新型コロナウイルス禍――今、東大生は考える(3)

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コロナ3top

異例の大学生活に直面した東大生のショートエッセイ 第3回

2020年、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、東大の授業はオンライン授業が中心になり、学生の交流や課外活動にも大きな影響が生じています。様変わりした大学生活を送る中で感じたこと、考えたことを綴ってもらいました。

新たな日常、生かせるかは自分次第

 自粛期間中、皆さんは何を思ったでしょう?
 私は、外出できず人にも会えない状況に疲弊する友人を見て、体の健康ばかりが優先され、心の健康を保つことは疎かにされていることに疑問を感じました。
 その後アーティストによるオンラインライブが行われたり感染防止対策を講じた上でテーマパークなどが再開したりして、各種のエンターテインメントに元気をもらい救われた人も多いと思います。優先順位は低いと思われがちですが、苦しい時こそ人々の心の支えになるエンターテインメントは必要不可欠ですし、同時に自分が受け取ってきたような勇気を今度は自分が提供する側になりたいと思いました。この思いが進学選択の決断を後押しすることになります。
 コロナ禍で大きく変わった日常ですが、改めて考えさせられる機会が増えたことは良かったと思います。イレギュラーな状況だからこそ見えてきた疑問や課題と向き合う中で、将来に新たな道が開けるかもしれませんね。

コロナ_雪林檎
人の心を動かすものを生み出したい、そんな私の憧れ(撮影場所/チームラボボーダレス)
理科一類 2年 雪林檎

 

「やったもん勝ち」じゃない2020年の夏

 2020年6月以降、徐々に自粛要請が緩められ人々の活動が活発になる中、僕は大学3度目となる夏を迎えた。旅行や対面での活動などが個人の判断に委ねられたこの時期、僕は種々の活動を控えることにした。以前から楽しみにしていた農学部のフィールドワークやサークルの遠征、友達との旅行は全部なし。遠方へ出かける友人もちらほらいたが自分は我慢。「今年は外に向かって活動した人が勝ちじゃないよな」と自分に言い聞かせて派手に活動したい気持ちを誤魔化した。
 浮いた時間とお金は英語やプログラミングの勉強、体力向上、趣味に関わる地道な練習に使った。どれも以前からやろうと思っていたが本格的には手がつけられていなかった。きっちり自粛して地道に努力した結果、成果が出たのか?まだ分からない。「with コロナ」の生活は続いている。

農学部 3年 K

 

「対面」を改めて考える

 私は地方創生やまちづくりに興味があり、サークルや学科のプロジェクトの活動で複数の地域を飛び回っていた。しかし、感染症の拡大により移動が大幅に制限され、現地の人と一緒に現地で行っていた活動は停滞し、緊急事態宣言下においては、オンラインで何ができるのだろうかという不安や閉塞感に襲われた。
 一方で、全く現地での活動ができなかった半年間は、対面で会うことの楽しさや面白さを切実に感じさせてくれた。会えばなんとかなる、だから○○しなくてもいいかなといった感覚が、これまであったのではないかと反省している。
 自粛期間中の反省をもとに、対面で会うという機会を最大限に活用し、楽しみたいという意識がメンバーの中でも共有され、オンラインでの事前準備、事後の振り返りなどにも以前より入念に取り組んでいる。アフターコロナにおける活動がどうなるか、いまだに想像はつかないが、この気づきを忘れてはならないだろう。

理科一類 2年 T.S
勉強中の男子

カオスの危機

 万有引力というものがある。質量を持つあらゆるものは互いに引き合い集まろうとする性質だ。宇宙膨張というものがある。宇宙は今この時にもすごい速さで広がっている、らしい。これらの相反した性質のおかげで宇宙は過剰な密にも疎にもならずいい感じに複雑な状態でいられる。そして私達は午前二時フミキリに望遠鏡を担いで行くと結構面白いものが見られるというわけだ。これぞカオスの淵というやつだろうか。
 話は変わって昨今、未曾有の災厄の下であらゆる生活、文化、機能が急速にバーチャル空間に拡張されている。しかし仮想世界への拡張は、裏を返せば現実世界の希釈を意味する。コロナはこの危ういバランスを崩壊させていないだろうか。現実世界で密だなんだと言っているその裏では既に仮想現実が現実を呑み込み始めていないだろうか。
 私達はオンライン化が奨励されるこのコロナ禍にあっても同時に現実世界での紐帯を確かに繋ぎとめていなければならない。

理科二類 N.H

 

とにかく会話したい私のキャンパス生活

 皆さんは、自粛生活が始まってから会話の量が減ったと感じませんか?私もその一人です。本郷キャンパスに再び通えるようになってから、人との会話を今まで以上に大事にするようになりました。いつもなら知り合いとすれ違っても会釈程度だったのが、少しだけ近づいて近況報告タイム!こころなしか、私のように誰かと話したがっている人が増えたような気がして、そのまま会話が盛り上がることもあります。
 また、懐かしい友達に連絡をとってみようとしたり、同じキャンパスにいるのに忙しくて会えない友達に30分だけ電話したりと、コミュニケーションの在り方が自分の中で確実に変わってきたと感じています。コミュニケーションツールの多様性に改めて驚かされ、感謝する毎日です。
 今日は誰とすれ違えるかな、電話でどんな話ができるかな、とわくわくしながら龍岡門をくぐる瞬間が最近のお気に入りです。

コロナ_もこもこ
1日の始まりはこの龍岡門から!
医学部健康総合科学科 4年 もこもこ

 

ちょっと視野を広げれば

 新しい生活様式がすっかり根付き、電車の中で皆がマスクを付け、私語を慎むのが、当然だと思えるようになりました。一方、それに伴い、人間関係がますます薄くなってしまっているのが、深刻な問題です。SNSでの誹謗中傷やそれに端を発した事件のニュースを耳にしますが、これはその帰結であるように感じます。そのため、少し別のことに時間を費やすのも大切だと思います。SNSを離れて本を読む。パソコンを閉じて、ランニングを楽しむ。
 気持ちが塞がっているのは、刺激のない単調な日々を送っているからかもしれない、と気づかされます。毎日のちょっとした工夫が、この苦しい状況下に心を養ってくれるはずです。昔に比べ物質的に豊かになった今、心は豊かになっていないと感じるのは、現代文明への警鐘なのかもしれません。

理科三類 1年 やづ
ねこ1

参考リンク
第1回の記事はこちら
第2回の記事はこちら

原稿作成/2020年10月
企画・構成/「キミの東大」企画・編集チーム