【開催レポート!】2022年度 第2回 学校推薦型選抜オンライン説明会―推薦生それぞれの個性的な学びのストーリーを知る

#学校推薦型選抜(推薦入試) #学校推薦型選抜(推薦入試) #説明会 #説明会

【開催レポート!】2022年度 第2回 学校推薦型選抜オンライン説明会

東京大学では学部教育の総合的改革の一環として、学校推薦型選抜(以下、本選抜)を実施しています。制度開始より一貫して、特定の分野に卓越した能力や、さまざまなことへの極めて強い関心、学びの意欲を持つ学生を歓迎し続けてきたことから、多様な学生構成の実現につなげてきました。
東京大学高大接続研究開発センターでは、今年度も全国の中高生を対象に、オンラインでの説明会を開催。制度のねらいや選抜方法を知ると同時に、推薦で入学した学生(推薦生)との交流を通じ、制度に対する理解と興味を深めることが目的です。
今年度2回目となる8月19日の説明会には、録画視聴を含めた申し込み総数は373名、ライブ配信は230名となり、参加した中高生を55名の現役推薦生が温かく迎えました。本稿では、当日の模様をダイジェストでレポートします。

出願準備がこれまでとこれからの自分と向き合う経験に

冒頭あいさつには東京大学副学長で、入試改革を担当する武田洋幸先生が登場。ビデオでメッセージを送りました。

武田先生「東大の推薦型選抜と聞くと、敷居が高く、一握りの人しか受けてはいけないものに思えるかもしれません。しかし選抜では出願者一人ひとりの提出書類に丁寧に目を通し、学校での過ごし方や校長先生の推薦の言葉をしっかりと受け止めています。これまでも意欲的で、東大での学びによりポテンシャルが大きく伸びると判断した人たちを、多く受け入れてきました。今日の説明会では推薦生とじかにふれ合うことで、本選抜で東大に進学した先輩のいない学校の生徒さんにも、推薦生たちの大学生活の様子をつかんでもらえる機会になるのではないでしょうか。全国から多くの参加があり、嬉しく思っています」

続いて本日の進行を務める、高大接続研究開発センター 准教授の植阪友理先生より、東大の学びの特色や本選抜の特徴や入学後の課程、選抜方法などについて述べました。

概要を押さえたところで、本選抜開始時より制度に関わっている、高大接続研究開発センター特任教授の高橋和久先生からアドバイスが。制度の本質に迫りながら具体性があり、出願に迷う中高生の背中を押す内容でした。

高橋先生「自身がチャレンジするのに向いているかを知るには、本選抜の基本方針を読み込むとよいでしょう。きっと私たちが単に勉強が得意とか、コンクールで優秀な成績を収めている人を求めているのではないと、理解してもらえると思います。またこの制度では、校長先生の推薦や提出書類や面接の準備など、高校の先生方に協力を仰ぐことになるでしょう。周りの人たちといい関係を築きながら、臨んでもらえたらと思います。自分のこれまでを振り返り、これからやりたいことを言葉にする作業を通じ、今後の人生の目標や大学での過ごし方を考えるいい機会となったという推薦生はたくさんいます。ぜひ東大に合格するために何かを始めるのではなく、これまで取り組んできた興味関心の探究や社会活動を広げる手段として、本選抜に挑戦してみてください」

植阪先生「最終的に一般選抜で入学した東大生でも、本選抜にチャレンジして学ぶ目的が明確になり、有意義に過ごせていると話す人もいます。準備は大変ですが、得るものも多いはずです。こうしたら合格するという対策はない制度ですので、正攻法で取り組んでいただけたらと思います」
 

推薦生それぞれの個性的な学びのストーリー

続いて、現役の推薦生3人が登場し、本選抜を目指した動機や入学後の生活について自身の体験を発表しました。このコーナーの進行を務めたのは、文学部4年の田中美月さんと文科一類1年生で法学部に進学予定の乙川文隆さんです。

白坂翠萌さん(理科一類1年、工学部進学予定)

幼少期から昆虫採集や植物観察、星空観測などの自然体験を重ね、環境や宇宙に関心を持っていた白坂さん。高校進学時には理系コースを選択し、課外活動では金星大気の波動を研究したり、アメリカのニューヨーク科学アカデミーで、各国の高校生といろんなテーマについて探究したりして過ごします。

白坂さん「理系を選択しつつも、大学まで続けていいものかと迷っていて、研究を体験できるプログラムを自分で探しました」

国際学会での発表や論文執筆の機会にも恵まれ、自然と東大への進学も意識。高3の4月には本選抜での受験を決意します。当時は自分のやりたいことは理学部にあると考えていたものの、出願準備を進めるうちに疑問が沸いてきます。

白坂さん「自然科学への興味に変わりはないですが、本当に理学部なのかと。それで東大のすべての理系学部のwebページをくまなく読んでみました。そうしたら、いちばんワクワクしたのが工学部だったんですね。小さい頃から、ものづくりが好きだったし、プログラミングも楽しんでいる自分に気づきました。それで志望学部を工学部に変更し、提出資料などもすべてつくり直しました」

入学後はさっそく早期履修制度を活用し、工学部の先輩と一緒にオーストラリアの学生との共同実習でロボットの遠隔操作にも挑戦。今後は自然科学に対し、工学の観点からどのようなアプローチができるか模索していきたいと話していました。

原田玲歩さん(文科一類1年、経済学部進学予定)

原田さんは東大生でありながら、社会起業家としての一面も併せ持ちます。高校のときに立ち上げた会社は、ジェンダーなどの社会課題をなんとトイレを通じて解決させるというもの!中3のときに知ったジェンダーフリートイレや友人のカミングアウトをきっかけに、高1では1年間のアメリカ留学でトイレ研究に没頭。帰国後、研究の成果を形にしようと起業を決意し、開発したトイレットペーパーが大きな注目を集めます。

原田さん「トイレにまつわる漫画が印字されていて、トイレを利用する時にSDGsを学べるものです。日本トイレ大賞を獲得し、官公庁や企業とのコラボレーションの打診やラジオやテレビの取材が入るようになりました」

多忙を極める原田さんは、周囲の勧めから本選抜での受験を決意。受験を決めた理由は、トイレ研究に恵まれた環境に惹かれたこと、経済学を通じてすべての人が社会参画できる仕組みを探究できるということが大きかったとのことですが、それだけではなかったようです。

原田さん「会社での活動を先生方に知ってもらうことで、有意義なフィードバックや新たなプロジェクトが生まれる可能性があるかもって。営業活動にもなると思い、経営資料やトイレットペーパーを持ち込んでアピールしました」

入学後は前期教養の特性を生かし、福祉や看護領域の講義を選択するなど学びの幅を広げている原田さん。活動に共感してくれる友達も増え、既に学内で新プロジェクトが立ち上がっているそうです。

若林勇太さん(農学部4年)

若林さんが所属する獣医学課程は、農学部の中でもニッチな領域。「東大に獣医ってあったんだ」と、学内関係者からも驚かれるそうです。一般的には“動物のお医者さん”をめざすイメージのある獣医学ですが、若林さんの関心は別のところにあるとか。

若林さん「ウイルス感染症の研究がしたかったんです。進学時は医学部や薬学部、理学部なども候補に上がりましたが、臨床にはあまり興味がなく医学部ではないなと。それに人にかかる感染症の多くは、動物由来で生じる。そう考えると獣医学が面白そうだと思ったんです」

獣医学課程は6年制で必修科目も多いため、今もほとんど空きコマのない状態の若林さん。午前中に講義を受け、午後は実習というのが、1日の基本的な流れです。

若林さん「解剖学実習ではイヌやヤギ、ブタなどを実際に解剖しますし、レントゲン写真やMRI画像の所見を問う画像学診断や複雑な学名を覚える細菌学など、獣医学ならではのものも多いですね。また国際感染症研究所や屠畜場、動物愛護センターを見学する授業などもあります。それでも実習はほぼ5時までに終わるので、夕方からアルバイトや課外活動にも参加できます」

講義や実習と並行しながら、土日も含めて研究にも没頭。研究室では机も割り当てられ、若林さんの拠点となっています。

推薦生たちの話を聞いてイメージが膨らむと、参加者もチャットで質問するように。途中、田中さんや乙川さんが発表者に投げかけたり、周りの推薦生もチャットで補足したりして中高生の知りたい思いに応えます。
 

推薦生だから共感できる中高生ならではの疑問や悩み

ここからは参加者と推薦生が、7~8名のグループに分かれての交流タイムです。本選抜にチャレンジし、東大で過ごす推薦生に、質問したり相談したりできるチャンスです。ここでは対話の一部をご紹介します。

高校生A「東大入学後に、印象に残っている講義はありますか」

  • 適応行動論かな。動物や人の習性や行動を生物学的見地から考える講義で、文系の私でも興味深く聞くことができました。歴史学は社会や経済の動きを歴史というフィルターをどうしてどう見ていくかという内容で、高校までのような年号と出来事の整理や暗記で終始しなくて、これが大学の講義か!という感じがします。
  • 僕は医学部だけど、教育学部のバリア・スタディーズかな。人の特性に障害があるのではなく、社会や仕組みに障害があるという発想で、ユニバーサルデザインを考える講座。世の中の見方が変わり、やさしい気分になれます。適応行動論も面白かった。
  • 文理問わず、いろんな講義を受けられるのは嬉しいですよね。必修と重なって泣く泣く見送ることもあるけど。

高校生B「思いが先に溢れて、論理的に説明するのが苦手です。面接でもうまく話せないかもと不安になります」

      • 東大生って基本的に話すのが好きで、聞くのも好きな人が多いから、多少つたなくても受け止めてくれる人は多いかも。面接が不安なら、自分のやりたいことを書き出したりして整理してみるといいかも。筋道が通っているか、客観的に検討できるし。
      • 僕は理屈っぽいって周りに言われるほうだから、感情を伝えられるのはうらやましい。志望動機書も言葉に思いを載せるのに苦労して、推敲に時間をかけました。書いたら数日間寝かせて確認したりしましたね。

高校生C「コンテストに参加したけれど、入賞できませんでした。コンテストの受賞歴のない推薦生っているんですか」

        • 多いと思いますよ。私もコンテストに参加したことはなかったし。自分のやりたいこと、興味のあることを探究し、行動や形にした経験が重要なんだと思う。
        • 私はたまたまオリンピックで受賞したけれど、自分の関心を探究し続けてきたというのが先にある。本選抜では賞のことではなく、やってきたことを伝えたつもり。
        • 今日発表していた推薦生たちも、何をしてきたか、何をしたいかを明確に説明できていたよね。コンテストありきでなく、自分のしたいことをやるのがいちばんかと。仮にやりたいと思っていないことで入学しても、そのあと大変じゃないかな。

ちょうど打ち解けてきたところで、交流タイムもあっという間に終了。全体でのプログラムはここでいったん区切り、希望者は学部別に設けられたルームで、さらに推薦生たちと交流を深めました。法学部の選抜で行われる集団討論や、理学部と工学部や農学部の学問の性質の違いなど、それぞれの学部ならではの話題で盛り上がり、出願を検討する中高生たちも、学部選びや今後の過ごし方のヒントを得られた様子でした。

【参考リンク:今後の説明会の開催日程など、学校推薦型選抜の各種情報はこちら】
東京大学ウェブサイト:https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_26.html

取材/2022年8月
取材・構成/たなべやすこ