ちょっとしたきっかけから東大を目指すことに。勉強だけではない大学生活を楽しむ―未来の東大女子へVol.5 学生インタビュー
未来の東大女子へ 2022.09.30
2021.12.06
女子高校生のための東京大学説明会
2021年10月10日(日)、「女子高校生のための東京大学説明会」がオンラインで開催されました。この説明会は、東京大学男女共同参画室の進学促進部会が中心となり、2006年から毎年行っているものです。数多くの高校生が全国各地から参加し、大盛況となった当日の模様をダイジェストでレポートします!
TABLE OF CONTENTS
新たな知と社会を創るには、女性の存在が欠かせない
自分らしい学生生活をデザインする女子学生たち
東大進学のモヤモヤを総長に直接相談!
勉強に限らず幅広く関心を持って
今回の説明会は、昨年に引き続き、オンラインでの開催となりました。当日のライブ視聴には、全国各地から375名の申し込みがありました。後日の映像配信希望者も含めると525名もの応募となり、定員を大きく上回りました。女子高校生をサポートするのは、100名近くの現役東大生たち。受付を済ませた参加者をフレンドリーに出迎えます。全体司会は、高大接続研究開発センター准教授の植阪友理先生が務めました。
冒頭、東大理事・副学長の林香里先生が、開催の挨拶をしました。メディアジャーナリズムの研究を行う林先生は、「東大女子」や「リケジョ」といった“女子”を強調する表現を例に、男性視点に偏った社会やメディアの問題を指摘。そのうえで、女性が東大で学ぶ価値と世の中への影響力について、次のように述べました。
林先生「東大には、一見小さな事柄にも目を向け、学ぶ、学生と教員が集まっています。新たな知と社会を創ろうとするエネルギーに溢れているものの、女性の数がまだまだ少ないのが現状です。これまでの知のあり方を問い直すには、女性の存在が欠かせないのです」
今日は現役学生や総長に思いきって質問をぶつけてほしい、そして東大のキャンパスで会えることを楽しみにしていると述べました。
続いて男女共同参画室の進学促進部会長を務める、高橋美保先生による説明です。女性が安心して学び、活躍できるよう、精力的な情報発信とさまざまな支援制度を設けていることをアピール。ここでは東大女子同窓会による「さつき会奨学金」や、女子学生向け住まい支援、女子学生を対象とした就活イベントなど、具体的な施策も紹介されました。
次に学部も学年もそれぞれ異なる3人の現役女子学生が、どうして東大に進学したのか、またどのように過ごしているのかなどを発表しました。進行役は、文学部3年生の田中美月さんと、文科三類2年生の野口桃歌さんの、高校時代の同級生コンビです。
■西塔由香子さん 文科2類2年(経済学部進学予定)
札幌市出身の西塔さんは高1の短期留学をきっかけに、東大への進学を決意。「女の子なのに」と言う周囲の反対を振り切り、浪人を経て合格を手にします。期待に胸を膨らませ入学したものの、新型コロナで大きな影響を受けました。講義がオンラインに切り替わり、思い描いていた学生生活を過ごせなくなってしまったのです。
落ち込んでいた西塔さんですが、東大で出会った同級生の起業を手伝ったことで、本来のアクティブな自分を取り戻していきます。そして自身も会社を立ち上げ、いまは授業と4つのサークルと並行しながら忙しい毎日を送っています。
西塔さん「東大生はそれぞれ、学問、ビジネス、遊びと打ち込むものが違っても、ものすごく高いレベルで究めていく。自分が天狗になるような隙はないです。やりたいことはいくらでもチャレンジできる環境です。女子学生は多くはないけれど、『女子だから』みたいなことは考えたことがないですね」
自分の思いを貫き即行動に移す西塔さんに、女子高校生からは「かっこいい!」「憧れる!」といったコメントが多数寄せられました。
■中川深結さん 薬学部4年
中学時代から東大への進学を考えていた中川さんは、高1の時点で本郷キャンパスの五月祭を見学。日々の学習も、受験を意識しながら進めていきました。途中、やる気が沸かない時期もあったものの、学校案内を眺めては気分を盛り上げたり、同じく東大をめざすクラスメイトと一緒に勉強したりと、最後まで気持ちを途切れさせることなく乗り切りました。
中川さん「高1から英語の勉強に力を入れていました。また他の教科も大学での学びの基盤になっていて、もっとしっかり取り組めばよかったと思う場面は多いですね」
また入学して間もなく、ハイレベルな講義や周りの学生の優秀さに圧倒され、初めての一人暮らしもあり、自分を見失いかけた時期もあったそうです。そんな経験も重ね、悩みながらも薬学部に進み、来春から大学院に進学する予定です。
中川さんの経験談には、参加した東大生の皆さんから、自分も周囲に引け目を感じたことがあった、とか、授業が忙しいとサークルとの両立は大変、といった共感のコメントが寄せられました。
■松原えみさん 大学院人文社会系研究科 修士1年(文学部卒業)
文科三類から文学部に進学し、現在は大学院で江戸時代に書かれた文献から養生(日ごろの生活に意識を向けて健康に過ごすこと。中医学など東洋で発展した考え)について研究する松原さん。今の研究に至るのに、2つの転換点があったといいます。
松原さん「最初は出願のとき。直前まで文科一類希望だったのですが、法学より歴史に関心のある自分に気づき、文科三類にスイッチしました。2度目は進学選択のとき。中国思想文化学という専攻を知り、昔の思想から歴史にアプローチするのも面白いと文学部に進みました」
東大に入学してから時間をかけて、自分の興味を模索できたから今があると話す松原さん。また研究を進めるうえで、日本に数点しかない資料にもあたることができるのは、東大ならではだと魅力を語ってくれました。
休憩を挟み、東京大学総長の藤井輝夫先生が登場。藤井総長は学内の多様性推進に力を入れており、この日も熱心に女子学生の活躍に耳を傾けていました。事前に募集した参加者からの質問に答える形で、東大に女子学生を増やしたい理由、東大の魅力、新型コロナによる学生生活の影響について話しました。
藤井総長「学会などで海外に出向くと、議論の場では男女比にほとんど違いがありません。活発な議論が繰り広げられ、意思決定に女性の意見が反映されます。もし東大の女子学生の数が増えれば、卒業生たちの活躍によって、社会も大きく変わるかもしれません。東大は幅広く、そして深く学ぶ環境が整っていて、実践的な学びも多く体験できます。また多くの東大出身者が、世界中で活躍しています。そうした人たちとのつながりを築けるのも、東大ならではです。学内ではコロナ禍であっても、安全性を確保したうえで対面授業を取り入れています。学園祭ではオンラインを活用したりワクチンの学内接種を実施したりと、学生同士のコミュニケーションの確保と予防対策の両面でバックアップしています」
藤井総長のお話の後は、現役東大生と女子高校生のグループに分かれ、交流の時間が設けられました。1グループの人数をできるだけ少なく話しやすい環境に、と考え、40以上のグループを用意。今回は、初めての試みとして保護者の方向けのグループも設置されました。
グループトークでは、藤井総長もグループを回り、交流に参加。総長に直接質問する場面も見られました。
女子高校生「私はまだ、将来やりたいことがわかりません。仮に東大に進学して2年の猶予ができたとしても、進学選択のときに専門を絞れるかが不安です。そんな人でも東大に進学して大丈夫なのでしょうか?」
藤井総長「無理に絞ろうとしなくても、いいと思いますよ。後期課程の学部が決まっても、別の学部の授業を受けることはできますし、全学部共通科目などもあります。むしろ視野を広げて、いろんな角度から自分の関心や興味を探求してください」
最初は少しぎこちない様子の女子高校生たちも、学生サポーターとのやりとりの中で、質問が広がり、学生生活や受験時の過ごし方など、自由に意見交換しました。「東大生ってみんな英語で話せるの?」「仮面浪人をしていて、入学後みんなと馴染めるのか不安」といった素朴な疑問や率直な悩みも、学生たちが気持ちを受け止めながらアドバイスしている姿が印象的でした。
グループトーク終了後は、全体に戻って、藤井総長への質問タイムの後半戦に入りました。ここでは藤井総長が東大をめざしたきっかけ、自身が過ごした学生時代と今との違い、東大に女子学生が増えない理由について答えました。
藤井総長「私は海が好きだったのと、メカニカルなことに興味があったんです。深海の底を調べられる技術を編み出したいと思い、海洋工学を学べるところを調べ、東大が志望校になりました。でも、中高生のときは、正直なところ勉強よりも水泳部やバンド活動に夢中でしたね。だから浪人生活を送ることになって。勉強一辺倒の生活は、苦しいと思います。遊びもどこかで役に立つはずです。世の中はとても広いですから。東大生には自分の専攻だけでなく、幅広く興味のアンテナを張って世界中のことに関心を持ってほしいですね。誰でも手軽に情報を集められる時代です。私が学生の頃とは、比べものにならない。当時は海外のバンドの新曲も、手に入るのは半年先が当たり前だったくらいですから。また、東大の女子学生を増やすことについては、先生方の協力も得ながらいろいろな取り組みをしています。『もっとこうしたら増えるのでは?』といったアイデアがあったら、ぜひ教えてください!」
司会の植阪先生は、東大の合格率は男女ともほぼ同じであることを補足しました。女子の受験者数が増えれば、女子学生の割合が増える可能性は大いにあるといえそうです。
ここで全体のプログラムは終了。この後、科類の違いや学びについて質問したい希望者を対象に、科類別の交流ルームを設定しました。多くの女子高校生が引き続き参加し、より具体的な質問に学生が丁寧に対応。現役の東大生、女子学生とオンラインを通して直接話をする経験は、女子高校生にとって東大受験を真剣に考える機会に繋がった様子でした。
東京大学男女共同参画室:https://www.u-tokyo.ac.jp/kyodo-sankaku/ja/activities/rikei-program/forstudent.html