【開催レポート!】2022年度 第1回 学校推薦型選抜オンライン説明会―現役推薦生と交流しよう

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【開催レポート!】2022年度 第1回 学校推薦型選抜オンライン説明会

東京大学では、学部教育の総合的改革の一環として学校推薦型選抜を実施しています。前身の推薦入試を開始した2016年度より、一貫して特定の分野に卓越した能力、さまざまな極めて強い関心・学びの意欲を持つ学生を受け入れ、多様な学生構成の実現につなげています。
本選抜のねらいや一般選抜との学生生活の違い、本選抜で入学した学生(推薦生)のリアルな声を紹介し、学校推薦型選抜に対する理解と興味を深めることを目的として、6月4日に、東京大学高大接続研究開発センターでは、全国の中高生等を対象に、学校推薦型選抜オンライン説明会を開催しました。
当日はライブ配信に参加する中高生が220名、録画視聴も含めると総申し込み数は451名にのぼり、本選抜に対する関心の高さがうかがえます。当日の模様をダイジェストでレポートします。

「何をしてきたか・何を学ぶか」を問う学校推薦型選抜

冒頭あいさつには東京大学副学長で、入試改革を担当する武田洋幸先生が登場。学生たちにビデオでメッセージを送りました。

武田先生「東大の学校推薦型選抜と聞くと、敷居が高く、一握りの人しか受けてはいけないものに思えるかもしれません。しかしコンクール入賞や留学などのわかりやすい実績は、経験のひとつに過ぎません。選抜では出願者一人ひとりの提出書類に丁寧に目を通し、学校での日常の活動や校長先生の推薦の言葉を受け止めています。これまでも、意欲的で、東大での学びによりポテンシャルが大きく伸びると判断した人たちを、多く受け入れてきました。今日の説明会は本選抜への正しい理解を深め、より積極的に志願してもらいたいという思いから企画したものです。推薦生と交流することで、本選抜で東大に進学した先輩のいない学校の生徒さんにも、学校推薦型選抜の本当の姿を伝えられるのではないでしょうか。一人でも多くのみなさんが、チャレンジするきっかけとなってほしいと思います」

続いて、本日の進行を務める、高大接続研究開発センター准教授の植阪友理先生より、東大の特色と選抜の特徴や概要を説明しました。特に一般入試で入学する場合との違いについては、次のように説明しました。

植阪先生「一般入試で入学される場合は、3年に進級する際に学部を決めますが、学校推薦型選抜では、学部や学科を決めて入学します。リベラルアーツと並行しながら、早い段階で専門領域も学べるのが特徴です。そのため本選抜では、みなさんが『何を学びたいのか、そのためにこれまで何をしてきたのか』を丁寧に確かめています」

概要を押さえたところで、東大の推薦入試開始時より制度に関わっている、高大接続研究開発センター特任教授の高橋和久先生から、補足のアドバイスがありました。その内容は本選抜の本質を捉え、参加した生徒の皆さんに響いた様子でした。

高橋先生「この制度では、東大入学を目的とするのではなく、純粋な知的好奇心に溢れ、世のため人のためになりたいと活動し、そのためには東大で学ぶことが最善の選択、と考える人を求めています。本選抜には有効な対策などなく、先輩たちが語る経験も個人的なものに過ぎません。また東大は、ひとつの学問領域が複数の学部に設けられています。たとえばアメリカ史は、文学部の史学科には関連する研究室がありません。学びたければ教養学部に進むべきだし、理系分野はさらに複数の学部にまたがっていることが多々あります。学びたいことから学部選びをしないと、大変なことになるでしょう。出願書類の準備は大変ですが、志望理由を書くことで自分がやりたいと漠然と思っていたことが明確になったという先輩がたくさんいます。ぜひ積極的にトライしてください」
 

現役推薦生に見る、それぞれの探究ストーリー

ここからは第2部。進行を現役の推薦生にバトンタッチし、学部と学年の異なる3名が、受験と入学後の生活について、自身の体験を発表しました。進行を務めたのは教養学部2年で教育学部比較教育社会学コースに進学予定の板谷舞華さんと、工学部出身で大学院工学系研究科 修士2年の長原颯太さんです。

森田航輔さん(理科二類2年、薬学部進学予定)

森田さんは自身が進学した薬学部について、「薬のつくり方を学ぶ」「薬剤師になるための学部」という表面的な印象で、学部選びの候補から外すのはもったいないと指摘。なぜなら、化学と生物を中心に、複数の自然科学の要素が融合された学問だからです。

森田さん「特に東大の薬学部は、創薬における基礎研究が活発です。薬物に関連する物質のことを化学的アプローチで確かめたり、その物質を体内で生成できる生物のことを調べたりするなど、有機化学や生命科学に興味のある人にも薬学部の道はあるのです」

森田さんは、高校のときにアマゾンに生息する植物に含まれる有機化合物について研究していて、天然化合物のことをより幅広い領域から深めていきたいと考え、薬学部を選択したといいます。その思いは教養科目の選択にも反映されています。

森田さん「推薦生は進学選択がない分、履修の自由度が高い。『文3(文科三類)なの?』と周りに聞かれるほど、文系の科目を数多く履修しています。そのおかげで必修科目の内容も、深みを持って理解できている気がします」

夏休みには研究室実習を体験し、天然化合物の探究も充実。推薦生ならではのアドバンテージを活用している様子が伝わりました。

岡野明莉さん(文科三類1年、教育学部進学予定)

香川県出身の岡野さんは、小さな頃から世界の学校を調べるのが好きで、中学生になると日本の教育に課題を感じたのだそう。どうしたら学校が、子どもにとって居心地のいい場所になるのかと考え出会ったのが、インクルーシブ教育です。障害の有無に関係なく同じ空間で学び合う仕組みに感銘を受け、将来絶対に研究したいと思うように。そして東大にインクルーシブ教育を研究する先生がいることを知り、受験を意識し始めました。
学校推薦型選抜受験を決めたのは、高校時代、総合の授業の課題で県への政策提言を行ったことがきっかけでした。

岡野さん「ハンセン病の療養施設に訪問したときの気づきをもとに、小中学生が病気への理解を深めながらアート作品を創作し、Web上で公開する体験学習の仕組みを提案しました。県や大学の先生、同級生からも好評で、自分の想いや考えに自信が持てるようになりました」

東大入学後は授業を受ける傍ら、アドバイザー教員の支援のもとインクルーシブ教育定例研究会にも参加。有識者や実践家の話を聞く貴重な機会になっています。またジェンダー論や教育臨床心理学などの授業を通じ、関心の広まりを実感しているところです。
この先のことはこれからじっくり考えたいという岡野さんですが、学校でのボランティアやインクルーシブ教育が進んでいるヨーロッパへの留学も視野に入れているそうです。

橋本恵一さん(理学系研究科地球惑星科学専攻修士1年)

橋本さんは大学院の大気海洋科学講座で、積乱雲の発生メカニズムを研究しています。その原点は、高校時代の地学部での活動です。高校生で参加した、地球惑星科学の研究大会のポスターセッションで東大の先生と出会い、東大では橋本さんのポスターと同様のテーマを、スーパーコンピューターを用いて研究していることに衝撃を受けたからです。
この出会いをきっかけに、東大を目指し、2年後には推薦型選抜を無事に突破、入学後は研究の続きに猛進……と思いきや、実際にはそうならなかったといいます。

橋本さん「積乱雲の活動や雷の発生にまつわる計算は、物理数学が絡んできます。しかし、私には難解過ぎて、研究に取り組むどころではなかったのです」

そうこうするうち、関心の対象は地震学や海洋学へ移るように。そして、大学4年になり、大学院の入試が近づくと、その原点は積乱雲にあったことを改めて思い出します。

橋本さん「地震学にしろ海洋と大気の関係にしろ、研究には物理数学が必ずつきまといます。自分は結局、苦手なことから目を逸らしていただけだったと気づいたのです」

現在、スーパーコンピューターを操作し、積乱雲発生時のシミュレーションを繰り返す橋本さん。今春には高校のときに参加した同じ大会で、ポスター発表をしました。現在に至るまでは回り道だったけれど、その間の学びや地学部時代の試行錯誤の経験が糧になっていると実感する毎日だそうです。
 

中高生の背中を押す推薦生の等身大なアドバイス

終盤は参加者と推薦生が少人数のグループに分かれ、受験生の頃の過ごし方や入学後の学び、大学生活について自由に語り合いました。最初は緊張気味だった中高生も、フランクに接する推薦生たちに疑問や悩みをぶつけていきました。ここでは一部をご紹介します。

高校生A「興味のある分野がたくさんあって、高3になっても出願する学部が定まりません。どうやって決めればいいのでしょう」

  • 学部にもアドミッションポリシーがあって、募集要項にも記載されています。目を通すと、学部によってめざすことや、求める人材像が異なるのがよくわかります。私は教養学部や理学部も見ましたが、農学部が最も自分に合っていると思いました。
  • 最優先すべきは、東大で何をやりたいのかだと思います。他大学へ進むという選択肢もあるのですから。自分を無理に東大に合わせても、いつか行き詰まってしまうような気がします。

高校生B「(発表した森田さんに)お話をうかがって、高校の頃から難しいテーマに取り組んでいらっしゃると感じました。どのような原体験が研究につながったのですか」

      • 官能基に興味を持ったのは、たまたま見ていたサスペンスドラマにアルカロイドが使われていたのがきっかけです。それから近くの大学で開催していた高校生向けのプログラムに参加して、二転三転するうちに発表で述べたような研究テーマに。『流れに乗ってみる』というのが意外と大事で。そこでの出会いが人生を変え、学校推薦型選抜につながったという推薦生は結構多いのではないかと思います。

このほか高校と大学の学びの違いや、高校時代に取り組んだことなど、話題は多岐にわたりました。高校生の真っ直ぐな思いに、推薦生も親身にアドバイスしていました。

全体のプログラムはここで一区切り。この後は希望者を対象に、学部別にルームを開設しました。高校生は気になる学科を回り、推薦生に向けてより専門的な質問をしていました。参加した高校生からは、「推薦生のありのままの姿を知ることができてとても参考になった」、「学校推薦型選抜を選択肢のひとつとして、真剣に考えたい」といった声が聞かれるなど、盛況のうちに幕を閉じました。

【参考リンク:今後の説明会の開催日程など、学校推薦型選抜の各種情報はこちら】
東京大学ウェブサイト:https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/undergraduate/e01_26.html

取材/2022年6月
取材・構成/たなべやすこ