東大卒業生インタビュー・新聞記者―「地元の日常」を魅力的に書けるのは、東大での学びがあったから

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卒業生 吉田文さん

東大卒業生インタビュー

東大生の卒業後のいろいろな進路をお伝えするインタビュー。東大卒業後に地方紙の記者として活躍されている吉田文さんを取材しました。吉田さんは卒業後に地元の鹿児島に戻って就職しましたが、大学時代に東京で過ごし、東大で学んだことは、記者活動のあらゆる場面で役立っているといいます。

PROFILE

吉田文さん

出身高校:   鹿児島県立鶴丸高等学校
学部・大学院: 教育学部 総合教育科学科 比較教育社会学コース
卒業後の進路: 南日本新聞社にて記者として勤務。憲法、経済、国際交流など、地元・鹿児島に関して幅広く取材・記事の執筆を行っている

鹿児島から東大への進学が、自分の常識を問い直すきっかけに

――比較教育社会学コースではどのようなことを勉強されましたか?
まず、教育社会学というのは社会の中でも教育という分野を探る学問です。その手法などを学び、卒論では親子関係について発表しました。

――最初から教育や社会学に関心があったのですか?
入学当初は教育社会学なんて名前すら知りませんでした(笑)。前期教養学部の授業でそういった分野を知ったことや、私が地方出身の東大生だったことなどがきっかけで関心を持ったのかもしれません。

――吉田さんは、鹿児島で生まれ育って、大学で初めて上京されたんですよね?
はい。鹿児島を出て、色々な地方から来た人や学生が多い東京で生活して、勉強して、カルチャーショックを度々受けたんです。少し大げさですが、この世には色々な環境があって、人間はその環境に大きく影響を受けていることを実感しました。

――私も地方出身なので、1年生のときは色々と驚くことが多かったです。
そうですよね。自分にとっての常識が他の人とは違う、と気が付くと、じゃあ今私がいるこの環境ってどうなんだろう?と疑問に思いました。その環境として身近でわかりやすかったのが教育でした。

――たしかに、地方出身の東大生だからこそ気が付けたことですね。私も地方出身ですが、その発想はありませんでした。自分をすごく俯瞰的というか、客観的に捉えていらっしゃったんですね。
そう言われると恥ずかしいですね(笑)。でも、そうして自分を含めた環境を客観的に捉えるというのは、むしろ地方出身者の方が気が付きやすいのかもしれませんね。それに、もともと私が知りたがりというのもあったのかもしれません。どうして習慣が違うのか、環境の影響はどれくらい大きいのか。今の新聞社の仕事も、やはり「知りたい」という気持ちがあってのことだと思います。

東大での学びが、地元での記者活動の原点に

――吉田さんは鹿児島の新聞社にお勤めですが、最初から地元に就職しようと考えていたんですか?
入学当初から卒業後は就職を考えていましたが、そのときは特に地元を考えてはいませんでした。ただ、就職活動が始まって、東京や知らない土地で結婚して、子育てして、そして老後を本当に暮らしていけるのかと考えると、やはり地元の鹿児島に戻りたいという気持ちになりました。

――一度、東京に出て生活したり学んだりといった経験は、地元に戻っても役立つことはありますか?
それはもちろんあります。鹿児島では当たり前のことが県外の人には驚くようなことだと気が付きました。その地域の人の日常が、視点を変えるととても興味深い記事になる。その考え方は本当に大切です。また、学科のゼミでディスカッションして様々な意見を交換する経験から、様々な視点があることを常に意識して仕事が出来ています。独りよがりな仕事にならないというか。そうやって、「知りたい」と思って取材した鹿児島の魅力やエピソード、事件をいち早く記事にして、それに対して反響をいただけるとやりがいを感じます。

――新聞社では、具体的にどのようなお仕事をされているんですか?
今は報道部に所属し、憲法、経済、国際交流など、幅広いテーマで記事を書いています。

――教育学部で学ばれたことと直接は関係ないような……?
分野としては離れているかもしれませんが、統計や考察の仕方など、社会を捉える方法論として大学で学んだことは大きく役立っていると思います。記事の担当は数年単位で変わるので、教育や福祉、労働担当になったこともあります。それこそ全国紙の記者だとずっと担当が変わらないこともあるかと思いますが、地方新聞社なので本当に幅広く担当出来ます。来年度からは、地方支局に赴任するんですが、そこは駐在が1人なので、私が1人で事件・事故から行政まで扱います。

――それは大変そうですが、それだけ自由にできるというのはわくわくしますね。
はじめての経験なので少し不安はありますが、かなり楽しみです。

――駐在ということは、もうそこに引っ越すということですか?
そうなりますね。引っ越しを伴う異動も初めてです。普通は若いころに体験すると思うのですが、私は子どもが2人いたので本社残留を希望して、配慮してもらっていました。

人生設計は考えすぎないで。どんな環境にも興味を持つことが一番大事

――東大女子の中で結婚や子育てと仕事の両立というのは話題に上がりますが、吉田さんはそういった人生設計といったものを考えていらっしゃいましたか?
正直に言えば、あまり考えていなかったですね。生活と仕事の両立を考えて鹿児島に戻ると決めたときも、結婚相手が決まっていたわけではないですし……。それに、今の時代はライフスタイルも変わってきて、幅広い選択肢がとれるようになっていますよね。あまり焦ったり決めすぎたりしなくても良いのではないかと思います。

――そう言っていただけて安心しました(笑)。
大学の勉強にしても、私も歴史や経済など色々と迷って教育社会学に辿り着きましたし、絶対に地元の新聞社に就職しようと考えていたわけではないですし。最初から予定していたことはありませんでしたが、どんな環境にも興味が持てたから学部選択や就職に後悔したことが無いのかと思います。

――お話をうかがって、吉田さんが本当に客観的に自分自身やその環境を楽しんでいるな、というのが伝わりました。ありがとうございました。

取材/2019年6月
インタビュー・構成/学生ライター・佐藤咲良