新型コロナウイルス禍――今、東大生は考える(7)

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コロナ7top

異例の大学生活に直面した東大生のショートエッセイ 第7回

2020年、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、東大の授業はオンライン授業が中心になり、学生の交流や課外活動にも大きな影響が生じています。様変わりした大学生活を送る中で感じたこと、考えたことを綴ってもらいました。

心躍る声

他者をその人であると認識する時、人はどこを見て認識しているだろうか。多くの場合それはその人の顔や髪型、服装の特徴など視覚的なものだろうし、「初対面の印象がその人を決める」という文言も幼い頃から様々なメディアや人から教わってきた。しかし前期の授業が全面的にオンラインだったため自分が大学の友人達を初めて認識したのは容姿によってではなく声によってだった。第二外国語の授業で、その言語による呼び方の名前と声で友人達を認知した。4月の最初の授業での自己紹介からやけに耳あたりの良い、心地よい声が頭に残っていた。授業で当てられる度に発される軽く空気に溶けるような声を聞いて、顔も知らない同じクラスの友人に恋をした。もう蝉もほとんど鳴かなくなった頃、初めてその友人に対面で会うことが出来、声とともに移りゆく豊かな表情を見てどうしようもなくもどかしい気持ちになった。かつて平安時代には男女互いに顔や容姿がわからない中で和歌の巧みさでその相手を判断していたが、このコロナ禍の時代においても相手の顔が分からなくても声や語りから生まれる恋があるのかもしれない。

文科二類 1年 天出 未来
リモート

レポート中毒

なかなかレポートのやる気が起きず、締切ギリギリで滑り込みセーフ、毎回命をつなぎとめている学生って、どのくらいいるんだろう。まだ大丈夫と先延ばし、頭の中がレポートのことでいっぱいになって、書き出したら後悔で胸がいっぱいになって、先刻まで余裕をこいてた自分を呪いたくなる。次こそはと思うけれど、毎回結果が同じになるのはなんでだろう。

いや、理由は分かっている。脳が癖になっちゃってるのだ。追い詰められた脳内では、一時的に大量にアドレナリン等の脳内麻薬が出される。興奮状態になった脳により、普段より短時間で高いパフォーマンスをあげることができる、らしい。

麻薬と言うんだから恐ろしいもので、1回きりじゃやめさせてはくれない。脳が快感を覚えているのだ。でも酔えるのは一瞬で、その刹那のために、他の膨大な時間を身を焼くような思いで過ごすことになる。
「レポートの 提出増えて 大変な 思いをしたよ オンライン授業(字余り)」

薬学部 3年 M.N

 

朋有り遠方より来る、亦た楽しからずや

2500年前の中国の思想家・孔子が『論語』学而編で説いたこの一節は、あまりに有名だ。鉄道も車もない時代に、同じ学問を志して友人が遙か遠方から集まることの歓びを素直に表現している。
コロナ禍の影響で、家から一歩も出ずにオンラインで学習できるようになった。ストレスフルな満員電車に揺られる通学時間は、今や勉強時間に充てられる。 しかし困ったことに、オンラインでは仲間との知的会話がほぼ不可能になる。仮にオンラインでできたとしても、周波数の合わないラジオを聴いているようで、ぎこちない。そこで友人と私は共通の結論に達した。たまにキャンパスに集まって勉強会をしよう、と。 検温を済ませ、社会的距離を守り、こまめに消毒する。密集が予想される交通機関は徒歩に置き換える。自宅から赤門までの道のりは去年より格段に遠く感じるが、尊敬する朋友と研究の話ができると思えば、足どりは軽い。朋有り遠方より来る、亦た楽しからずや。

コロナ7_J.K.
感染防止対策を取りながら行う勉強会
文学部 3年 J.K.

 

数字と向き合う

経済学部の授業では、様々な数字に触れる機会がある。商品価格、失業率、国内総生産。時間を通しての推移、国ごとの比較、予測値と実測値の乖離。数字そのものが興味深い場合もちろんあるが、私が感心するのはむしろ、数字のそれぞれが、見る人や見せ方の数だけ異なる意味を持ちうることだ。
昨今、あらゆるメディアで「過去最多〇〇〇人」「▲日連続×××人超」のような鮮烈なキャッチを目にする。 その一つ一つに揺さぶられていては、不必要に疲弊するばかりだ。肝心なのは、目を惹く衣装を剥ぎ取ったときに残る裸の数字、そしてその裸の数字に自分がどんな意味を見出すかであろう。これまでの経済学部での学びは、そうした意識を養うきっかけを提供してくれた。
数字は人に嘘をつかない。でも人は数字で嘘をつく。そんな世の中で騙しもせず騙されもしない、そんな大人に私はなりたい。

経済学部 3年 曙

 

ゆるっと生きる

コロナの影響で、みんなで集まったり、好きな時に好きな場所に行ったりすることが難しくなってしまったけど、悪いことばかりではないように思う。
zoomで遠くにいる友達と話す機会ができたし、給付金で働かずにたくさん本を買えた。学園祭のオンライン化で今までにない企画の見せ方・東大生のポテンシャルの高さを知ることができたし、今までに関わってこなかった企画にも参加することができた。
自由の利かないときでも、どこかに楽しいことが転がっているはずだし、工夫をすればいろいろなことに挑戦できると思う。
コロナ禍を糧にして、これから先数十年の人生、ゆるっと楽しんで生きたい。

コロナ7_Y.W
給付金で衝動買いした本
理学部 4年 Y.W

 

自粛続きの「いま」だからこそできること。

2020年がこんなにも波乱の年になるとは誰も想像できなかっただろう。
大学2年時は時間的にも余裕がありきっと色んな場所に赴いて様々な経験をできたかもしれないと思うと少し悲しいが、この期間をいくらかポジティブに捉えていこうという思いで日々過ごしていた。時間に余裕があるからこそ今まで取り組めなかった語学学習や読書、趣味の追求などを行う非常に良い機会となった。
このコロナ禍において色々な事を考えたが、今までの当たり前が通用しないような現在の世の中でふと立ち止まって自分自身あるいは周りの人達に思いを馳せ、互いを思いやる瞬間が重要だと改めて感じた。感染拡大前と比べると大きく世界が変容してしまった今、新しい生活様式が生まれ、それらに翻弄され俯きたくなるような現実に直面してしまうことが増えているのも事実だと思う。ただ、きっとこの先いまの状況が緩和され、明るい未来が待っていると信じて今日も今だからこそ実行できることを見つけ、実践していこうと思う。

理科二類 2年 S.F.

 

参考リンク
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原稿作成/2020年11月
企画・構成/「キミの東大」企画・編集チーム