【開催レポート!】2024年度 第1回 学校推薦型選抜オンライン説明会―現役推薦生と交流しよう

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【開催レポート!】2024年度 第1回 学校推薦型選抜オンライン説明会

東京大学では学部教育の総合的改革の一環として、学校推薦型選抜(以下、本選抜)を導入しています。制度開始より一貫して、特定の分野における卓越した能力やさまざまな学問領域に対する極めて強い関心・学ぶ意欲を持つ学生を募り、学生の多様性を促進して、学部教育を活性化することをめざしています。
東京大学高大接続研究開発センターでは、今年度も全国の中高生を対象に、オンラインでの説明会を開催。本選抜のねらいや概要を伝えると同時に、本選抜で入学した現役学生(推薦生)との交流を通じ、制度に対する理解と興味を深めることが目的です。
今年度第1回目の開催となる6月22日の説明会は、後日の映像視聴も含めると394名のエントリーがありました。当日、彼らを温かく迎え入れるのは58名の現役推薦生です。推薦生の深い探究心や、充実した学生生活が伝わる模様をダイジェストでレポートします。

 

本選抜には、高校までの探究活動に対する東大教員の評価を聞く体験活動の側面も

冒頭の挨拶では、東京大学副学長で文学部教授の秋山聰先生による、ビデオメッセージを上映。本選抜の受験を検討している中高生に向けて、心のこもった言葉を述べました。

秋山先生「本選抜を担当する立場からまず伝えたいのは、この制度では各種の学術オリンピックやコンクールの入賞歴、留学経験といった、華々しい実績のある人だけを求めているわけではないことです。そもそもそうした表彰制度のない分野で、信念にしたがって精力的に活動している高校生もたくさんいるはずです。本選抜ではみなさんが所属する学校からの推薦の言葉を真摯に受け止めて、特性を見極めたうえでの判断をとても大切にしています。

そして、本選抜の最大の特徴は、体験活動の側面を持つことです。みなさんの日頃の活動や課題意識について、各分野の専門家である本学の教員に伝え、意見を聞き、質疑も行える貴重な機会といえます。本学の学生でも、一般選抜だと専門科目の教員と直接話すのは3年になってからというのも、珍しいことではありません。高校生の時点で取り組みをレビューできることは、選抜の合否によらず自身の糧となるはずです。ですから『敷居が高い』と敬遠せず、迷っているくらいならぜひ挑戦してほしいというのが私たちの願いです」

 
続いて、進行役を務める教育学研究科准教授(高大接続研究開発センター兼担)の植阪友理先生より、東大の特徴や本選抜について解説しました。中でも重点が置かれたのは、本選抜で入学した場合の独自の学修のしくみです。

植阪先生「一般選抜ならば3年次に決める進学先の学部を本選抜では出願時に決めることで、前期課程(1、2年次)も大事にしつつ、早い段階で専門教育に触れる機会を保障しようというものです。前期課程の教養教育を経て専門の学部を決める、一般選抜の教育制度との大きな違いです。本選抜での入学後は、原則的に学部の変更はできません。自身の関心と合致する学部をしっかりと調べて出願してください。たとえば、本学では心理学を複数の学部で学べますが、その内容は学部によって異なります」

 
植阪先生からの説明を受け、高大接続研究開発センター特任教授の高橋和久先生が、次のようにアドバイスしました。

高橋先生「本選抜を設計した際、たとえば、試験当日の体調不良で力を出し切れないといった、運に左右される要素を取り除きたいという思いがありました。そうして行きついたのが、普段のみなさんの姿をよく知る高校の先生に、東大が掲げる社会的使命を果たすに合致する人を推薦していただく方法です。
これから聞く先輩方の話は個人の体験であって、本選抜のすべてを語るものではありません。個々のメッセージをどう抽象化し、本選抜を理解するかはみなさん次第。先輩方との交流をどうぞ楽しんでください」

 

チャレンジの動機も学び方も三者三様 推薦生たちの体験談

制度の概要がつかめたところで、推薦生3名による話題提供に移ります。司会進行は、同じく推薦生の乙川文隆さん(法学部3年)と日浦萌々音さん(理科二類2年、農学部進学予定)が務めました。

 
まずは、ゲノム(DNAの遺伝情報のこと)医科学について、宇宙医学とかけ合わせて研究したいと東大の門を叩いた金澤さんです。幼い頃から化石発掘や天体観測、アゲハチョウを卵から育てるなど自然科学への関心が強く、そこから医学や宇宙への興味が自然と生まれたそうです。

➀ 金澤桜子さん(理科三類1年、医学部医学科進学予定)

 

  • ゲノム研究を志したのは、中学から高校にかけて続けていた研究活動がきっかけです。シラス漁で小魚と一緒にとれる小さな生物が季節ごとに異なることを利用して、海洋魚類の生態を調べる方法を研究していました。英語で論文を書き、学会で発表した際、「学術的に認められるには、採集した生物のDNA分析をして、種を同定する(対象となる生物が、どの分類や種類に属するかを決める)必要がある」と講評を受けたのです。それがゲノム医科学への興味の起点となりました。

研究活動のほか、スタンフォード大学で行われたSTEAM Campに参加して海外の同年代と共に過ごして異文化に触れたり、文化祭実行委員で広報部長を務めたりするなど精力的に過ごされたそうです。

  • 東大への進学を目標としたのは、医学にとどまらず工学や理学など幅広い領域を、世界レベルで学べる環境だと感じたからです。本選抜では、ゲノム医科学が宇宙医学とどうつながりを持つのか、自分なりの考えを伝えました。「自分の興味の赴くままに探究し続けてきたことと、これまでの成果が本選抜につながったのでは」と思っています。

関西から上京して数カ月ですが、学内外の友人と過ごしたり、バドミントン部で汗を流したりとアクティブな毎日で、入学前に抱えていた不安はすぐに吹き飛んだといいます。

  • 医学部医学科の推薦生に適用される早期履修制度の一環で、週替わりで複数の研究室を訪れています。研究室見学では先生方から研究の話を聞いて、実験やプログラミングなどを体験しています。一度教えていただいただけでは理解が難しいこともありますが、実際に手を動かすと「こういうことか」と理解が深まり、すごく楽しいです。興味や関心を追求するのが好きで、大学でやりたいこと、将来の目標が明確な人には、ぜひ本選抜に挑戦してほしいです。

 
次は、小学生の頃に祖父からもらった周期表をきっかけに化学が好きになったという嶌根さんです。小さな頃から、身の回りの「なぜ」に興味津々で、台所やお風呂場も実験室に変えてきたそうです。大学で続ける研究の原点は中学時代に遡ります。

➁ 嶌根亮さん(工学部3年)

 

  • 部活でニトロセルロースの燃え方を調べていたのですが、あるとき地雷の原料に使われている様子を目の当たりにし「もっと平和につながる研究がしたい」とニトロセルロースを肥料として活用することを試みました。でも、高校の頃は新型コロナウイルス感染症の影響で、あまり研究が進みませんでした。
    そこで、知識の習得を兼ねて、国際化学オリンピックにチャレンジしました。準備を通して、有機金属化合物(金属原子をふくむ有機化合物)や超分子(複数の分子によって、単独の分子にはない働きをもつ集合体)の世界に出会いました。正直なところ、オリンピックよりも論文を読み漁るのに夢中になってしまって、少しでも早く大学で研究したくて、本選抜に挑戦しました。

入学後は授業の一環で、1年の頃から研究活動を開始。紙や木材の主成分であるセルロースからプラスチックをつくるのに、分解を速める触媒の研究を進めてきたそうです。推薦生ならではの早期履修制度を使うことで、3年生前期(Sセメスター)までに卒業研究以外のほとんどの単位を修得しました。時間ができた3年生の後半はシカゴ大学に留学し、超分子を研究する予定だといいます。

  • 留学を勧めてくれたのは、アドバイザー教員。入学時から推薦生の東大での学びを支援する存在です。各分野の第一線で活躍される先生に相談できるのはすごいことです!早期履修制度やアドバイザー教員制度など、推薦生ならではの制度をフル活用しました。3年からは早期配属制度により、入学前から希望していた研究室に所属します。アドバイザー教員と同じ研究室で、分解可能プラスチックと触媒の合成を研究しています。
  • 東大に来て思うのは、研究環境の素晴らしさ。先生方はもちろんのこと、東大にしかないような希少な設備が揃っています。関心がはっきりしていて、早く究めたいと考えている人には、本選抜をうまく活用してほしいと思います。

 
最後は、高校生で司法試験に合格した仲西さんです。東大では授業のほかに五月祭でAI模擬裁判を企画したり、国際法のサークルで模擬裁判に臨んだりする日々を送っています。よほどの法律好きかと思いきや、初めのうちは理系への進学を考えていて「将来は医師か物理や化学の研究者になろう!」と心に決めていたそうです。

➂ 仲西皓輝さん(文科一類2年、法学部進学予定)

 

  • 契機が訪れたのは高校入学の頃。新型コロナウイルス感染症により休校が続き、時間ができたので興味のある分野を掘り下げていたときに、宇宙太陽光発電所という構想を知りました。でも、技術的には理論上実現できる段階に達しているのに、国家間の権利や法律が壁となり先に進まないという現実に衝撃を受けました。
    法学を究めるほうが理化学の道に進むよりも人の役に立てるのではないかと考え直し、もともと「論理的で理屈好きなところがあって法学向きだよね」と周りから言われていたことも方向転換につながりました。

面接では「宇宙法を学びたい!」と真剣に訴えかけた仲西さんは、東大に入学して幅広く教養を学ぶうち、いろんなことに関心が広がりうれしい悩みを抱えているそうです。もし一般選抜で入学していたら、もっと宇宙法に縛られていた学生生活だったに違いないと話します。

  • 法の観点から、宇宙開発に貢献したい思いや入学後にも探究活動をしたいということを踏まえて本選抜に挑戦しました。宇宙科学実習の授業は、100人いる受講生のうち文系は私ひとり。宇宙物理学だけでなく、経済学や会計学の講義もとても楽しいです。どの分野も学ぶうちに法と関わりを持つことがわかって、将来の進路を考えるとワクワクします。

本選抜での準備を通じて自分の人生に向き合った経験が、今、大学で有意義な時間を過ごせている理由だと言います。

  • いざ法律の勉強を始めると、ものすごく面白い!いわゆる受験勉強と違って、学問に触れているんだと実感しました。大学では高校とは比べものにならないくらい広い世界が待っているので、みなさんも自分の可能性をどんどん広げていってください。

 

中高生の気づきにつながる実体験に基づいたアドバイス

休憩を挟んで、いよいよグループ交流の時間です。推薦生2名と中高生数名ごとに26の班に分かれ、推薦生の体験や東大での生活について質問したり、周りの中高生の興味や関心を知ったりすることができます。

ここではグループ交流での対話の一部をご紹介します。

高校生A「推薦生の発表を聞いて、みなさん活動的な印象を受けました。私は図書館で本を読むのが好きで、校外での活動もそう多くありません。そういう人でも本選抜に向いていますか?」

  • まずは募集要項を手がかりにするのがいちばん!学部ごとに求める学生像や学部長のメッセージが書かれています。読んでみて「これは自分のことだ」と思えたら、チャレンジするだけの価値はあると思います。
  • 本選抜に「こうだったら合格」といった絶対的な条件はないですよね。たとえば、出願時の提出書類は大学が求める人材であることを証明するものであって、コンクールの入賞歴や留学経験を求めているわけではないと思います。

高校生B「ロボットにも教育にも興味があって、今取り組んでいる活動も文系・理系に分けられない分野です。本選抜では出願時に学部を決める必要がありますが、どう考えるといいのでしょうか?」

  • 文理の境界を超えて関心があるなんて素晴らしい!学部選びは文系か理系かではなく、自分の関心に合わせて考えるのが基本だと思います。東大の場合、後期教養学部で複数の学部や分野にまたがる学際領域を扱っているので、一度ホームページなどを調べてみては。
  • 課外活動も含めて、これまでやってきたことをすべて書き出してみるといいかも。これは使えないと思ったものでも、ひたすら書き出す。そして、なぜ取り組んだのか自問自答してみる。書き出したリストがめちゃくちゃに思えても、客観化すると意外と一本の芯が通っているものです。

高校生C「複数の学部で扱っている分野は専門的過ぎて、学部や研究室のホームページを見てもよくわかりません。何に着目すればいいのですか?」

  • 高校生の時点で完全に把握するのは、確かに難しいかもしれない。僕の場合、入口は読書でしたね。自分が面白いと思った本のテーマや著者のプロフィールから、関心を深掘りしていきました。余裕があれば、論文にあたってみるのもいいかもしれない。あとは、気になる本の参考文献から探ってみるのもいいと思います。

本編終了後には、「地学・宇宙・物理」や「経済・社会」など、10のテーマに分かれての交流タイムも設けられ、そこでも中高生と推薦生の活発なやり取りを見ることができました。本選抜を経験し、東大生活を思いきり楽しむ推薦生との対話は、中高生にとって今後の進路を考えるきっかけになり、有意義な時間だったに違いありません。今後の説明会の開催日程など、学校推薦型選抜の各種情報は下記参考リンクからご確認ください。
 

取材/2024年6月
取材・構成/たなべやすこ