学部生・大学院生が語る、東大附属図書館の魅力とそのつきあい方 ―図書館は「知」の拠点

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大学生活を送る上で上手に活用したいのが図書館です。実際のところ、現役の学生たちは東京大学附属図書館をどんなふうに利用しているのでしょうか。今回は、日頃から図書館を利用している学生たちに、附属図書館の魅力や図書館での過ごし方、活用法について、存分に語ってもらいました。

取材に協力してくれたのは、アカデミックコモンズサポーター(ACS)の3人のメンバーたち。ACSとは、総合図書館をはじめとした附属図書館を東京大学の学生がより活発に使えるよう、学生の目線からイベントや広報などを企画・実施する学生ボランティアです。
(※新図書館計画の完了に伴い、ACSは2020年度で活動を終了しました。)

座談会参加者プロフィール

中村優さん 教育学部基礎教育学コース3年
高校時代はほとんど図書館を利用していなかったけれど、東京大学に入学してからはフル活用。2018年度ACSの学生代表。

杉山琴美さん 工学部都市工学科3年
小学時代から図書委員を歴任。進学選択で文系から工学部に移ったことで図書館を利用する時間がより長くなったとか。新館のライブラリープラザでのイベントを企画したいとACSに参加。

笹瀬聖人さん 大学院教育学研究科基礎教育学コース 修士課程1年
国際基督教大学(ICU)を卒業後、東京大学の大学院に入学。東大の図書館に新風を吹き込みたいとの意気込みでACSに参加。


ACSメンバーの3人。杉山さん(正面左)、笹瀬さん(正面右)、中村さん(手前)

──まず東京大学に入学して最初に使った図書館とその印象を教えてください。

中村 最初に使ったのは駒場図書館です。大学のシステム上、新入生は全員、駒場キャンパスから学生生活が始まるので、ほとんどの人が駒場図書館だと思いますよ。

杉山 私も駒場図書館が最初です。2階から上層階まで吹き抜けになっている構造とか、らせん階段のあるデザインが素敵だなと思いました。

笹瀬 僕はこの春から東大の大学院に通い始めたので、本郷にある総合図書館(本館)が最初でした。あの建物に惹かれて、観光気分でのぞきに行ったところ、まだ改修工事で正面玄関が閉鎖中でした。それで西側のゲートから入ったので、その時は「ICUとあまり変わらないな」という印象でした。でも後日、正面玄関から入った時は、「おお、すごい!」と思いましたね。

──大学に入る前と後で図書館の使い方は変わりましたか?

中村 高校時代はほとんど図書室って使ったことがなかったんですけど、大学に入学して1年次のゼミの先生が課題図書をたくさん出す方だったので、それを読む場所として利用するようになりました。あとはレポートを書くために図書館に通うことが多くなりましたね。
本郷に来てからは教育学部の部局図書館で、学術雑誌を中心に調べものをすることが増えています。

杉山 私は、小学時代からずっと図書委員をしていたので、学校の図書室は身近な存在でした。大学から使い方が変わったことというと、空きコマ(授業選択のコマ割で、隙間になるコマのこと。たとえば1限目と3限目の授業を取っている場合、2限目が空きコマ)の時間を利用して、直前の授業で先生から紹介された本をすぐに探して読めることですかね。高校までは空きコマってなかったので。
あとは、図書館で小説を読まなくなったというか、読めなくなったこと。東大の図書館には文学全集はありますが、タイトルごとの小説はほとんど置かれていないんですよね。だからもっぱら勉強する場所として利用するようになりました。ただ、駒場図書館はテスト期間中、席を確保するのに苦労しましたね。

中村 駒場キャンパスって、学生が空きコマやちょっとした時間を過ごせる場所が少ないんですよね。食堂も人が多いので、図書館を利用する人が多いんだと思います。

杉山 よく1階から4階まで、歩いて席を探していました。
本郷キャンパスに移ってからは、総合図書館別館のライブラリープラザ(LP)でレポートを書いている時間が多いです。新しくてきれいだし、デザインもいいので、気に入っています。

笹瀬 僕は勉強するより本を借りるために利用することが多いですね。高校時代にも図書室でよく本を借りていましたが、どれもさっと見ただけで返却することが多かったんです。でも大学に入った頃から、それではまずいなと思って、1冊通読するようになり、今はさらにその数が増えてます。その意味では、読書量は増えましたね。

──数ある東大附属図書館の中で、好きな場所やお気に入りの過ごし方があれば教えてください。

中村 僕は教育学部の図書館(教育学研究科・教育学部図書室)です。レポートのテーマに関係ありそうな本を集め、机の上にずらりと並べて、「ああでもない、こうでもない」と構成を考えていると、「研究してるぞ」という充実感があるんですよね。
中でもお気に入りの場所は、コピー機のある周辺。学術誌を大量にコピーするので、よく1台を占拠してます。コピーを取る人って少ないですけど、僕は「これでいつでも好きな時に好きな場所で読める」っていう開放感が味わえて好きなんです。


教育学部の図書室 コピー機周辺

杉山 私は、ライブラリープラザのあの素敵な空間で勉強しながら過ごす時間が気に入ってますね。ほかには総合図書館で未知の分野の本棚を巡って歩くのが好きです。自分が見たことも経験したこともない世界に触れると、まるで旅をしているような気持ちになります。


総合図書館 ライブラリープラザ

 
笹瀬 僕のお気に入りは、学部の図書館(教育学研究科・教育学部図書室)にある集密書架ですね。書架が隙間なく並んでいて、ボタンを押すと機械音とともに動きだし、目の前に道ができるんです。そこを通って目的の本にたどり着いたら、その場にしゃがみ込んで読む。このスタイルが気に入ってます。


教育学部の図書室にある集密書架

──みなさんが感じる東京大学附属図書館の魅力とは?

中村 圧倒的な蔵書数ですね。駒場か本郷に行けば必ず目当ての本があるという安心感があります。と言いつつ、この頃は5回連続で国立国会図書館に通っていますけど。

杉山 私はやっぱり総合図書館の歴史と伝統のある外観かな。図書館にある本も昔から受け継がれたものが多くて、古い文献を手に取ると、昔の人も同じ本を読んできたんだなと思うんですよね。一冊が持つストーリーと伝統の建物がリンクする感じがすごくいいなと。

笹瀬 僕も総合図書館ですね。博物館のような外観はもちろんのこと、なんといっても2階、3階の閲覧室の広さ。あれは圧巻です。

──みなさんから高校生におすすめの本を1冊紹介してくれますか?

中村 『赤本』とか英語の『鉄壁』とか、そういう趣旨じゃないですよね(笑)。であれば『「読まなくてもいい本」の読書案内』(著・橘玲、筑摩書房)を紹介します。世界を変えるであろう最先端の研究分野が5つ紹介されていて、高度な内容なのにわかりやすい。何か自分の将来の方向が見えてくることもあるんじゃないかと思いますよ。

杉山 私は水をきれいにする研究がしたくて工学部を選んだのですが、そのきっかけが『ナショナル ジオグラフィック』でした。といっても雑誌ではなく、海洋汚染の実態を紹介した映像版だったんですけど、なぜかその時、心が動かされたんです。
高校生のみなさんも数あるトピックの中から、自分の心惹かれる分野が見つかれば、それが学ぶ動機や進路につながることもあると思うので、雑誌の『ナショナル ジオグラフィック』を挙げたいです。
  
笹瀬 僕は高校生が読むとどんな化学反応を起こすか知りたいという個人的な関心から、『ゲッベルスと私──ナチ宣伝相秘書の独白』(著:ブルンヒルデ・ポムゼル , トーレ・D. ハンゼン [石田勇治(監修)、森内薫(翻訳)、赤坂桃子(翻訳)]、紀伊国屋書店)をすすめたいです。東大を受験するためにというより、人として人生を生きていくうえで第2次世界大戦を学んでほしいし、この大きな課題にどう立ち向かうかといったことを考えることも大事じゃないかと。

──では最後に高校生のみなさんに一言ずつメッセージをお願いします。

中村 本との出会いは一期一会だと思うんです。とてつもない蔵書を抱えている東大は出会いの宝庫。東大に来たらぜひ図書館を利用してほしいですね。

杉山 東大の図書館はまさに今、変わろうとしています。本を読みたい人も本を読まない人も、みんなで参加できるようなイベントを私たちが用意してお待ちしています。

笹瀬 高校生の人たちはきっと今頃、ハチマキして勉強してますよね。図書館のことをあれこれ話しましたが、まずは目の前の受験を勝ち抜いてもらいたいです。そして入学した暁には、日本で比類のない規模と伝統を持つ東大の附属図書館を存分に活用してください。

──どうもありがとうございました。
 

Q&A

Q 東京大学の附属図書館には紙に印刷されたもののほかに、どんなものがある?

A 東京大学では、歴史的・文化的な価値の高い文庫やコレクションをデジタルコンテンツ化し、ウェブ上で公開していますが、それだけではありません。
ネットで閲覧できる電子ジャーナル(学術雑誌の電子版)、各種データベース、電子書籍も多数、提供しています。貴重な電子ジャーナルも東大では28000タイトル以上閲覧できるとのこと。これだけのタイトルを閲覧できるのは全国の大学でも東京大学だけ。デジタル分野においても東京大学には研究活動を支える最高の環境が整っています。

 

東京大学附属図書館長から高校生のみなさんへ

最後に、熊野純彦附属図書館長(2018年)から届いた高校生のみなさんへのメッセージをご紹介します。

寄稿 「図書館について」

東京大学附属図書館長
熊野 純彦

 九州から上京して、大学に入学しながら、「物足りない」思いを抱きはじめていたとき、三四郎は与二郎にこう言われます。「是から先は図書館でなくつちや物足りない」。

 母親やお光さんが代表する九州は、三四郎にとって「過去」の世界であり、女性たちに象徴される帝都の喧騒が「現在」の世界です。野々宮さんが一身に体現している大学は、三四郎の「未来」をあらわし、大学の中心となるのが図書館でした。

 漱石の作品世界では、それぞれの空間のなかに時間軸が織りこまれ、大学図書館は現在の空間のうちに位置しながら、他の空間から区別もされています。大学そのものが慌しい現在からなかば切りはなされ、静寂な空間をかたちづくっています。図書館はその静寂のなかに過去の知の堆積を収め、そのことで同時にまた三四郎に未来を示すものともなっているわけです。

 東京大学附属図書館はいまも大学の象徴であり、また過去と未来との交錯点です。都会の只中でちいさな森のように開かれたキャンパスの中心に、先人の痕跡を集積し、未来の知を支え、内部の静寂のうちに外部へと開放された空間が存在します。図書館がそのような空間として存在しつづけるためには、他方では現在に呼応して図書館そのものが変化してゆく必要もあるでしょう。そのためには何が要求されるのか、私たちは考えています。

(写真:東京新聞提供)

取材・撮影・構成/大島七々三
※ページ内容は作成時のものです。