米田あゆさんが新入生に語った宇宙飛行士候補者としての経験と思い―東京大学入学式2024 (2)

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2019年に東京大学医学部を卒業し、昨年には14年ぶりに日本人宇宙飛行士の候補者に選ばれた米田あゆさん。
宇宙を目指す一歩目を歩み始めた立場から、勇気を出した第一歩がさまざまな繋がりを生んで社会を動かしていくことについて新入生に語った祝辞を、ダイジェストでまとめました。

踏み出した「第一歩」

「2024年元日に能登半島を中心に起こった震災で被災された方々に心よりお見舞いを申し上げると共に、現地で支援や復興に当たられている方々に敬意を表します。そして、そのような年の始まりの中で勉学を続け、入学試験に合格された皆様に心よりお祝い申し上げます」と冒頭、能登半島地震の関係者へお見舞いを述べたのち、新入生に労いとお祝いの言葉を述べました。

11年前に東大に入学した米田あゆさんは、卒業後に外科所属の医師として働いたのち、ちょうど1年前からJAXA宇宙飛行士候補者としての訓練を始めました。ご自身の経歴を紹介し、「宇宙を目指し、一歩目を歩み始めたばかりの立場だからこそ、私が考えていることを大学生として第一歩を踏み出す皆さんにお伝えできれば幸いです」と続けました。

新入生に向けて、「皆さん3000人は、これから大学生活の中で交流し、時にはぶつかることがあっても相互に高め合って、一生の仲間となっていく」と述べ、その後「自分で一歩を踏み出すこと」と「社会を一歩前に進めること」のお話に移ります。

自分で一歩を踏み出すこと

「まず、好奇心を持って新しい一歩を踏み出し、感じ、学んだ経験を大切にしてください」

米田さんは大学で初めてヨット部に入部しました。自然に触れ、感覚が研ぎ澄まされたことを語り、「こうした感覚を共有することで、多様なバックグラウンドの仲間とも互いに理解し合い、力を合わせたチームの強さを実感しました」と、大学時代の貴重な経験について話しました。

その8年後、宇宙飛行士候補者選抜試験で、大型バス2台分の広さの閉鎖環境で1週間の共同生活を送る機会があったそうです。「まさに部活の集団生活の再来です」と語ります。米田さんは、主体的にチームに働きかけてリラックスしたムードを作ったおかげで、自身としても自然体で過ごすことができ、「思わぬ形で昔の経験が活かされました」と言います。

米田さんはスティーブ・ジョブズの「コネクティング ザ ドッツ(Connecting the dots)」というフレーズに自身を重ね、経験が思いがけず繋がって価値を生み出すためには、独自の一歩を踏み出し、それを続けることが必要であると語ります。

さらに、「コネクティング ザ ドッツ」は、偶然に起こる人々との出会いが後に大きな社会の形成に役立つ、という意味にとも捉えられると言います。米田さんは新入生に向けて、「皆さんが卒業するころには、3000個のドッツの間には多くの線が引かれ、豊かなネットワークが形成されることでしょう。このネットワークは、一人ひとりが踏み出した第一歩から紡がれるのです」とこれまでの内容をまとめます。

「独自の感性を研ぎ澄まし、人との交流の中で幅広い経験を積むこと」の人間独自の価値は、近年の生成AIの発展によってさらに高まるだろうと考えを述べました。実世界の経験を通した感情や感覚の重要性を語るとともに、その経験をもとに他者と対話し共感することの必要性を訴えます。

 

 

社会を一歩前に進めること

米田さんが現在関わっている宇宙開発のお話がありました。タイムリーな話題として、ちょうど入学式の前日の日米首脳会談にて、アルテミス計画のもと日本の月面探査ローバと日本人宇宙飛行士が月面に降りる合意がなされた、という発表がありました。国際宇宙ステーションでは国際協力のもとで多くの知見が培われており、一人の人間、一つの国では決して成し遂げることのできない、さらなる挑戦が始まっています。

米田さんは現在、宇宙飛行士候補者として、主につくばと米国ヒューストンで訓練をされています。そこではJAXAの先輩宇宙飛行士をはじめ他国の宇宙飛行士の存在が大きく、自分の至らなさを感じ、圧倒され落ち込むこともあると言います。しかし、「様々な方々と関わり、良いところを参考にし、協力し合って、日本そして世界の宇宙開発を一歩前に進めることに少しでも貢献できるよう日々の訓練に取り組んでいます」と力強く述べました。

「これまでを振り返ると、世の中にはこんなにもすごい人が沢山いるのだと常に感じ、刺激や勇気をもらいながら歩んできたように思います」

大学受験まで、在学中、社会人になってからも多様な観点から尊敬できる人達に出会えたと言います。さらに、医師としての勤務時に出会った、小児病棟で闘病する子どもたちについて語ります。過酷な状況下でありながら、好きなことに一生懸命に取り組む姿、そして同室の同じように辛い思いをするお友達を必死に励ます姿に心打たれたと言います。「一人ではなく、一緒に頑張ることでより勇気が湧いてくるようでした。彼らの困難に前向きに立ち向かう強さや、周囲に対する心の奥底からの優しさに多くの学びを得ました」と語ります。

「皆それぞれが役割を担った当事者であり、個として自身の力を高めながらも、互いに影響を与え合う存在であることを自覚しました。そして私自身、自分が他者から学びを得るように、自分も他者に良い影響を与え、周りの人々や社会の新たな一歩を後押しできる存在でありたいと思っています」とまとめました。

一歩進み、一歩進める

個人的な一歩の積み重ねが自分の独自性となり、挑戦を続ける。そのチャレンジ精神が周囲に影響を与え、勇気を得た人がまた新たな挑戦をする。米田さんはこうしたサイクルが社会に必要であるとしました。

「一人の人間にとっては小さな一歩であっても、人類にとっての大きな飛躍のきっかけになることもあります。『あなた自身』の一歩が、『社会』の一歩、そして『人類』の偉大な未来に繋がっていくのです」

「一歩を踏み出して挑戦を続けていってください。一緒に頑張っていきましょう」と、米田さんと同じく第一歩を踏み出す新入生にエールを送り、祝辞を締めくくりました。

 

米田あゆさんの令和6年度入学式祝辞の全文を読みたい人はこちら

文/学生ライター・ S.N.
撮影/尾関祐治