東大卒業後の進路【組織人事コンサルタント】―卒業生のいま(14)
卒業後の進路
2019.12.24
2025.12.09
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東大卒業生インタビュー
東大生の卒業後の進路をお伝えするインタビュー。今回は、日本中央競馬会(JRA)で獣医師として活躍する奥山一葉さんにお話を伺いました。馬を専門とする獣医師を志したきっかけから、競走馬を支えるその仕事に込めた想いまで、奥山さんの歩みをたどります。
氏名: 奥山一葉さん
出身高校: 筑波大学附属高等学校(東京都)
学部・大学院: 農学部 獣医学専修 獣医病理学研究室
卒業後の進路: 日本中央競馬会(JRA)職員 獣医師
――東大を志望されたきっかけを教えてください。
高校では競技かるたに打ち込み、全国大会で何度も優勝している「東京大学百人一首同好会(東大かるた会)」に憧れていたことと、幼い頃から、AIBOなどのロボットに興味をもっていたので、そうした関心を深めたいという思いから、東大の理科一類を志望しました。実際に入学してみると、高校時代の興味にとどまらず、大学では多様な分野に触れることができ、想像以上に興味の幅が広がりました。学びを通して新たな可能性にも気づくことができて、進路の選択肢が増えたと感じています。
――学生生活で印象に残っていることはありますか?
大学生活で印象に残っているのは、馬術部での活動です。高校で馬術を始めたことをきっかけに大学でも馬術部に所属し、気づけば全国大会をめざして毎日練習に励むようになっていました。馬と向き合う日々はとても充実していて、馬との関わりに全力を注いだ学生生活でした。そのなかでもとくに心に残っているのは、大学1年のとき、引退して間もない4歳の競走馬を担当したことです。リトレーニング(競走馬から乗用馬への再調教)に携わる機会を得たことで、騎乗やお世話に悩みながらも試行錯誤を重ねるうちに、乗馬だけでなく競走馬の世界にも関心が広がっていきました。
――獣医師という進路を意識するようになったきっかけは何ですか?
馬術部で、毎日のように馬のお世話をするうちに「乗るだけでなく、自分でもっと馬をケアできたら」という気持ちが芽生え、獣医師という進路を意識するようになりました。ただ、私は理科一類だったので、獣医学専修がある農学部に進むには、理科二類からよりも難易度はやや高くなります。当時は、オンライン授業も活用することで多くの科目を履修しながら、部活動とも両立して、無事に進学、卒業することができました。
――在学中の学びで、今のお仕事に活かせていることはありますか?
6年間の大学生活で最も大きな財産となったのは、馬術部で一頭一頭に合わせた接し方を学べたことです。馬に乗るときもそうなのですが、馬の耳、鼻、口の動きなどの表情からその馬の性格や状態を読み取ることは、診療の現場でもとても大切になります。また、JRA競走馬総合研究所や現場の馬獣医のもとでのインターンシップを通して、解剖の見学や馬の特徴的な疾患について学んだ経験は、臨床現場での働き方の未来像を描く支えとなっています。

――卒業後のお仕事はどのようなきっかけで選ばれたのでしょうか?
日本では、乗馬よりも競馬の方が馬の数も市場規模も圧倒的に大きいことを知り、競馬の世界なら、より多くの馬と関わりながら診療技術を磨けるのではないかと思い、競馬の獣医師になる道を選びました。JRAの獣医師は現場での臨床以外にも、研究、生産育成、馬事普及といったさまざまな形で馬業界に関わっているため、自分が将来どうやって馬と関わっていきたいか考えながら働けると感じたことも選んだ理由の一つです。
――獣医師としての仕事内容について教えてください。
私の配属されている美浦トレーニング・センターには、約100厩舎におよそ2,000頭の馬がいて、競走馬診療所には獣医師が30名ほど働いています。基本は馬のいる厩舎へ車で往診に向かうことが多いですが、診療所にも診療室、手術棟、入院棟などの設備があり、日々の健康チェックから高度な手術まで幅広い診療を行っています。1年目は基本の診療技術から身につけていき、年次があがるにつれて仕事の幅が広がっていきます。
――馬の診療技術はどのように磨いているのでしょうか?
大動物を専門とする獣医師は人手不足ということもあって、研修医期間が十分にとれない場合がほとんどですが、JRAでは1年目に研修期間があり、先輩獣医師の指導のもとで実践的な経験を積み、着実にスキルを身につけていけることも大きな魅力です。また、競走馬の治療には大きな責任が伴うため、まず1年目の獣医師は、本会所有の乗馬を相手に診療技術を磨きます。こうした環境のもとで基礎から経験を積めることは、私たちが成長していくうえでとても恵まれていると感じます。
――今後の展望についてお話しいただけますか?
研修期間を終えると、美浦トレーニング・センターでの診療以外に競馬場での業務も始まり、より現場に近い診療が増えていきます。責任の重さはありますが、自分が治療をした馬が元気にレースを走る姿を見ると、この仕事を選んでよかったと心から思えます。そのためにも、さらに診療技術を高め、馬と真剣に向き合い、信頼される獣医師をめざしてこれからも努力を重ねていきたいです。また、日本でも馬がもっと身近な存在になるように、これまでの経験も活かして、自分にできることをしていきたいと思っています。


――最後に、高校生・受験生にメッセージをお願いします。
高校生のとき、私はまさか自分が将来「獣医師」、しかも、競走馬の世界に関わることになるなんて、1mmも想像していませんでした。そんな私が今、自信を持ってこの道を選択することができたのは、東大で過ごした6年間があったからだと思います。前期課程では、理科一類に所属しながら、生物系、文化系、言語系など、興味のある分野を幅広く学ぶことができました。部活と勉強の両立に悩んだときも、先生や友人、事務の方々にたくさん支えてもらいながら、のびのびと学び続けることができました。そんな環境のなかで、私は今の仕事と出会い、めざすようになりました。
医療従事者は、相手が人であっても動物であっても命を預かる責任の重い立場です。でもその分、自分の力で命を救える可能性があるということに大きなやりがいがあります。これまで学んできたことを、誰かや何かのために活かせる仕事は本当に素敵なことだと感じています。東大からも獣医師になる道があることをもっと多くの人に知ってもらえたらうれしいです。
