馬と学生がともに成長する東京大学馬術部―東大とスポーツ

2025.10.15

スポーツ

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東大とスポーツ

東京大学馬術部の馬場があるのは、三鷹市にある国立天文台に隣接した長閑なエリア。ここで部員34名、14頭の馬、2匹の猫がともに活動をしています。2024年には約70年ぶりのI部リーグ昇格、2025年2月の関東学生馬術争覇戦では戦後初となるI部優勝を成し遂げました。華々しい成績をあげながらも、決して競技性だけを追い求めずに、多様なモチベーションの部員たちを受け入れているという馬術部のみなさんに、馬に魅せられたきっかけや、馬とともに過ごす大学生活の魅力を語ってもらいました。

モチベーションに合わせた「学年+1回」のシステム

11月に全日本学生馬術大会を控えた9月下旬、早朝6時30分から始まる練習では選手たちが馬に乗り、常歩、軽速歩、駈歩などを行っていました。代替わり後、活動する4年生の姿が徐々に減っていく時期ですが、一番大きな声で後輩を指導するのは、前主将の松前陽哉選手です。

「自分たちの代では、先輩方が活躍をしてくれたおかげで、I部に昇格して試合でポイントを稼ぐ良い流れができたと感じています。全日本学生馬術大会が4年生にとっての引退となりますが、6月に開催された関東学生三大大会で、勝ち残らないと全日本に出場できません。6月に代替わりの引き継ぎが終わっていますが、出場予定の4名は、試合までの練習や調整を行いながら、次の代が運営する様子を見守っていきたいと思います」

東京大学馬術部障害飛越競技を行う松前陽哉選手(法学部4年)

東大馬術部の特長の一つが、多様なモチベーションをもつ部員たちで構成されていることです。現在は毎日厩舎に通う松前選手ですが、新入生当時の入部した動機を伺うと、意外にも積極的ではなかったと言います。

「我々は大学で馬術部に入ってから馬術を始めた人がほとんどです。入部する動機は、動物が好きだから、馬がかわいいから、競馬が好きだからと本当にさまざまなんです。自分は、幼い頃から続けているスポーツがなかったので、大学から始めるなら試合で活躍したいという思いがありました。でも、最初は勉強と両立できるかのか不安で迷っていたところ、友達に『一緒に馬術部に入ろう』と背中を押されたのが決め手となりました」

馬への指示について、後輩に指導
練習後は全員で馬の世話を行う

早朝から始まる練習や馬の管理などもあり、勉強との両立を不安に思うこともあったそうですが、1年生のSセメスターが終わる頃にはあっさりと両立が叶ってしまったようです。その理由には学年、学部、そして何よりモチベーションの異なる部員たちが活動しやすいように考えられた運営システムがありました。

「練習は週に『学年+1回以上』と決まっていて、自分も1年のSセメスターは週2回来ていましたが、Aセメスターぐらいから試合に出られるようになり、毎日朝練に来るようになりました。モチベーションに合わせたフレキシブルな体制だからよかったのだと思います。また朝練だけでなく、夕方にも馬の手入れや餌やりなどの作業があり、男子部員は順番で夜の泊り番もあります。練習するよりも馬に関わる時間がどうしても長くなるので、自分が主将になってからは、部員が当たり前のことを当たり前としてやれるように、朝練の前に30分、全員で集中して作業する時間を設けました」

東京大学馬術部厩舎で馬と過ごす時間も関係性づくりに欠かせない

「馬は友達」コタロウと心を通わせたかけがえのない時間

4年生の森本理香子選手は、幼少から馬術経験があり、大学でも馬術競技をしたいと考えて入部したそうですが、馬との触れ合いに慣れていた森本選手も、馬術部では今までとは全く違う馬との出会いがあったと言います。

「乗馬クラブで馬術を習っていたときは、先生が事前の下乗りから、指導もすべてやってくださっていましたが、馬術部では、平日は自分で馬のトレーニングを行い、調整しなくてはいけないところが難しくもあり、自分の成長につながっていくところだと思います。1年生はいろいろな馬に乗って、基本姿勢や乗り方を学び、学年があがると自分の担当馬ができるので、馬とのコンビネーションを重視し始めていきます。馬術にはもちろん技術が必要ですが、最後は馬との相性になってきて、日々のお世話を含めた積み重ねから馬との関係性が作られていくんだと思います」

障害飛越競技を行う森本理香子選手(経済学部4年)

取材を行った日は、森本選手が担当し、マスコット的な存在だったコタロウが東大馬術部で過ごす最後の練習日でした。翌日には、入厩前にいた「まきば軽井沢」に戻るコタロウとの思い出を振り返ってもらいました。

「私が担当してきたのはアマデウスTという20歳のベテラン馬と、コタロウという若い馬です。ちょうど入部した年の6月にコタロウが東大馬術部へ入厩し、すでに4、5才だったので人を乗せるのはギリギリできるかどうか、調教も十分ではない状態でした。コタロウを担当し始めてから、直感的に「競技馬として活躍できるかもしれない」と思い、毎日のように馬場に通って、まっすぐ走ったり、人の指示を覚えたりできるようにたくさん乗って、たくさんお世話をしてきました。馬術部だけにしかない経験があるとしたら、やっぱり動物と心を通わせることだと思います。『馬は友達』この一言に尽きますね」

森本選手とコタロウ
清水隆斗選手(経済学部4年)と活動を支える猫のたま

自分の力で指示を与えて動かし、結果を残したい

馬術部の常務を務める3年生の丸山凜花選手は、一度は別のサークルに入ったものの、もっと本気で打ち込めるものを求めて馬術を始めたと言います。馬術部と勉強をどのように日々両立させているのか教えてもらいました。

「大学に入学後すぐに入ったサークルがちょっと物足りなく感じたので、興味のあった馬術部に思い切って入部しました。勉強との両立は前期課程の間はなんとかなりましたが、3年生から工学部都市工学科に進学してハードな毎日を送っています。3年生になって忙しくなってからのほうが、部活と勉強のスケジュール管理ができるようになりましたが、こんな経験は大学生じゃないとできないことだと思います!」

東京大学馬術部丸山凜花選手(工学部3年)とコタロウ

東大馬術部は主要な学生戦(全日本学生馬術連盟、関東学生馬術協会主催の大会)だけでも年間8回、そのほか地方で行われる競技会は約18回ほどあると言います。部員各自が目標をもって、出場する大会を決めていくそうですが、丸山選手はどのような目標で練習を重ねているのでしょうか。

「今年の夏休みには山梨県で行われた『サマーホースショー2025』小障害飛越競技(H80)に出場し、減点なしで8位に入賞できました。今後は、森本先輩が担当してきたアマデウスTに乗る予定ですが、私にはもったいないくらいの大ベテランなので、自分の力で指示を与えて動かせるようになるのが今の目標です。まだまだ頑張らないといけないことが多いのですが、試合に勝って、ちゃんと形にすることをめざします!」

馬術部員から高校生へのメッセージ

最後に、高校生のみなさんに向けたメッセージをもらいました。

一般の乗馬クラブと比べると、大学馬術部は初期費用や継続的な費用を抑えて続けることができるので、馬術を始めるなら金銭的にも体力的にも大学生がベストだと思います!とくに、馬術は、体格差やパワーの差も出にくく、女子も挑戦しやすいスポーツです。また、馬術部でしか味わえない特別な経験がたくさんあるので、少しでも興味がある方は、まず体験乗馬にお越しください!

練習前の上岡夏帆選手(文学部3年)と東鈴
関東学生馬術三大大会にて

フォトギャラリー にはまだまだ載せきれなかった写真がたくさんあります!写真を通して、素顔の東大生の魅力が伝わるとうれしいです!
ぜひご覧ください。

取材協力・写真提供(試合写真)/東京大学運動会馬術部
取材・文/日吉弓子(梁プランニング)、「キミの東大」編集チーム
撮影/中西祐介
構成/「キミの東大」編集チーム