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世界の全てを発展させる可能性をもつ、機械学習の基礎研究―理学部・杉山将教授

2020.02.19

研究室探訪

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杉山 将教授

機械学習はAIとは違う!?

佐藤咲良(学生ライター/農学部) 本日はよろしくお願いします。

杉山将(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授) よろしくお願いします。

佐藤 早速ですが、とても基本的なことをお尋ねしたいです。杉山先生は「機械学習」を研究されていますが、これはAI(Artificial Intelligence)とは何が違うのでしょうか?

杉山 そもそも、「AI」を研究している人間は、厳密な意味では存在しないと思います。AIというのは意味がすごく広くて曖昧な言葉です。世間一般では有名なので、説明に「AI」という言葉が使われることもありますが、少なくとも研究のキーワードではありません。
 機械学習というのはコンピューターに学習をさせるという確固たる目的があって、数学的にも問題を明示できる分野です。

佐藤 具体的にいうと、例えばロボットを作ろうというときに、どこが機械学習の分野になるのでしょうか?

杉山 ロボットって、本来は動く機械ですよね?厳密に見れば、あれは機械工学のメカニックな世界で、AIは全く関係ないです。

佐藤 自律的に動くようなロボットだとどうでしょう?

杉山 「動く」ということには2種類の意味があります。
 手足の関節があって、力を加えたらこの方向に動いて、という計算は古典的な機械工学の範疇です。ただ、最近ではその計算があまりにも複雑すぎるので、データから自動的に学習させることがあります。これは機械学習です。
 もう1つ、左右のどちらに曲がるべきか、速度を増減するべきか、といった判断も機械学習の領域で取り組まれる課題です。

佐藤 知能の分野が機械学習ということでしょうか。

杉山 間違いではないかもしれません。けれど、知能の部分にも様々な要素があって、機械学習ではない知能もあります。今、厳密に「機械学習」と表現しているのは「データの統計処理から自動で判断を下す機械学習」のことです。

杉山 将教授
お話しする先生

全ての分野の発展の基盤となる基礎研究の魅力

佐藤 でも、杉山先生の機械学習研究は「ロボットの知能を作る」ことではないのですよね?具体的にイメージできないのですが……

杉山 そうですよね。では、ロボットではなく、画像認識を例にして基礎研究を説明しましょう。さしあたり、機械に写真を与えて、これは猫か犬か判断せよ、という問題で考えてみましょう。現在の機械学習では、基本的には、何百万枚という写真を与えて、これは猫、これは犬というように教えています。このような方法はお金も時間もかかります。そこで、できるだけ少ないデータから、きちんと学習させ、効率を上げたいというニーズが生じます。
そのようなことについて私たち基礎研究者が理論的に解明して、この精度の学習には実際にどれだけの量のデータが必要か、ということを示します。たとえば犬か猫の写真がXで、犬か猫かの答えをYとすると、最初にどのくらいのXとYの正しい組み合わせを学習させておけば、次に新しい写真(X)を読み込ませたときに犬か猫かを正しく判定することができるか(Y)を示します。
ですが、私たちは「この写真は猫か犬か」という問題の解決のために、実際に画像や猫や犬を考えるわけではありません。与えられるものを全てX、変換されるものを全てYと考えて、新しいXが来たときに正しいYがわかるかどうか、という問題を考えています。Xは写真でも音声でも、先ほどの話におけるロボットが見る左右の道でもよいわけです。
 実際に画像認識やロボットの知能を作るのは、また別の人たちです。

佐藤 杉山先生は本当に基礎の研究をされているんですね。では、応用的なことをする人はどこの所属になるのでしょうか。

杉山 学部で言えば、工学部や農学部など、その応用先の研究室になるかと思います。

佐藤 私は農学部なので、例えば「効率的な肥料散布のために機械学習を使う」という研究だと理解しやすいのですが、これだと機械学習は手段であって目的ではないですよね。機械学習自体の目的というのは何になるんでしょうか?

杉山 それはとても良い質問ですね。たしかに、我々はツールを作って満足している人たちかもしれないです。けれど、例えば農学でも化学でも、それらを統計解析する考え方は共通です。だからこそ、その基礎的な分野が世界の全てを発展させることも可能です。とてもフレキシブルで面白い分野だと言えます。
 このような基礎的な研究の目的は、応用的な研究で設定されるゴールのようなわかりやすいものではありません。私たちは基礎的な研究を通じて、「学習するとはどういうことか」という科学的な問いに対する答えを探しているというのが、実態に近いです。

佐藤 それは、世間からは見えにくく、理解されにくい分野ですよね。先生ご自身やこの研究室の学生はどのように機械学習に興味を持ったのですか?

杉山 私は元々コンピューター系の学科出身ですが、先ほどの話で言うところの応用、画像認識や音声処理にあまり興味を持てませんでした。それよりも、もっと基礎的なところを研究すれば、世界の全てを変えられるのではないかと思って、機械処理を研究してきました。
 学生には理学部や工学部だけではなく経済学部の人もいて、そうした様々な分野から基礎を学びたくなって来た人もいますね。

杉山 将教授
研究室の様子

自由に解く命題を考え、コツコツと真理を追究する研究スタイル

佐藤 具体的には、大学での機械学習研究はどのように進められるのですか?

杉山 学生が研究するテーマは本当に自由です。基礎的分野の面白いところは、応用的分野ではなんとなく決まっている方向性というものが全くないところです。画像認識をしよう、音声処理をしよう、みたいなゴールがないので、どのような命題を解くのかから考え始めます。

佐藤 自由すぎて困りそうです。

杉山 理論研究なので、そうせざるを得ないところがあります。
 例えば、佐藤さんが今やっている研究だと、毎日実験してデータを出して、半年時点で半分くらいできていて、1年で完成するイメージですよね。機械学習は、ひらめくまでずっとゼロです。ずっと考え続けて、ある日いきなり完成します。

佐藤 それは、実際に研究者になってからも変わらないのですか?

杉山 はい。我々も、毎日悶々とテーマを考え続けています。それを楽しめて、なおかつ考え続けられる人が向いていると思います。

佐藤 かなり個人が自由に決められる部分が大きい分野だと思います。また、グローバルな分野だとも思います。このような研究では、どこの大学が良い、どこの研究室が良いといったことはあまり関係ないのでしょうか?

杉山 この分野の多くの研究室は外国人がたくさんいますし、国境はない分野です。著名な先生がいると優秀な学生が集まってきますが、それはいわゆる大学の偏差値の高さとは直結しないように思います。

佐藤 今、外国からの留学生の話が出ましたが、機械学習の研究は国内外で人気が高まっていると思います。

杉山 かなり盛り上がっていると思います。この研究室の希望者もすごく多いですし。

佐藤 先生の研究室を志望する学生は、全員が先生のように基礎研究を志しているのでしょうか?

杉山 必ずしもそうとは限りません。社会への還元がわかりやすい応用をしたい人も、根本的な原理を作りたいっていう人もいますから。
 社会的な評価はやはり応用の方が高いです。我々の研究は、論文一本で基礎技術を飛躍的に進化させる力を秘めていますが,それによってすぐに世の中が大きく変化するとは限りません。でもやはり、次の時代の基盤を作るのは基礎研究だと思っています。

佐藤 最後に、機械学習を学びたい人へのアドバイスや、こんな人に機械学習が向いている、ということがあれば教えてください。

杉山 最近は機械学習に興味を持つ学生が多くて、東京大学のカリキュラムも少しずつ機械学習に焦点を当てたものになっています。前期教養で学ぶ機会もありますし。東京大学の学生なら、そうした授業を踏まえて進路を考えて欲しいです。
それから、数学は大切です。プログラミングも大事ではあるのですが、統計学や線形代数、微積分といった前期教養レベルの数学をしっかりと身につけていることが特に重要です。
 機械学習に向いている人っていうのも様々です。コツコツと真理を追究したい人なら私たちのような基礎的な機械学習研究に向いていますし、社会に役立ちたい、大きなことがやりたい、という人は応用に近いところが向いています。基礎から応用まで、幅広い層があるのが機械学習研究の面白いところだと思います。

佐藤 ありがとうございました。

PROFILE

杉山 将(すぎやま まさし)
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授

大阪府生まれ.東京工業大学で情報工学を学び,博士号を取得.その後,同大学助手,准教授を経て,2014年より東京大学大学院新領域創成科学研究科教授.2016年より理化学研究所革新知能統合研究センター長を併任.機械学習の基礎的な理論構築と実用的なアルゴリズム開発を専門とし,応用研究者と信号処理,画像処理,ロボット制御,ビジネスデータ解析などの共同研究も多数手がける.2016年度日本学術振興会賞および日本学士院学術奨励賞を受賞.著書に『統計的機械学習』(2009年,オーム社),『イラストで学ぶ機械学習』(2013年,講談社)などがあり,近年は『機械学習プロフェッショナルシリーズ』(2015年~,講談社)の編者も務める.

2020.2.19
取材・構成/学生ライター・佐藤咲良