時、文科三類に所属していた私は、“理系”の知人から時たま「“文系”の学問なんて何の役に立つの?」という心ない言葉を浴びせられることに悩んでいた。そして、その問いに対して明確な回答をスマートに提示できない自分の無力さに苦しんでもいた。ちょうどその頃、巷ではいわゆる「文系学部廃止論」が物議を醸していたこともあり、“文系”の学問の存在意義が脅かされていた。本書は、そんな苦悩から私を救い出してくれた1冊だ。
著者の石黒浩・大阪大学教授は、世界的に有名なアンドロイド(人間酷似型ロボット)研究の第⼀人者だ。2014年に登場して話題を集めた、タレントのマツコ・デラックスさんを忠実に再現したアンドロイド「マツコロイド」の監修者でもある。本書では、石黒教授がロボット研究を始めた経緯やその研究内容について、⼀般向けにわかりやすく書かれている。中には、劇作家・演出家の平田オリザ氏と共同で取り組んだ「ロボット演劇」というプロジェクトを紹介する章もあり、ロボット研究の裾野の広さがうかがえる。論理的で簡潔明瞭、かつ読み手の知的好奇心を存分にかき立てる石黒教授の文章が、私たちをロボット研究の奥深い世界へと誘ってくれる。
石黒教授によれば、「あらゆることの基本問題となるのは〈物事の起源〉と〈人間〉しかない」(本書36頁)という。こと学問の世界においては、どのような学問であってもゴールを突き詰めると「物事の起源を探究すること(例:物理学)」か「人間とは何かを探究すること(例:哲学)」しかないということである。この理解に基づけば、「“文系”/“理系”」というカテゴライズはほとんど意味を成さない。“文系”の学問であれ“理系”の学問であれ、同じゴールに向かって突き進んでいるのだから。
この箇所を読んだ時、私は非常に嬉しい気持ちになったのを覚えている。なぜなら、石黒教授という“理系”の先⽣が“文系”の学問の存在価値を保証してくれたように感じたからだ。私が周囲にいる“理系”の知人から投げ掛けられていた「“文系”の学問なんて何の役に立つの?」という問いは、もはやその問い方自体が間違いだったということに気づかされたのである。むしろ「物事の起源は何か」「人間とは何か」を探求する限りにおいて、ことさらに“文系”/“理系”とラベリングする必要はないのだ。そして、私の中にあった「“文系”/“理系”」という二項対立は見事に解体されたのだった。
石黒教授は言う――「ロボットの研究とは人間を知る研究である」(本書35頁)と。そして石黒教授のロボット研究においては、心理学や哲学といった“文系”の知見も大いに役立っているそうだ。かのアップル社を設立したスティーブ・ジョブズは自身のスピーチにおいて、「Connecting the dots(点と点をつなげる)」という考え方を紹介し話題となったが、石黒教授の研究においても、ロボット研究とは一見するとまったく関係がなさそうな哲学研究からヒントを得たということは、まさに点(ロボット研究)と点(哲学研究)がつながった好例である。そんな、研究分野の枠を超えた「知のダイナミクス」こそが、学問の面白さなのだということを、私は本書を通して学ばされた。
本書から学べることは、タイトルにある「ロボットとは何か」ということにとどまらない。むしろ「学問とは何か」を教えてくれる⼀冊であり、大学で学問の世界に触れている/触れたいと思っている全ての人間にとって、必読書であること間違いなしだ。
紹介者のPROFILE
伊達摩彦 さん
人文社会系研究科 文化資源学研究専攻 文化経営学専門分野 修士2年