みんなの力を借りながら卒論を書く―東大ゼミ訪問(5)
東大ゼミ訪問
2022.02.17
2022.02.17
「ゼミ」とは何か、東大の先生に聞いてみました!
第4回は、教育学部の准教授の額賀美紗子先生(比較教育社会学)のゼミにお邪魔して、実際のゼミでの卒論指導の話を聞きました。
自称「神出鬼没のライター」タカハシカズコさんが、「卒論ゼミって何?」というギモンを徹底解明してくれます!


カズコ 額賀先生、こんにちは!文学部の村本先生に「東大のゼミ」について、具体的に教えてもらったんですけど、ゼミの学生たちを研究に導く東大の先生の指導がどのように行われているのかも知りたくて、ゼミの様子についてお話が聞きたいです!
額賀先生 それじゃあ、ちょうど明日は卒論ゼミの日だから、ディスカッション部分を録画して、後日一緒にその様子を見るっていうのはどう?
カズコ うれしいです!ありがとうございます。
額賀先生 では、一緒に見る動画なんだけど、代田さんと松原さんっていう2人の学生の卒論進捗状況を扱った回のものになります。動画を見る前に、額賀ゼミの特徴を簡単に説明しておきますね。
⭐額賀ゼミについて
・2021年度はZoomで実施。
・先生の専門は比較教育社会学。「社会や文化の違いがどのような影響をもたらすのか」という視点から議論することが多い。
・学部生と大学院生が参加。ときどきゲスト教員の参加もあり。
・卒論指導の回は(1)卒論生が進捗状況発表(約10分)、(2)額賀先生によるコメント&ゼミ参加学生同士の議論(約20分)という流れ。
・1回につき複数人の卒論生の発表をとりあげる。
額賀先生 まずは、代田さんの発表内容の要約を確認してください。
代田さんの発表内容要約
【テーマ】長期インターンシップの3か国比較(インターンシップとは学生が特定の企業などで実際に仕事を体験する制度)
✅問題関心
・日本では、長期インターンシップは政府が推奨しているものでありながら、1か月以上という期間で実施する企業は少数派。
・他方で長期インターンの応募者数は急激に増加。
・日本における長期インターンの現状と課題は何か?日本以外の2か国との比較からこの問いにせまり、日本型雇用システムにとって有用な制度や仕組みが何かについて検討を加える。
✅メインの方法
・インタビュー調査
✅進捗状況
・日本・アメリカ・スウェーデンの雇用の現状を整理し、インタビューは日本9名、アメリカ3名、スウェーデン2名に実施。
✅悩んでいるところ
・日本以外(アメリカ・スウェーデン)について、インタビューできている人がまだ少ない。
・3か国の状況がわかるにつれて、各国のどこに焦点を当てればいいのかがわからなくなりつつある。
額賀先生 動画の内容で気になるところがあったら、どんどん質問してくださいね。
~代田さん・動画再生(1)~
額賀先生 発表ありがとうございます。インタビュー調査、進んでいるようでよかったです。
代田さん ゼミメンバーや額賀先生に紹介してもらった方と連絡が取れて、始めることができました。
額賀先生 ちょっと安心したというところですかね。
代田さん はい、ありがとうございます。
カズコ 先生!早速なんですけど、インタビューの対象者を紹介してもらうってこともあるんですね。
額賀先生 そうですね。今回は調査に協力してくれそうな知り合いを紹介したけど、ほかにも「この人に助言してもらったら?」、「実際に現場を見てきたら?」と声をかけることもあります。そうやって、自分なりのネットワークをつくっていくんですよ。では、続けて見ていきましょう。
~代田さん・動画再生(2)~
額賀先生 インタビューメインで進めることになると思いますが、「焦点が分からなくなってきた」と最後に言っていましたね。現段階でメインのリサーチクエスチョンは、どういったものになりそうですか。
代田さん まだ固まっていないんですけど、ほかの2カ国の制度や仕組みが日本にどう応用できるかがリサーチクエスチョンかなと思っています。
カズコ リサーチクエスチョンってなんですか?
額賀先生 研究を貫く「問い」のことですね。どんな研究であっても、なぜその研究をするのか、その研究をすることでどんな「問い」に答えることができるのかを考えておく必要があるんです。代田さんの例でいったら「インターンシップについて」とか「インターンシップの研究」というだけじゃ研究にはならなくて、インターンシップの何を、なぜ追究したいのかということを考える必要があるって言えば、わかるかな?
カズコ 村本先生にも「問い」って何かってことをじっくりと教えてもらったんですけど、「問い」って言ったり、「リサーチクエスチョン」って言ったり、いろいろな言い方があるんですね。
額賀先生 私は「リサーチクエスチョン」と表現することが多いけど、「問い」や「研究設問」という言い方をすることもあります。
~代田さん・動画再生(3)~
額賀先生 先行研究はどうでしたか?
代田さん 長期インターンに特化した日本の研究は多くなかったです。諸外国では、調査が進んでいるようでした。
額賀先生 日本でも短期インターンの研究はよくあるけれど、長期になるとそうなんですね。そのことはまとめておく必要がありますね。
あと、アメリカとスウェーデンの違いが見えてこないとのことでしたが、2つの国は「教育⇔仕事…」という流動性の程度に違いがあるのではないですか。その違いがインターンをどう位置づけるかに反映されているのではないかなと思うんですけれども、そのあたりインタビューで出てきましたか?
代田さん アメリカとスウェーデンのインタビューからは、まだそこまでの違いが読めるデータが取れていません…。
額賀先生 日本のインタビューはどうでしたか?
代田さん 日本は、アメリカやスウェーデンとの違いが明確です。日本の学生は就活のためにインターンをしているところがあるんですけど、アメリカやスウェーデンの学生は「まだ可能性がいろいろあるから、就職するか大学に残るかわからない」といった感じで、インターンについても、どう考えているのか見えにくいところがありました。
額賀先生 意味づけの違いが面白いですよね。第1章で制度の違いについて整理して、第2章以降で「じゃあ、学生たちが、長期インターンシップをどう捉えてるか」という議論になっていくのかな…。
カズコ データが集まるにつれて、どこに焦点を当るべきかわからなくなってしまった代田さんに、先生が道筋を示しているように見えました!
額賀先生 インタビューってどうしても語ってくれた話自体が面白いから、積み重ねると混乱しちゃうところがあるんだけど、ここで「社会による捉え方の違い」っていう視点を出して、議論の方向性を確認したという感じです。社会とか、そういう周りの環境によって行動や意識が違うっていうのは、社会科学では重要な切り口なんですよ。
~代田さん・動画再生(4)~
代田さん たしかに、日本の学生からは、インターンを就活の手段にしているという語りが聞けました。でも、アメリカやスウェーデンは違うので、その点を書くということはできそうです。
額賀先生 欧米は資格社会というところがあって、グローバルな労働力をあてにしているところがあるから、何を学んできたかという中身を重視せざるを得ない状況があると思います。ちょっと画面共有しますね。

額賀先生 諸外国では、フォーマルな教育を受けていなくてもスキルを持っていれば、資格とみなす。そして、その資格をもって求職者と企業とのマッチングが成立するということが見られるわけですよね。でも、日本はこうしたことがなかなか進展しない。卒論では、こういうシステムについて説明して、対象としている国が「資格」「スキル」にどう意味づけしているのか、学生たち本人はどうか、こうした議論を長期インターンシップに応用するとどんなことが言えるのか、という議論を加えるといいのではないかと思います。
カズコ 先生が資料を提供することもあるんですね。学生が持ってきたものにコメントをするだけだと思い込んでいました。
額賀先生 資料があったほうが指導しやすいこともあるんですよ。Zoomだと、議論のなかで「この情報、教えた方がいいな」と思いついたらすぐに画面共有できるし、そのあたりはZoomのゼミのいいところとして挙げられますね。
~代田さん・動画再生(5)~
額賀先生 代田さんがやろうとしているのは、とくに学生の経験から浮き彫りになる課題ですよね。どんな課題が出てきそうですか。
代田さん 日本の学生は、インターン経験自体は「よかった」って肯定的に評価しています。でも、かなりの時間を使ったにもかかわらず、スキルを獲得できたわけでもないとも言います。そのあたりの話を丁寧に分析したいと思います。
額賀先生 永福さん!手を挙げてくださっていますね。どうぞ発言してください。
永福先輩 大学によっては長期インターンをすることで単位を出すところがありますよね。同じ長期インターンシップでも、どういう形態のものを経験しているのかによって意味づけも変わってきますから、そのあたりは注意する必要があると思いました。
代田さん たしかにそのとおりです。ご指摘ありがとうございます。
額賀先生 事例の位置付けは大事ですね。どういうサンプルなのかというのをきちんと説明したうえで分析していく。「ここまでは言えるけれども…」という限界も含めて、もう少し考えてみてください。
代田さん ありがとうございました。やってみます。
カズコ 大学院生の先輩がアドバイスされていますね。「みんなで考える」っていう様子が伝わってきました!
額賀先生 それは良かったです。次は、松原さんの発表を見てみましょう!
第4回のまとめ
● 先生は学生ひとりひとりの課題を把握して、その学生に応じたサポートをしてくれている。
● ゼミでは、先生やほかのゼミ生と情報共有をして、各自の研究をみんなで考えながら進めていく。
第5回に続く