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桑田真澄さんが語る「東大とスポーツ」(2)|夢を叶える目標設定の方法~結果を出すために必要な考え方とは?~

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桑田真澄さん

【特集:東大とスポーツ】桑田真澄さんが語る「東大とスポーツ」第2回

元プロ野球選手で、現在はプロ野球解説等で活躍する一方、東京大学大学院の特任研究員として研究活動も行っている桑田真澄さんへの特別インタビュー。第2回は、桑田さんが東大野球部のコーチ時代に選手たちに伝えたことを中心に、夢を叶える目標の定め方とそれを実現する方法論についてお話をうかがいます。
第1回「常識を疑え~自分らしさを大切にする生き方~」はこちら

PROFILE

桑田 真澄(くわた ますみ)さん

1968年、大阪府出身。名門PL学園で1年生からエースとして活躍。甲子園5大会連続出場(優勝2回、準優勝2回)。86年、ドラフト1位で読売巨人軍入団。通算173勝を挙げる。06年、米大リーグ挑戦のため21年間在籍した巨人軍を退団。07年、ピッツバーグ・パイレーツでメジャー初登板。08年3月に現役引退。その後は少年野球の指導、プロ野球解説、執筆・講演のほか、スポーツ科学の研究活動にいそしむ。2010年、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。2013年から2年間、東大野球部の特別コーチを務め、14年から東京大学大学院・総合文化研究科に在籍、16年3月からは特任研究員として研究活動を続けている。『東大と野球部と私』(祥伝社)など著書多数。

中学1年生の時に決めた目標はすべてクリア

―桑田さんは子どもの頃から、プロ野球選手になるのが夢だったのでしょうか。

はい、中学1年生の時に立てた目標は、PL学園に入って甲子園に出場して、早稲田大学に進学して、その後プロ野球選手になる、というものでした。
 
実際には高校からすぐにプロ野球界に進んだので、早稲田大学に進学するという目標は叶いませんでした。しかし、引退後に早稲田大学大学院で学ぶことができたので、順番は違いましたが、すべて達成することができました。

―目標を達成するために、どのようなことを重視してきたのでしょうか。

目標に近づくために実行可能な行動を考えて、それを毎日、着実に続けていくということです。

―第1回のインタビューで、野球の個人練習も「素振り30回、シャドウピッチング50回」を集中してやるという、時間にすればわずか15分のメニューだったとうかがいました。野球だけではなく勉強もその他のことも効率よく、自分のできる範囲のことを毎日、着実にやってこられたということでしょうか。

そうですね、無理な努力目標は掲げないことが大切だと思うんです。ですから勉強でも、授業をしっかりと聞くことを中心にしていました。

―高校時代の学業成績は、トップクラスだったそうですね。

中学入学時に、早稲田大学に行きたいという目標を掲げてから勉強するようになり、PL学園に入ってもできる範囲でコツコツ続けました。小学生の頃はまったく勉強しなかったので成績は惨憺たるものでしたけど。

桑田真澄さん

―高校時代は部活動と勉強との両立で大変ではなかったですか。

PL学園ではスポーツクラスにいて、同じクラスに野球部、剣道部、ゴルフ部の部員がいました。僕たちの時代は、体育会系の生徒が授業中に寝るのは当たり前だったんです。野球部の練習で「諦めるな、ボールに食らいつけ!」と教わりますから、僕は教室でもその教えを守って授業に食らいつきました。でも、ほとんどの野球選手はグラウンドを出たらその教えを忘れるんです(笑)
 
ほとんどの生徒が寝ているので、毎日の授業はまるで個人授業みたいでした。わからない所があると、その場で何でも質問できたのです。授業中に疑問がすべて解決するのですから、練習後に寮へ帰った後もノートを見返すだけで済みました。長時間勉強するよりも、睡眠時間をしっかり取るようにしていました。

―常に甲子園出場を狙っていた名門PL学園の練習はきつかったのでは?

僕が入学したころは平日でも4~5時間はやっていましたし、休日はそれこそ朝から晩まで練習していました。水を飲んではいけない時代でしたから、本当に死んでしまうのではないかと何度も思いました。

しかし、運良く1年生の夏の甲子園大会で優勝することができたので、大会後に監督に掛け合って、練習時間は1日3時間にしてくださいとお願いしました。短時間で集中して練習しましょうと提案したんです。
 
監督には当初「なんだと?」と怖い顔をされたのですが、じっくり話を聞いてくれた上で、次の大会でもし甲子園に行けなかったら元の練習方法に戻すことを条件に、聞き入れて下さいました。やはり何か言う時は、先に結果を出すことが大切なんです。
 
―PL学園はそれからも甲子園に連続出場し、5大会で優勝2回、準優勝2回という好結果を残しましたね。

このサイトを見ている人は、東京大学を目指す高校生の方が多いでしょうから、勉強熱心な読者が多いと思いますが、いくら勉強が好きでも10時間ぶっ通しの猛勉強はそんなに長く続かないですよね。僕は途中でやめてしまう努力では、目標に辿り着かないと考えています。
 
そもそも今の中学、高校生の生活って忙しいじゃないですか。やることがたくさんあるのに勉強ばかりしていたら、他のことができなくなってしまいます。

―日本では子どもの頃から、二兎を追う者は一兎をも得ず、と教わる影響もあると思うんですよね。

ひとつのことだけ頑張ることを、僕はいいことだと思っていません。僕が指導していた少年野球チームの子どもたちには、たとえプロ野球選手になりたくても野球だけを頑張るんじゃなくて、勉強も友達と遊ぶことも大事だよと言ってきました。練習時間も3時間までと定めました。
 
半日野球を頑張ったら、しっかり食事をして睡眠をとるサイクルが人間には必要です。高校生の人たちにも、バランスを大切にしてもらいたいと思います。

桑田真澄さん

東大野球部で伝えた「選択と集中」

実は東大野球部のコーチ時代に選手たちに伝えたのもそのことなんです。僕がコーチの依頼をいただいたのは、東大野球部が46連敗していた頃のことです。当時、野球部は勝つためにはたくさん練習するしかないと考えている選手が多かったのです。
 
選手たちに「なんでこんなにたくさん練習するの?」と聞くと、他大学の2倍、3倍練習しないと勝てないからだと言うんですね。これは日本人の典型的な考え方です。実際、選手たちは、本やインターネットで最新の練習方法を取り入れて、必死で頑張っていました。 私はグランドに行く度に「こんな練習を見つけました。どうでしょうか」と相談を受けていました。
 
私の答えはいつも同じでした。「どれもいいと思うよ、だけどこれを全部やったら、一体いつ勉強して、いつ寝るの?」と。
 
無理な練習をして疲れてしまったら体力が落ちるのでパフォーマンスも下がります。大切なのは「選択と集中」だよと伝えました。短時間で集中力を保ちながら練習して、万全な体調で試合に臨んだ方が、スポーツではいいパフォーマンスが出せるんです。
 
他の大学が、猛練習して故障者が出たり集中力を欠いたりする状態なら、逆に勝つチャンスが生まれます。だから東大の練習は3時間でいいし、メニューも厳選して3つに絞ろうよと提案したんです。みんな頭がいいんだから、何が必要か選択して、それを集中して練習しようよと。

―選手たちにすれば、連敗中だったからこそ1勝を上げるために頑張らなきゃと思っていたんですよね。

その気持ちは僕もよくわかるんです。僕だってなんとか彼らに勝利の喜びを味わってもらいたいからこそ、コーチを引き受けました。ただ自分たちがやってきたやり方で結果が出ていないとしたら、プロセスを変えるしかないんです。
 
それでもやはり、従来のやり方を変えるのは難しかったですね。東大に合格した学生さんは、みんな頑張ることで結果を出してきた成功体験をもっているわけです。だから頑張ることを惜しまないんですよ。
 
それは東大生のいいところではあるのですが、スポーツというのはそもそも実力がないと勝てません。力で相手を上回らない限り、1勝はあげられない。そこがスポーツの厳しさであり、魅力でもあります。残念ながら気合や根性では勝てないんです。

今の実力を知ることからスタート

―東大野球部員には、野球未経験者も少なくないと聞きました。ふつうに考えて、全国でも選りすぐりの選手が集まる他大のチームを、実力で上回るというのは難しいですよね。

当時、東大野球部はリーグ優勝という遠い目標を掲げていました。しかし僕は、もっと大切なのは近い目標だと話しました。
 
1勝しないことには優勝はあり得ません。それは決して遠い目標ではないし、やるべきことをやれば実現できると僕は思っていました。おそらくチームの選手も監督もそう思っていたと思います。
 
野球は、ミスが多いスポーツです。相手チームも必ずミスをします。とはいえ、試合では数字で相手を上回らなければ勝てない。ですからまずは自分たちの実力を客観的に知ることからスタートしました。僕はピッチャーを預かっていたので、彼らがどれだけ実力があるか、テストしてみたんです。
 
それぞれの投手に全力で投げてもらい、スピードガンで球速を測ってみました。結果は、みんな120 km ほどでした。これは中学生レベルです。

―なかなか厳しい状況ですね。

最速が120km台のスピードで抑えるのは難しい。ではコントロールを測ろうと、アウトロー(外角低め)を狙って10球投げてくれと言いました。そのうち何球決まるかを測るわけです。
 
その結果はというと、1人目=0。2人目=1。3人目=0。4人目=0……。ほとんどの投手が、1球か2球しか決まらない結果でした。

―こちらも厳しいですね…。

僕のこれまでの経験では、ブルペン(投球練習場)で決まる数の半分が、プレッシャーのかかる試合で決まる数なんですね。そうなると、東大のピッチャーは誰も試合で狙ったところに投げられない、ということになります。

―勝つということがイメージしづらいですね。そこからどんな方針を立てられたのでしょうか。

僕はまず彼らに「今から150 kmのボールが投げられるようになりますか」と尋ねたんです。
「(学生時代の数年間では)難しいです」と彼らが言う。
「ではコントロールはどう?」
「コントロールならやれると思います」
「だったらこれからきみたちの練習の目的は、コントロールを良くする事だよね」
 
この時、東大野球部のピッチャーが目指すべき目標と練習の目的が定まりました。

桑田真澄さん

基本に戻り、基本を深める

それまで選手たちは、目標というと何キロのバーベルを上げるとか、体重を何㎏増やすとか、太ももを何 ㎝ 大きくする、というようなことを口にすることが多かったんですが、それは枝葉の議論であり、本当に必要なのは狙ったところに投げられるコントロールだということがわかるわけです。
 
ではコントロールを良くするにはどうすればいいのか。まずはブルペンで狙ったところに投げられることが大事。ではブルペンで狙ったところに投げられるようにするにはどうすればいいか。キャッチボールが大事、ということになります。

―ずっと最先端の練習法を取り入れてきた選手にしてみれば、なんだキャッチボールかよ、といいたくなるところですね。

そう思ったかもしれませんね。だったらまず、桑田さんが投げて見せてくださいよと言われましたから(笑) 
 
2ヶ月ほどまったく投げてなかったんですけど、その場で肩を作って投げてみせました。すると10球中8球、アウトローに決まりました。それを見て、ようやく桑田が言うことは間違いないと納得してくれましたね。
 
単にキャッチボールをやりなさいと言っただけでは、意味が分からなかったと思います。でも、目標を定め、やるべきことに落とし込んだら納得できる。東大の学生は、一度頭で納得したら、後は早いですよね。

―キャッチボールを大事にするというのは、具体的にどんなことでしょうか?

当時、選手たちはキャッチボールをしながら大きな掛け声を出していたんです。野球を始めると、そう習いますよね。でも僕は声を出すなと言いました。しっかり集中して一球ごとに相手の右肩、左肩、胸、顔と投げ分けなさいと。
 
そして狙ったところに行かなかった時、何が悪かったのか、振り返りなさいと。頭が突っ込んでいたのか、ボールのリリースポイントが悪かったのか、左肩が早く開いてしまったのか……必ず原因があるはずだよと。

―まさしく基本に戻れ、ということですね。

目標を決めたら、そのために必要なトレーニングメニューを設定して、着実に実行するのが、結果を出すための合理的かつ効率的な方法だと僕は思っています。
 
その後、ピッチャーたちはどんどんコントロールがよくなっていって、10球のうち4つ、5つ、6つとアウトローに決まるようになっていきました。

―桑田さんのお話は、常に考え方が一貫していますね。目標を達成するためには、難しいことを長時間するより、重要なことに絞って短時間集中で全力でやると。

結果を導くためには、合理的な方法で効率的にやるということですね。これはすべてのことに言えると、僕は思っています。

桑田真澄さん・グローブ

受験を迎えても部活は続けたほうがいい

―高校生たちは受験期に差し掛かると、それまでに部活を頑張っていた人も、やめて勉強に専念しようかと迷う高校生も多いようです。桑田さんは勉強と、部活やスポーツの両立についてどのようにお考えですか。

受験だからといって、部活をやめる必要はないと思います。1日に1、2時間、練習に費やしても、勉強の差しさわりにはならないんじゃないでしょうか。そこは時間の配分を少し工夫すればいいだけのような気がします。
 
そもそも部活をやめたからって、1日15時間も集中して勉強できないですよね。そんなに集中力が続くはずないんです。むしろ運動をすれば脳が活性化しますから、勉強の効率も上がりますよ。
 
それに勉強も体力勝負のところがありますから、ふだんから体を鍛えておくことはとても大切です。

―世間では、偉業を達成するには人の何倍も努力する必要があるとも言われますが、桑田さんはそうではないと?

人生が500年も600年もあれば、それでいいかもしれませんが、人生は短いです。ダラダラと長くやるのは時間の無駄だし、勉強だけとかスポーツだけという生き方はもったいないと思うんです。
 
僕がいつも言うことなんですが、2つだけ分かっていることがあるんです。何かというと一つは、人は必ず死ぬということです。もう一つは、いつ死ぬかわからないということです。
 
僕だって明日、搭乗した飛行機が落ちて死ぬかもわからないんですよ。人生最後の時を迎えて、勉強は頑張ったけど友達とは遊べなかったとか、恋愛はできなかったとか、もっと勉強しておけばよかったとか、そんな後悔を残したくないと思いませんか。
 
もし今日死んでも、いい人生だったな、といえるような生き方をしておきたいと僕は思っています。

桑田真澄さん

―桑田さんは勉強も野球も頑張り、なおかつ恋愛も頑張っていたんでしょうか。

僕には中学の時からずっと彼女がいましたよ。恋愛って大事です。少なくとも僕は、彼女がいることで野球も勉強も、そのほかのことも頑張れましたし、充実した学生生活を送れました。
 
彼女の側に立って考えてみてください。補欠の彼女がいいですか。それとも甲子園の優勝投手の彼女がいいですか。答えは決まっていますよね。だから野球もサボれないんです。
 
勉強やスポーツで頑張りたいから恋愛ができないというのでは寂しいですよ。

―どうしても成し遂げたいことがあり、多少なりとも才能があればついつい他を犠牲にしてでも……という発想になってしまいがちです。

前回も言いましたけど、それぞれが自分らしく生きられるように、工夫しながらバランスをとってみてはいかがでしょうか。
 
みなさんそれぞれが世界で唯一の存在なんです。どんな人生を歩むかを決めるのは、自分なんですから、何かを犠牲にするということは考えず、自信をもって自分のしたいことに挑戦してもらいたいと思っています。

第3回につづく

2019.4.5
取材・構成/大島七々三、撮影/榊智朗
取材協力/東京大学中澤研究室、撮影協力/ルヴェ ソン ヴェール駒場