令和6年度 東京大学総長賞受賞者の声(学業編)
学生表彰
2025.04.04
2023.04.17

東京大学総長賞とは?
東京大学では、学業・課外活動・社会活動などで顕著な成果を挙げ、本学の名誉を高めた学生や学生団体に対し、総長が表彰を行う「総長賞」を毎年授与しています。平成14年に始まったこの賞は、令和4年度には10の学生・学生団体が受賞しました。受賞者のみなさんの活動や研究内容とともに高校生のみなさんへのメッセージをご紹介します。東大生の多彩な挑戦と深い学びを、ぜひ感じてください。
TABLE OF CONTENTS
菅田 利佳 / 「音楽」と「教育」の2つの軸で分野を超えた多様な活躍
淺野 良成 / 安全保障問題に関する、政権と民意の隔たりについて検証
青木 真恒 / アラビア文字漢語文献の表記法の分析
山本 章人 / 「差分プライバシー理論」を活用したプライバシー保護技術の開発
仲里 佑利奈 / スーパーコンピューターで宇宙初期を解明
浅見 仁太 / 世界初の研究成果でB型肝炎ウイルスへの新薬開発に期待
谷口 大輔 / ベテルギウスの「大減光」を解明

私は、点字を使いながら通常の高校で学んだ経験、ピアノ演奏を通して多くの人々と心を通わせた体験から、教育と音楽が持つ力に関心を持ちました。音楽が人の心に働きかけることは広く認識されていますが、SDGsのような国際的最優先事項に具体的な記述がないことからも、芸術は周辺化されやすい分野だと言えます。一方、近年は日本から諸外国に器楽教育普及に向けた協力が進んでいることから、国際教育協力と音楽を結びつけた研究に、大きな将来性を感じました。そこで卒業論文では、西洋の音楽教育を受容し、独自に発展させた日本の歴史を、器楽・唱歌などの表現分野ごとに分析し、日本型音楽教育の特徴と、それらを海外に展開する際の意義や課題を示しました。また、研究成果や自身の生い立ちを広く共有することも大切だと考え、国内外での講演や演奏活動、メディアでの発信を続けてきました。文化芸術を通して若者と国連を結ぶ「東京大学UNiTe」では代表を務め、新型コロナウイルス禍において特に苦しい立場にある世界の若者や芸術界の人々の声を国連機関に届ける会議なども企画しました。音楽と教育という二つの軸を持って活動してきたからこそ、専門分野を初めとする多くの違いを超えて、多様な人々との間に共感と協力の輪を広げることができたと考えています。





日本のような民主主義の国では、政治家が国民の意見を代表することが期待されています。しかし2010年代以降の日本では、安全保障問題や防衛政策に関して、政権を担う自由民主党(自民党)の立場と民意の隔たりが大きくなっています。私の研究は、この隔たりが10年以上も続いている要因を有権者と自民党の立場から検証しました。まず、複数の世論調査のデータを統計学の手法で分析した結果、①安全保障政策への態度が中立的な人ほど選挙に行かなくなっていること、②東アジアの近隣諸国への不信感が強い人ほど自民党との隔たりは意識しつつも、日本の立場を国際社会により強く訴えて欲しいとの思いから自民党を許容していることがわかりました。また、自民党も民意との距離感の見せ方を工夫しており、私たちの目に留まりやすい政務三役(大臣・副大臣・大臣政務官)には急進的な議員をあまり起用しない傾向を確認しました。以上の知見は、日本の民主政治のみならず、ロシアのウクライナ侵攻によって安全保障問題が浮上している欧米諸国の動向を説明・予測するうえでも意義があると考えます。


アラビア文字漢語文献(小児錦)とは、中国語の「你好」をカタカナで「ニーハオ」と写すように、漢字の発音を表音文字のアラビア文字で写して書かれた資料です。回族(中国ムスリム)がイスラーム教育などで用いてきました。この種の文献を読み解くには中国語諸方言とアラビア文字に通じていなければならず、研究があまり行われていません。そんな中、卒業論文ではあるムスリムが著した文献の表記法を分析し、その基となった言葉がどこの方言か、どの発音をどの文字で表しているかを探りました。



次世代シーケンサーをはじめとするゲノム解析技術の進歩、そして健康意識の向上や医療技術の発展により、個人のゲノム情報やヘルスケアデータが急激に増加しています。これらのデータは個別化医療の実現などに向けて幅広い活用が検討されていますが、データ利用におけるプライバシーの懸念を払拭する必要があります。ゲノム・医療データの解析では、特に強いプライバシーの保証が求められ、さらにゲノム情報の複雑性も相まって、計算効率と解析精度の両立は極めて困難でした。また、医療データの共有においても、EUの一般データ保護規則等の世界基準の法令を遵守する普遍的なプライバシー保護技術の開発が求められています。そこで私は、多くの研究分野で注目されている「差分プライバシー」の概念を活用し、既存手法の高速化・精度向上や、データ解析で重要な概念であるk-匿名性との融合を考えながら、大規模ゲノム統計解析や医療データマイニングのためのプライバシー保護手法を多数提案しました。今後も、ゲノム・医療データに関するプライバシー保護研究を推し進めつつ、差分プライバシー理論の深化にも貢献できるよう、学問の探究を楽しみ続ける予定です。


宇宙は138億年前に誕生しました。その進化を調べるには2通りの方法があります。1つは、遠く離れた星団や銀河からの光を観測すること。もう1つは、宇宙の理論モデルをつくり、数値シミュレーションによって過去の宇宙を再現することです。私は、国内最大級のスーパーコンピュータを用いて、宇宙誕生から10億年の星団形成と銀河進化について調べました。その結果、宇宙誕生から数億年に存在するガスの「風」によって、新たな星団の形成過程が存在しうることを示しました。さらに、こうした星団が集まり銀河へと成長します。銀河内のガスからの光の放射モデルを考案し、NASAの宇宙望遠鏡による最新の観測結果とシミュレーション銀河をいち早く比較・検証しました。そして、宇宙誕生わずか10億年の間に銀河が急速に成長していることを明らかにしました。これらの研究は米国天体物理学誌に掲載され、6つの国際学会と8つの国内研究会で発表しました。米国カリフォルニア大との共同研究や、日本-スペインの共同観測プロジェクトの理論研究班としての貢献も高く評価していただきました。


B型肝炎ウイルス (HBV) は、世界最大級の感染症を引き起こすウイルスとして知られ、世界に3億人近くの感染者がいます。しかし、現在用いられている治療薬ではB型肝炎を完治することができないという問題があり、HBVがヒトに感染するメカニズムの解明や新しい治療法の開発が求められています。HBVはヒト細胞上の受容体タンパク質に結合し、感染します。私は高性能の電子顕微鏡を使ってタンパク質の「形」を調べることにより、HBVと受容体が結合する仕組みを可視化することに、世界で初めて成功しました(Nature, 2022)。この成果をもとに、今後、HBVに対する新しい薬の開発が飛躍的に進展することが期待されます。


宇宙にはさまざまな不思議な天体が存在します。そのうちの一種が「赤色超巨星」です。赤色超巨星は、太陽の約10倍以上の質量をもつ重い恒星が進化し膨れ上がった死にかけの姿で、半径は太陽から地球までの距離を超えるほどもある、最も大きな半径を持つ種類の恒星です。やがて超新星爆発を起こし、宇宙全体の進化に影響を与える点でも重要な天体となっています。しかし、その大気構造の複雑さから、表面温度や化学組成といった基本的な物理量を導出することに困難がありました。私は、いくつかの新たな天体観測やデータ解析法を編み出すことで、赤色超巨星の理解を推進してきました。特に高く評価された研究では、世界初の「気象衛星を用いた天体観測」を行い、最も代表的な赤色超巨星であるオリオン座のベテルギウスに起きた「大減光」という現象の原因を解明しました。



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