藤井輝夫・東大総長が語った、新入生に必要な「リテラシー」とは?―東京大学入学式2025 (1)
そして東大生になる
2025.04.25
2025.04.25
1998年に東京大学法学部を卒業し、弁護士を経た後にヒューマン・ライツ・ウォッチという国際人権NGOの日本オフィスを立ち上げられた土井香苗さん。東大在学中のある行動が人生の転機となったという経験をもとに、これから大学生活を始める新入生に向けて語った祝辞を、ダイジェストにまとめました。
土井香苗さんは、東京大学卒業後に弁護士を経て、国際人権NGOであるヒューマン・ライツ・ウォッチの東京ディレクターとして活動されています。新入生へのお祝いの言葉とご自身の経歴の紹介の後、
「私もかつて、東京大学の新入生としてこの場に立っていました。しかし、その頃の私は、自分の歩む道について、確信を持てずにいました。そんな私ですが、東大在学中にとった行動が、人生の転機になりました。みなさんがこの4年間をどう過ごすかの参考になればと思い、その経験を共有します」
と続けました。
転機となった経験とは、アフリカの北東部に位置するエリトリアという小さな国に1年間行くと決意し、実行したことだそうです。
きっかけとなったのは、土井さんが中学3年生の頃、アジアやアフリカの難民キャンプの過酷な現実や政治的背景について扱った本を読んだことでした。
「同じ地球に生きる人間として、私とあまりに異なる環境に大きなショックを受けました。そして以来、私の将来の夢は、難民を助け、世界の人道危機の解決に役立つ仕事をすること、になりました。そして、現実を肌で理解するために、アフリカの『現場』に行きたい、と考えるようになったのです」
と、決意するに至った経緯を語りました。
しかし、アフリカ行きを実行に移すことはなかなかできず、ピースボートというNGOに相談した土井さん。
代表の方から、「司法試験に受かったのなら、エリトリアというアフリカで独立したばかりの国で法律作りの手伝いができるのではないか」、それどころか「エリトリアの法務大臣に直談判してみないか」という提案を受けたそうです。
それに賭けるしかないと考えた土井さんは、実際にエリトリアを訪れ、現地でつてをたどって本当に法務大臣と会うことになります。
エリトリアの法律づくりにボランティアとして1年間参加したいというお願いを、大臣は快諾してくれたとのことです。
「大学時代の1年間をアフリカで過ごしたことは、私の人生の転機となり、計り知れない糧となりました」と、エリトリアでの経験についてのお話をまとめました。
次に、2つ目の人生の転機についてのお話がありました。それは、国際人権NGOであるヒューマン・ライツ・ウォッチの日本での立ち上げという経験です。
エリトリアからの帰国後に、土井さんは東京で弁護士になりましたが、その傍らでプロボノ(専門スキルの社会への無償提供者)として、難民弁護の仕事をしていました。そうして5年が経った後に弁護士業に一区切りをつけ、かねてからの念願であった海外留学を果たし、ニューヨーク大学の修士課程で勉強を始めました。
当時の土井さんは、弁護士業からの方向転換を模索していたそうです。プロボノではなく、24時間すべてを人権のために使いたいと考えるようになった当時の気持ちを、「一回切りの人生、自分のパッションに全力投球したかったのです」と語りました。
しかし、弁護士の人権活動だけで給料をもらうことは、当時の日本では難しい話でした。
そんな中、留学中のニューヨークに、世界最大級の人権NGOであるヒューマン・ライツ・ウォッチの本部があることを知った土井さんは、試行錯誤を重ね、1年間のフェローというポジションをもらうことになりました。その1年間で、ヒューマン・ライツ・ウォッチの人権調査活動の質の高さにほれ込んだ土井さんでしたが、ある日代表から思いがけない提案を受けます。
「東京オフィスを立ち上げることはできないか」
まさか起業までは想定していなかった土井さんでしたが、ビッグチャンスに「ぜひやらせてください」と即決。ヒューマン・ライツ・ウォッチを日本に上陸させるプロジェクトに挑戦することになります。
莫大な額の資金調達を諦めることなく、東大時代のご友人に相談し、さらに当時マネックスグループで社長をされていた方へと支援の輪が広がっていきます。そして起業活動開始から1年半が経った2009年に、ヒューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィスを正式に立ち上げることができたそうです。
「当初2名ではじめた東京オフィスも、今ではスタッフ10名近くに成長しました。日本の中で、そして国外で起きている人権侵害を止めるアドボカシー活動に専念できる毎日に、感謝しかありません」と、2つ目の転機についての話をまとめました。
世界では今でも、ガザやウクライナでの戦争、ミャンマーやスーダンなどでの紛争で多くの民間人が犠牲になっています。今でも世界第4位の経済大国である日本政府が、その影響力にふさわしい人権外交を行うよう変えていくことが自分のミッションであり、日本に住む自分たちの責任であると、土井さんは語ります。
最後に、東大での生活が充実したものになるように、「海外に飛び出す機会をできるだけつかんでほしい」「自分のパッションに正直になって、その道を追求してみてほしい」という2つのメッセージが送られます。
そして、「みなさんの中から、日本をそして世界をよりよくするアクションを広げていく人がたくさん生まれてくると信じています」と、祝辞を締めくくりました。
土井香苗さんの令和7年度入学式祝辞の全文を読みたい人はこちら