高校生・受験生が東大を
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――文科三類で入学後、教育学部に進学され、卒業後はそのまま教育関係の職業に就かれたのですか？
卒業後は、民間企業に就職しました。重工メーカーの電力・エネルギー部門で、火力発電プラントの営業の仕事です。経済学部に進んでいればよかったかなとそのときは思いました（笑）。ただ、働いているうちに、やはり教育に携わる仕事がしたいと思い、退職して教員免許を取り直しました。その後、14年間学校現場で英語教師として勤務し、その後は教育委員会で仕事をしています。

――教員免許を取り直したということは、在学中は教員になろうとは考えていなかったんですね。
全く（笑）。当時は、社会と教育の結びつきや学校での生徒と教師の関係性に興味がありました。

――教育に興味をもつきっかけというのはありましたか？
明確なきっかけはなかったです。ただ、私が東大で過ごした1990年代後半は、いわゆる「ゆとり教育」の下地になる議論が盛んでした。また、「子どもの権利」を扱った講義に興味をもったというのもありますね。それで教育学部進学を決めました。

――「子どもの権利」の講義というのは、前期課程の講義ですか？
そうですね。前期課程で開講されている「法I」の講義です。そこで初めて「子どもの権利」という概念に出会い、新鮮でした。

――そのほかにも、印象に残っている講義はありますか？
第二外国語ですね。私はドイツ語でしたが、大家と呼ばれるような先生に指導していただいた経験というのは英語教師をする際に役立ちましたし、そのときのクラスメイトとは今でもたびたび会っています。駒場祭では、このクラスで「文Ⅲ劇場」にも没頭しました。教育学部進学後は、20人くらいのゼミ形式の授業がほとんどで、教育学の最先端を行く先生方を相手に議論や発表ができたのは、今の自分の根幹になっています。
 

全ての学びが子供たちの将来につながった

――お仕事をされていて、大学で身につけた知識や技能が役立つことはありましたか？
物事を複眼的、客観的に見る力や、その裏付けとなるフィールドワークを中心とした調査手法などは、どのような職業でも役立つと思います。また、教育学部での学びは、今で言う「アクティブラーニング」そのもので、その経験は「総合的な学習の時間」の授業実践に活かすことができました。発電プラントの営業をしていた経験も活かして、東日本大震災後の電力・エネルギー問題について生徒と一緒に1年をかけて調査研究に取り組みました。資源、経済、歴史的な背景など多角的に調べて、大学の先生に講義をしていただいたり、実際に発電所の見学にも行ったりしました。

――もう大学の講義ですね（笑）。
自分たちで主体的に取り組んでいるせいか、生徒もよくついてきてくれます。

――「アクティブラーニング」ですが、生徒が調べたいと思う課題があって、応援してくれる先生と環境があって、初めて成立することですよね。
たしかにその通りです。生徒の関心も一人ひとり違いますし、すべての授業でそういった学びができるわけではありません。

――新しい学習指導要領の目標が「主体的・対話的で深い学び」としていますが、簡単なことではないと思ってしまいます。
私は今、フィリピンの学校にアクティブラーニング型授業の導入を支援するという仕事に関わっています。日本やフィリピンのみならず、「生徒が主体的に学ぶ」ための教育改革は世界的な潮流のようですが、一方で、さまざまな理由から学校教育そのものを十分に受けられない子供たちも世界にはたくさんいます。

――そもそも、大学生だって難しいのに、小学生が主体的に何かに興味を持つこと自体が難しいと思います。
だからこそ、進学選択があることを理由に東大をめざす高校生も少なくないのでしょう。

――高校生とか、大学生になっても、「自分の興味があることがわからない」って悩んでいる人ってけっこういるんですよね。
東大のよいところは、そうやって迷う時間というか、興味を探る時間を前期課程で持てることですね。私自身、教育学部に進学するにあたってたくさん迷いましたし、教職に就く前には民間企業にも就職しました。ただ、東大生のすごいところは、迷いから道を切り拓く力強さです。悩んで、「この道じゃなかった」といつか気がついても、努力や知性、そして仲間や先達の導きによって、本当にやりたいことにたどり着きます。

――迷うことは必ずしも間違いではないですもんね。本日はありがとうございました。
 

インタビュー／佐藤 咲良（学生サポーター）
企画・構成／「キミの東大」編集チーム

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