体育の授業で知的な営みのベースとなる体力を養う―東大とスポーツ
スポーツ 2019.04.19
2019.04.12
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東大とスポーツ
東大生といえば、「勉強は得意だけどスポーツは苦手」というイメージをもたれがち。でも実際には、サークルでスポーツを気軽に楽しむ学生や、体育会でスポーツに本気で打ち込む学生がたくさんいます。
東大では、体育会のことを「運動会」と呼んでいます。そして東大運動会女子部のなかで1番の大所帯は、総勢およそ60名を誇るラクロス部。
主将の中嶋佑佳さんと1学年下の山口優生さんが、ラクロスの面白さと、東大女子ラクロス部「Celeste」の魅力を語ってくれました。
――「東大に入ったら、本気でラクロスをやろう!」と最初から決めている高校生や新入生はまずいないと思うんです。それどころか、体育会に入ろうと決めている人もそう多くはないのでは。お二人は?
中嶋・山口 決めてませんでしたね(笑)
中嶋 新入生歓迎イベントでいろんな部やサークルを見て、だんだんにラクロス部に心が傾いていったんです。
山口 私もそうでした。
中嶋 ラクロスって、ほとんど全員が大学で初めてやるスポーツなので、「4年間どんなにがんばっても経験者には絶対敵わない」とか、「強豪選手が全国から集まる大学には絶対に勝てない」ということはないんですよね。それがいいなと思って。
山口 入学してすぐにラクロス部の体験練習に参加してみたら、上達するための細かいパーツがたくさんあって、ひとつひとつクリアすることで上達が実感できるんです。ひとつのことをひたすら練習していつしかうまくなっていく、というこれまでやってきたスポーツとはちょっと違う。それが「ラクロスって楽しいな」と思った最初でしたね。
中嶋 実は私、入学したてのころは「きっと東大生ってまじめで堅い人ばかりなんだろうな」と偏見をもってたんです(笑)。でも女子ラクロス部はみんな明るいし、爆笑もしょっちゅうで。高校までと同じように過ごせるんだとわかったのも入部の大きな決め手でした。
山口 「体育会って先輩後輩の上下関係が厳しそう」と思う高校生も多いかもしれませんが、私たちの部では「先輩の言うことは絶対」のような空気はないですね。練習以外の時間に、学年にかかわりなく個人的に一緒に出かけたりもしますし。
――練習では上級生が下級生を指導するんですか?
中嶋 いえ、東大の男子ラクロス部からコーチを招いています。OGさんや社会人のクラブチームで活躍されている方にもアシスタントコーチとして来ていただき、5人ほどのコーチ陣が指導してくださっています。
山口 1年生には専任のコーチがついて、別メニューで基礎技術を数カ月教えてくれます。そのほか本職のトレーナーさんにもいらしていただき、年間を通じてトレーニングのメニューを考えていただいています。
――練習を見せてもらってびっくりしたのですが、コートがものすごく広いですね。そもそも、ラクロスってどんな競技なんですか?
山口 110メートル×60メートルですから、サッカーと同じぐらいですね。ラクロスでは、「クロス」というスティックを使って味方同士でボールをパスしながら敵陣に攻め込み、相手の「ゴーリー」と呼ばれる、サッカーでいうキーパーが守っているゴールにシュートを決めると得点になります。
中嶋 日本での歴史はまだ浅いですが、アメリカとカナダでとくに盛んで、カレッジスポーツとしてものすごく人気が高いんです。近いうちにオリンピック種目になるのでは、ともいわれています。
――東大女子ラクロス部は強いんですか?
中嶋 もともとは関東リーグで4部まであるうちの2部だったんですが、一昨年3部に落ちてしまったんです。去年は絶対に2部に戻るつもりでいたんですが、入れ替え戦で負けてしまって……。
山口 ……いま思い出しても悔しいです。試合が終わる間際に私たちが勝ち越しのシュートを決めて、「勝った!!」と思ったら、終了の笛が鳴った後だったという判定で得点が入らず。そのまま延長サドンデスで負けてしまったんです。
中嶋 今年は絶対、2部に上がります。
――練習はどれぐらいするんですか?
山口 週5日、朝7時〜11時で、授業がある人は授業に間に合うように抜けていくというシステムです。
―朝7時から! 何時に起きるんですか?
中嶋 4時半です(笑)。でも意外と、早起きにはみんな1~2カ月で慣れていくんですよね。ずーっとつらい、という人はいないです。
山口 ふだんが早起きだから、オフの日に「うわー、ゆっくり寝た!」とすごく満足して起きたら朝8時だったりしますね(笑)
中嶋 私たちは2人とも工学部なのでそれなりに授業があるんですが、朝練ですでに大学に来ているので、寝坊して授業に遅れた!みたいなことが物理的に起きないのも「早起きの得」のひとつかも。
――部員の方はみんな、高校まで運動をバリバリされていた方ですか?
中嶋 私と山口さんはバスケ部出身ですが、これまでは本格的にスポーツをやっていなかったという人も多いです。
山口 ダンス部出身とか、吹奏楽部出身の人とか、いろいろですね。一度は「部活」というものを経験したかった、と言って入る人もいますし。60人もいるので、いろんなバックグラウンドの人がいます。
中嶋 これだけ大きな東大女子のグループってなかなかないんじゃないかな。東京の実家から通っている私たちのような部員もいれば、岩手や福岡、群馬など地方から来て一人暮らしの部員もいますし。ほんとにいろいろです。
――ラクロスをしていて、何が1番面白いですか?
中嶋 やはり、ゼロからスタートするスポーツだから、自分自身の伸び代が大きいのがうれしいですね。
山口 頭を使ったり、技術を磨いたりすることでいくらでも勝負のしようがある、というところかな。
中嶋 頭、使うよね! バスケのジャンプボールに似た「ドロー」というプレーがあるんですが、両チームから1人ずつ出てきて、ホイッスルと同時にボールを上げ、取ったほうが攻撃できる。この時も、「いま相手がこれぐらいの力でこっち向きに押してるから、自分はこのタイミングでそっち向きにこの強さで押せば自分に有利な場所にボールが上がるな」とかを考えますね。
山口 うんうん、投げ上げる時の駆け引きだけじゃなくて、上がったボールを高いところでキャッチする技術や地面から拾う技術はまた別に練習して、自分が得意な勝負のしかたにもっていくこともできる。強い選手・強いチームほど、頭を使っている感じがしますよね。
中嶋 私は背が高いほうではありませんが、クロスを規定ギリギリまで長くしています。道具がある分、体格だけで決まらないのもいいところかもしれません。
山口 日本代表に身長140センチ台の人もいますもんね。たしかに、クロスは長さだけじゃなくて、ヘッドの網部分をどう編むかでも全然変わる。「編む」技術もラクロスの技術のひとつなんですよね。私のスマホにはほかの人のヘッドの写真が山ほど入っていて、それを参考にしながら編み方を試行錯誤しています。
中嶋 私のスマホにも大量に入ってる!(笑)
山口 インスタグラムでも人のヘッドの写真を見てます。編み方に限らずSNSからいろんな情報を得ることができて、それも楽しいですよね。とくにアメリカの大学ラクロスは発信も熱心で、いいプレーの動画がしょっちゅう流れてくるので、見てると時間を忘れちゃいます。
中嶋 去年は海外遠征でアメリカに行ったんです。大学ラクロスの試合を観戦したり、向こうのコーチの指導を受けたり、高校ラクロス部と練習試合したり。すごい収穫でした。今年もできるといいんですが。
山口 ラクロスを通じて交流が広がりますよね。国内でも他大とのつきあいが多いし、社会人の方が教えてくれる練習会などもあって、コミュニケーション力もつくなと思います。入部する前には予想していなかったような、自分の可能性が拓けていく感じです。
中嶋 今年のCelesteの新入生歓迎キャッチフレーズは「君の輝きは限界を知らない」なんです。高校生にも、もし東大に入ったら女子ラクロス部で、自分が気づいてなかった自分の中の原石を見つけてもらえたらいいなと思います。
東大女子ラクロス部・詳細情報