令和5年度 東京大学総長賞受賞者の声(学業編)
学生表彰 2024.04.10
2019.09.09
東大総長賞とは?
「本学の学生として、学業、課外活動、社会活動等において特に顕著な業績を挙げ、他の学生の範となり、本学の名誉を高めた者」(個人又は団体)に対して、東大の総長が直々に表彰を行う賞です。賞の授与は平成14年から始まり、年に1回、受賞者の表彰と活動(研究や課外活動、社会活動など)の内容に関するプレゼンテーションが行われています。平成30年度は13の学生・学生団体に対して総長賞が授与されました。
「キミの東大」では、受賞者の方々に活動/研究内容を教えてもらうとともに、高校生のみなさんへのメッセージもいただきました!
ぜひ、東京大学の学生の活動の幅の広さと学びの深さを体感してください。今回は、学業編をお届けいたします。
TABLE OF CONTENTS
【山岸 純平さん】 代謝物の漏出とやりとりによる細胞間分業と共生の数理、物理そして経済学
【蘆田 祐人さん】 開いた量子多体系における測定の反作用と強相関効果の解明
【板倉 健太さん】 画像処理及び深層学習を用いた植物の3次元情報解析
【川畑 幸平さん】 非エルミート物理における対称性とトポロジーに関する基礎理論の構築
【坪山 幸太郎さん】生命のダイナミックなしくみを 自分の目で見て理解する
【村岡 恒輝さん】 実験化学、計算機化学、データサイエンスの融合による設計的ゼオライト合成
【安田 憲司さん】 磁性トポロジカル絶縁体積層構造における創発輸送現象
細胞同士が自身にとって必要な物質を漏らし、相互にやり取りすることで、細胞間の分業や共生が進んで細胞が集団的に繁栄することを、物理学を基盤とした数理モデルを通じて明らかにしました。また、このような漏出を経済学の理論を用いて解析することで薬剤投与への応答を新たに予言し、逆にミクロ経済学における知見も得られました。一連の研究成果は国内外の学会で報告され、成果の一部が国際学術雑誌に論文として掲載されるなど、高い評価を得ました。
身の回りにある物質は電子や原子が相互作用して形作られています。このようなミクロな世界の運動を記述する物理法則を、量子力学と呼びます。量子力学を基礎にした科学技術は日進月歩の発展を遂げつつあり、以前は夢物語であった量子シミュレータや量子コンピュータが世界中の研究拠点で研究されています。
この研究では、物性物理学の量子多体系の理論と、量子光学で確立された開放量子系の理論を巧みに組み合わせ、開いた量子多体系に関する多くの先駆的研究を行いました。特に開放系の視点を取り入れることで、新奇な量子臨界現象の普遍クラスを発見しました。さらに、環境と強く結合した開放量子系について現存する最高の数値計算手法よりも格段に高効率な理論手法を開発することに成功しました。この分野で最も名誉あるハーバード大学のフェローシップを日本人で初めて授与されるなど、これらの成果は国際的にも高く評価されました。
移動可能な3次元センサーを用いて植物を計測し、そのデータを、深層学習や3次元点群処理などの技術を用いて解析しました。結果、植物を自動的に検出したり、植物の構造(高さ、幹の太さ、葉の密度など)に関する情報を自動的に推定することに成功しました。この技術をドローンや自動運転などの技術と組み合わせることによって、大気浄化や二酸化炭素固定など様々な環境浄化機能を有する植物の適切な評価が行えるようになり、環境と人類の調和した未来を切り拓くことが期待されます。
物理学は、いくつかの基礎概念をもとに自然現象の普遍法則を描くこと、つまり、基礎理論の構築に取り組んできました。しかし、物理学の基礎理論への挑戦は、非平衡開放系等を対象とする非エルミート物理という領域においてはほとんど発展していませんでした。そこで、非エルミート物理において、「対称性」と「トポロジー」という、最も本質的な問題に取り組み、その理論的枠組みの構築を試みました。その結果、従来の基本対称性が統一および分岐するという事実を発見し、非エルミートなトポロジカル相を包括的に分類する一般理論を提示することができました。一連の研究成果は、基礎理論として重要であると同時に、新しい現象や機能を切り開くものとして、高く評価されました。
RNAサイレンシングという、真核生物において遺伝子の発現を調節する機構の一つに注目しました。特に、この機構で中心的な役割を担うアルゴノートタンパク質が、小さなRNAを取り込む際にダイナミックに構造を変化させる様子を1分子レベルで捉えることに成功しました。同様の構造変化を必要とすると考えられるタンパク質は細胞内に数百あることが知られています。よってこの成果はRNAサイレンシング分野のみならず、タンパク質の構造変化とその機能を理解するという観点からも極めて重要です。研究の成果は海外の学術誌に掲載されただけでなく、日本学術振興会育志賞を受賞するなど、高い評価を受けました。
実社会の様々な場面で利用されているゼオライトと呼ばれる材料群を対象として、スーパーコンピューターを用いた大規模理論計算や人工知能(AI)、機械学習によるデータマイニング等の手法を用いて材料開発を行いました。その結果、特異な原子位置、組成をもったゼオライトの結晶化に成功し、高い評価を受けました。ゼオライトの合成分野は、歴史があるにもかかわらずガイドラインが確立されておらず、この成果はこの分野の発展に大きく貢献したと言えます。また、実験化学、計算機化学、データサイエンスを融合させた本研究の成果は、目的に適合的な材料を得るための膨大な試行錯誤の手順を大幅に軽減できる可能性を秘めています。
トポロジカル絶縁体とは、内部が絶縁体で、表面にのみ電子の運動方向と垂直方向にスピンが偏極した金属状態を有する物質です。これに磁性の性質を付与すると、磁性トポロジカル絶縁体という新しい物質になります。この磁性トポロジカル絶縁体の表面の電気と磁気との関係が、通常の物質と大きく異なることに注目しました。この電気と磁気の相互作用を輸送測定から明らかにすることを試み、その結果、既存の半導体材料では実現しえない多彩な電気伝導現象を発見しました。一連の成果は海外の学術誌に掲載され、高く評価されました。今後は省電力デバイスの開発への応用が期待できます。
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