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この世界の基本法則を探るために素粒子という窓を覗くのが素粒子物理学です―理学部・横山将志教授

2019.01.07

研究室探訪

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PROFILE

横山 将志(よこやま まさし)

2002年 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、博士(理学)取得。2003年より京都大学大学院理学研究科助手、2007年同助教、2009年准教授を経て、2019年12月より現職。2002年度高エネルギー物理学若手奨励賞を受賞し、2015年にBreakthrough Prize in Fundamental PhysicsをK2K/T2K collaborationとして共同受賞。加速器で人工的に作り出したニュートリノをスーパーカミオカンデに打ち込む実験でニュートリノ振動に関する詳細な研究を行っている。

目に見えないけれど実際に起きている不可思議な現象に惹かれて

中学生のころだったでしょうか、相対性理論や量子力学について易しく書かれたものを読んだら、僕たちが生きているこの世界で、僕たちの日常感覚とはまったく異なる現象が起きていると書かれていました。その不思議さに惹かれたことが、物理学に進みたいと思ったきっかけでした。

素粒子物理学の分野では日本人が何度もノーベル賞をとっていますが、その一つに、小林誠博士と益川敏英博士の提唱した「小林-益川理論」があります。30年にわたって多くの研究者がこの理論の検証を行っていましたが、最後に残されていた重要な予言を実証したのは、僕が博士課程の時に参加していた実験でした。

理論とは違う結果が出たときこそが、さらなる発展のチャンス

でも僕自身は内心、「予言通りでないといいな」と思って実験していたんです。なぜなら、理論と違う結果が出れば、その理論をより良いものに書き換えたり、新たな理論を生み出したりする手がかりになるからです。

たとえば、ニュートリノに質量があることが示された実験がまさにそのケースでした。

多くの素粒子物理学者が支持してきた「標準理論」ではずっと、ニュートリノには質量がないと考えられていました。しかしある時、この考えが実験によってひっくり返されたのです。これは従来の理論に書き換えを迫る大発見でした。この発見をした梶田隆章博士は後にノーベル賞を受賞しています。

ただ、従来の理論通りでないことはわかったものの、どう書き換えたらいいかはまだわかっていません。僕がいま取り組んでいるのは、ニュートリノの性質をより詳しく知ることで、理論の書き換えの方針を探るための実験です。

スーパーカミオカンデはニュートリノの観測装置として世界最大ですが、いま、この10倍の規模をもつハイパーカミオカンデを作ろうと計画しています。大きければ大きいほど、ニュートリノなどの素粒子の性質をより深く調べられ、まだ誰も見たことがない、陽子が崩壊する瞬間をとらえる確率が上がるのです。


2018年夏のスーパーカミオカンデ改修時には内部に入り、作業を行った。
足の下にはまだ抜ききっていない水が数メートル分ある

直径・高さがそれぞれ約40mの装置内に入るために、天井からボートと浮床を下ろして水面に浮かべ、その上で研究者たちが作業する
(写真提供=東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設)

物理学は「世界の基本法則」を探す学問

素粒子物理学というとこのように、小さな粒子にひたすらこだわるイメージがあるかもしれませんが、ものを小さく分けていくこと自体が大事なのではなく、素粒子を知ることでこの世界がどんなルールで成り立っているかを知りたい、という思いが根底にあります。

宇宙物理学や生物物理学、物性物理学……さまざまな物理学がありますが、覗く窓が違うだけで、知りたいことは同じく「自然現象をできるだけシンプルに説明できる法則」です。僕にとってはその謎を解く手がかりを与えてくれるのが素粒子なんです。

これまで誰も見たことがないものを見られるフロンティア

素粒子実験の醍醐味は、自分の作った装置で、まだ誰も見たことがない素粒子や粒子のふるまいを見られること、そしてそれが世界のより基本的な理解に繋がる新たな知見につながっていくことだと思います。もちろん、必ず新たな何かに出会えるとは限らない。でも素粒子の研究者はみな、研究者人生をかけて、それぞれの場所で、きっとここに金鉱があると信じて探しているんです。

大学とは、教科書を学ぶ場所ではなく、どこにも書かれていない答えをどうしたら知ることができるかを考える場所。なかでも素粒子物理学は、「世界はどんな法則で成り立っているのか」という、まだ誰も答えきれていない究極の問いに正面から向かい合える分野だと思います。

 

取材・文/江口絵理
撮影/今村拓馬
※ページ内容は作成時のものです。
(※2019.12.1 一部更新)