みんなの力を借りながら卒論を書く―東大ゼミ訪問(5)

2022.02.17

東大ゼミ訪問

#教育学部 #教育学部 #ゼミ #ゼミ #教育学 #教育学

「ゼミ」とは何か、東大の先生に聞いてみました!

前回に引き続き、第5回も教育学部准教授の額賀美紗子先生(比較教育社会学)の話を聞いて、卒論指導の様子をご紹介します。自称「神出鬼没のライター」タカハシカズコさんが、「卒論ゼミって何?」というギモンを徹底解明してくれます!

  • タカハシカズコ(永遠の17歳?)
    東大に興味はあっても、志望校に決めきれない高校生・受験生がたくさんいると聞いて、東大のあれこれを調査中。目標は「東大に進学するってどういうこと?」っていうギモンを解明して、それを伝えること!

  • ● 卒論(卒業論文)指導って、どのように行われているの?
    ● ゼミの様子って、どんな感じ?

    カズコ  額賀先生、引き続き、よろしくお願いいたします!

    額賀先生 志望校を決めたり、希望の学問分野を見つけたりするための第一歩として、動画が参考になればうれしいです。
     

    松原さんへの指導

    額賀先生 では、松原さんの発表内容の要約を確認するところから始めましょう。

    松原さんの発表内容要約

    【テーマ】インドの貧困層女子の教育アスピレーション(※どの程度の教育を受けるかということに対する個人の希望や意欲)

    問題関心
    ・インドの女子にとって、中等教育(=中学校・高校程度の教育)修了は、いまだ大変難しいもの。
    ・一方で、大学に進学する女子も一定数いる。そのアスピレーションの基盤になっているものは何か? 実際のデータから実証的に検討する!
    悩んでいるところ
    ・インドの女子がなぜ途中で通学を諦めるのかについては、これまでアンケート調査データを使っていろいろ分析されてきた。自分はインタビュー調査をして、まだ発見されていないことを示そうと思っていたが、新型コロナウイルス禍でインタビュー調査ができなくなった。
    ・検討した結果、インターネット上で公表されている、上記の調査データを分析することにした。でも、もう分析されているデータから新しい何かを発見できるものなのか、不安を感じている。

    額賀先生 動画の内容で気になるところがあったら、どんどん質問してくださいね。

    ~松原さん・動画再生(1)~

    額賀先生 発表ありがとうございました。コロナ禍でインドに行けなくなってしまったんですね。
    松原さん はい、それでアンケート調査の分析に変更しました。
    額賀先生 リサーチクエスチョンについては、どう考えているのですか。
    松原さん 注目したいのは『サポートネットワーク』です。近隣住民や友人、政府やNGOからのサポート量が「女子の進学にどのような影響を与えているのか」を見ていきたいと考えています。
    額賀先生 準備していたインタビュー調査ができなくなってしまったのは残念ですが、次善の策としてできることをやっていきましょう。

    カズコ  新型コロナウイルス感染症の拡大は、通常の授業だけじゃなく、卒業論文にも影響を与えちゃっているんですね。

    額賀先生 こうやって調査手法を変えなくちゃいけないっていうケースは、少なからず起きていると思います。今は公開されている調査データも多いから、それを活用して書くということを選んだ人も多いんじゃないかな。ちなみに、調査データを使わないで論文を書くという方法もあります。

    カズコ  どういうことですか?

    額賀先生 では、その質問に答えるためにも、続きを見てみましょう。

    ~松原さん・動画再生(2)~

    額賀先生 以前お伝えしましたが、この分野だと、先行研究のレビューだけでも大きな意味があるはずです。インドの教育と階層、ジェンダーとの関係を意識したレビューというのは見たことがないので、まず、そこをしっかりやって、レビューも強みだという卒論にするといいと思います。
    松原さん ありがとうございます。英語で書かれたものは結構あるので、しっかり読み直して、整理したいと思います。

    カズコ 何を言っているのか、よく分かりません…。

    額賀先生 そうだよね(笑)。先行研究のレビューっていうのは、自分が注目したテーマについて、これまで発表されてきた研究の成果を自分なりにまとめることです。「教育」、「階層」、「ジェンダー」の3つの関係は、これまでも多くの研究成果が出されている一方、私たち日本の研究者は、インドの状況についてほとんど知らない。でも、インドの状況がどうなっているのか、関心がある研究者は多いはずだから、先行研究のレビューすること自体、大きな意味があるよっていう話をしています。

    卒業論文の一般的な構成
    ※事例による違いあり!

     
    □□1.問題設定
    □□2.先行研究のレビュー
    □□3.データ概要
    □□4.分析
    □□5.まとめ考察

    カズコ  一人目に紹介していただいた代田さんの場合も、先行研究のレビューはするんですか?

    額賀先生 もちろん、します!どんな研究でも、先行研究のレビューはしなければならないんだけど、松原さんの場合は、とくに先行研究のボリュームがある分、時間をかけて作業することになるかな。

    カズコ  これまでの研究を整理するって、大変ですよね?

    額賀先生 大変だけど、とても大事なことなの。論文には、先行研究のレビュー自体を目的とした「レビュー論文」っていうのもあるんだけど、「調査データを使わないで論文を書く」1つの例です。

    ~松原さん・動画再生(3)~

    額賀先生 分析は始めていますか?
    松原さん このデータが結構複雑で、整理をするのに時間がかかってしまいました。本格的な分析はこれからなんですが、すでに分析されたデータでもあるし、あまり新しい発見が出てこないのではないかって、不安を感じています。
    額賀先生 松原さんが扱う予定のアンケート調査からは、どれぐらいの論文や報告書が書かれているんですか?
    松原さん 何個かあるぐらいです。ジェンダー規範(男らしさ/女らしさ)に注目した分析はそれなりに行われていますが、サポートネットワークの分析はあまり進められていないので、そこで新規性を出したいと思ってはいるんですけど…。
    額賀先生 基本的な分析を丁寧にやるだけでも、何か新しいものがみえてくるかもしれませんね。注意深く進めてもらえたらと思います。

    カズコ 学生たちの研究を後押しするのが先生の役割かと思っていたんですけど、なんだか、ちょっとブレーキをかけているような気がしました。

    額賀先生 そうですね。いまは分析手法もどんどん高度化しているんだけど、まずは基本的な分析が大事。そしてその基本的な分析をしているなかで「宝物」に出会うこともよくあります。手順は大事にしてほしい。そういったアドバイスだと言えるかな。

    ~松原さん・動画再生(4)~

    額賀先生 池上さん!手を挙げてくださっていますね。どうぞ発言してください。
    池上さん 私もトルコ出身のクルド人のジェンダーの問題を扱っているので、興味深く発表を聞きました。一点、コメントしたかったのは、宗教、地域、就業率も考えながら分析する必要はないのかなということです。とくに女性の就業率は進学率と関係してくると思うので、データとして使ったらどうかなと思いました。
    松原さん たしかに、地方の女性の就業率の低さは、そのまま教育の状況にもつながっているように思います。就業率や宗教などといったご指摘については、今後、分析にどう入れるか考えてみます。ありがとうございます。
    額賀先生 いいご指摘でしたね。就業率とか、議論に取り入れようということになったら、第1章の「問題設定」のところで触れるといいですね。時代によってどう変化してきたのかというグラフを見せつつ、女子の教育のことを取り上げる意味について説明するといいかなと思います。
    松原さん ありがとうございます。そうしてみます!

    カズコ  さっきは「高度な分析の前に…」、今度は「議論を焦点化する前に…」というブレーキをかけたように思いました!

    額賀先生 調査データを見始めると、どうしてもそのデータのなかで話を書こうという姿勢になってしまうから、こうした大きな視点で自分のやっていることを見直すっていうのは、とても大事な機会になるはずです。学生同士の議論は、今回の松原さんのように、指摘してもらう方が気づきをもらうことになるんだけど、コメントをする方も勉強になるんですよ。

    カズコ たしかに!人の発表にコメントするも難しそうです。

    ~松原さん・動画再生(5)~

    額賀先生 どうですか?なんかできそうな感じがするんですけど。
    松原さん はい!私もなんかそんな感じがしてきました。
    額賀先生 第一歩が踏めたようでよかったです。方向性としてはこれでいきましょう。では、今日はここまで。お疲れさまでした。

    カズコ  額賀先生、ありがとうございました。村本先生が教えてくれたゼミの魅力を、もっと具体的に知ることができたような気がします。私も大学のゼミで、自分がやりたい研究を深めていけるように、まずは受験勉強を頑張ります!

    額賀先生 こちらこそ、ゼミのお話ができて楽しかったです。カズコさんも大学生活をイメージしながら頑張ってくださいね。

    第5回のまとめ

    ● ゼミでは、学生同士で議論することで、指摘してもらう方も、コメントをする方もお互い勉強になる!
    ● 自分が何をやりたいかをじっくりと考え、大学生活をイメージしながら、受験勉強を頑張る!

     

    取材/2021年10月
    取材・企画/タカハシカズコ
    文・構成/タカハシカズコ、「キミの東大」編集チーム