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「総合力で『学生日本一』をめざす」東京大学アメリカンフットボール部―東大とスポーツ

2019.04.05

スポーツ

#運動部 #運動部

東大アメフト部

東大とスポーツ

「WARRIORS(ウォリアーズ)」のチーム名で親しまれている、東京大学アメリカンフットボール部は1957年に創部され、東大を代表する伝統ある運動部の一つです。2017年から「未来を切り拓くフットボール」という理念の下、「学生日本一をめざす」という目標を明確に打ち出し、組織の見直しや改編を進めてきました。そんな中、昨年は見事にリーグ優勝を成し遂げ、国公立大学では史上初となる関東学生リーグの最高峰「TOP8」への昇格を果たしました。今年は早稲田大学、明治大学、法政大学、慶應義塾大学などの強豪チームを相手に優勝を狙います。学生日本一の座をめざして躍進を続ける、東大アメフト部を取材しました。

上下関係がなくフラットで合理的な組織運営

東大アメフト部の部員数は約180名(2019年2月時点)。そのうち試合に出場する選手は約120名。残りの部員は、スチューデントアシスタント、マーケティングスタッフ、トレーナー、マネージャーなど、4分野のサポートスタッフが占めています。2017年からは学生日本一という目標を明確に打ち出し、組織再編を進めるなどの改革に取り組んでいるところです。

ふだんの練習は本郷キャンパスにあるグラウンドで行われていますが、新入生は大学に慣れる夏まで駒場のグラウンドで別メニューの練習を行い、その後、本郷の練習に合流します。この大所帯を束ねるのが、主将の関剛夢選手。ポジションはディフェンスの要となるラインバッカー。

東大アメフト部・関主将主将の関剛夢選手(工学部4年)

アメフトという競技は、選手がさまざまなポジションに分かれており、さらに選手を支援するサポートスタッフの働きも重要です。そのため全体がフラットな組織編成で、合理的な運営が行われてきたと言います。

「東大アメフト部は伝統的に、先輩・後輩や監督・選手の間に上下関係がほとんどありません。また、選手だけでなくサポートスタッフまで含めた全員が互いに支え合うことで勝つことができるという考え方のもとでチームが運営されています。全員がそれぞれの持ち場で最大の力を発揮し、その結果として勝利を得るという合理的な考え方で貫かれた集団が東大アメフト部なのです」

東大アメフト部練習のトレーナーも学生が務める

昨今、多くの大学がスポーツを大学のブランディングに活用する動きがある中で、東大アメフト部では大学の名声や伝統の継承などにとらわれることなく、「学生の成長」を第一の目的とする考え方を貫いてきました。関主将も、全員が勝利に向かって歩むチームづくりをめざしています。

「チームが勝つために、一人ひとりが何をするべきかを考え、それを行動に移せるチームづくりをめざしています」

グラウンドの外からチームを支える

1年生からマネージャーとして入部し、現在はマーケティングスタッフとして活動する織田舞桜里さん。彼女が手掛けるのは、チームに関する情報発信などの広報活動です。主な活動は、パンフレット作りや、部外関係者との調整など、屋内での仕事がほとんどだと言います。

「入学時に勧誘されたのをきっかけに、最初はマネージャーとして入部しました。それから1年間はグラウンドに出て選手をサポートしていましたが、組織が変わったのを機に今まで誰もしたことのなかったことに挑戦してみようとマーケティングスタッフになりました」

東大アメフト部・マーケティングスタッフ織田さんマーケティングスタッフの織田舞桜里さん(薬学部4年)

ここ数年、チームが躍進を遂げていることで、多くの人に注目されるようになり、やりがいを感じているそうです。

「新体制になったばかりの時は施設も整っていなくて大変な面もありましたが、部での仕事を通じて、将来につながるよい経験ができています。日本一をめざすには、さらに多くの方々に支援をしていただき、組織の規模を拡大していく必要があります。東大アメフト部をより多くの人に知っていただくためにも、広報活動に力を入れていきたいです」

東大生の資質が生かせるアメフトという競技

ほかの私立大学が、スポーツ推薦等で全国から優秀な選手を集めているのに対して、国立大学にはスポーツ推薦制度はなく、しかも東大の入学試験は全国で最難関。毎年、アメフト部に入部する新入生のうち、経験者は1人いるかどうかというのが実態です。高校時代には運動部にさえ所属していなかった選手も少なくありません。

また、私立大学では施設や設備に潤沢な予算を投じて、理想的な環境を整えているのに対して、東大では特別な予算が投じられることはありません。ことスポーツでは圧倒的に不利な環境にもかかわらず、東大アメフト部は1部リーグで好成績を収めているのです。その躍進の背景に、2017年からヘッドコーチに就任した森清之さんの存在があります。森ヘッドコーチ(HC)は、80年代に京都大学アメフト部が2度日本一に輝いた時の中心メンバーで、その後、国内外でコーチを歴任。日本代表のヘッドコーチを務めた経験も持つ、日本アメフト界を代表する指導者です。

東大アメフト部・森HC森清之ヘッドコーチ

その森HCに、なぜ東大がリーグ優勝を成し得たのか、その強さの理由をお伺いしました。

「アメフトは団体競技の中では比較的、個人のスキルに依存する度合いが低い競技なんです。それぞれが自分の得意分野を伸ばし、その力を最大限に発揮すれば、相手チームが強豪といえども勝つことができるんです。東大の選手はほとんどが未経験者ですが、それぞれが自分の強みを伸ばすことに徹することで、総合力で勝ってきました」

個々の強みを伸ばし、総合力を飛躍的に上げるために取り入れているのが、科学的で効率的なトレーニングです。特に出場機会に恵まれないときも腐ることなく、きついトレーニングを続けられる意志の強さと素直さは東大生ならではだと、森HCは話します。

「4年間という短い学生生活の中で、未経験の選手が優秀な選手のそろう他チームに負けないフィジカルやファンダメンタルを鍛え、技術を磨くのは容易なことではありません。そこで科学的で合理的なトレーニングを取り入れ、短期間で効率的に鍛えています。東大生は、課されたトレーニングの意味を理解すること、そして意味を納得することに対して努力し続けるのに長けています。そういう点で、この競技には向いていると感じます」

真剣に勝負にこだわる姿勢を「学生の成長」につなげる

東大アメフト部ならではのチーム編成や戦術の特徴はあるのでしょうか。

「僕自身は、こうじゃないといけないというやり方はないと思っています。メンバーの強みを把握して、それを活かすチーム作りや戦術を考えるだけです。スタイルは問わず、とにかく試合が終わった時に相手よりも1点を多くとっていればいいという考え方です。アメフトのゲームは1プレーずつ断続的に進むため、首脳陣はその時々の状況でとり得る最善の策を冷静に見極めて実行していくだけなんです」

ところで、学生日本一になるという目標の実現度は、どれくらいあるのでしょうか。

「客観的に見れば、日本一を語るにはまだ分不相応だとは思います。しかし可能性はゼロではない。自らの弱点をなくしストロングポイントを最大化すれば、果たしうる目標だと僕は思っています。またその可能性を全員が感じているからこそ、本気で挑めるのです」

一方で、大学スポーツであるということも忘れてはいけないと森HC。

「学生のスポーツですから、最終的には学生たちの成長や学びにつなげるということが根本にあります。だからこそ勝つために真剣に取り組むことが大切なんです。真剣な挑戦の延長線上に『選手の成長』があると、僕たちは考えています」

2018年、東大アメフト部の支援団体が法人化

東大アメフト部と言えば、OBOG会などで構成する支援団体「東大ウォリアーズクラブ」が2018年、法人化されたことでも話題になりました。なぜこのタイミングで法人化に踏み切ったのか、その理由について東大アメフト部 OB で一般社団法人東大ウォリアーズクラブの理事を務める小笹和洋さんは「それが日本一をめざす上で必要なステップだったからです」と説明します。

「ほかの強豪チームが大学の潤沢な資金をもとにスポーツの環境を充実させている中で、東大の運動部が日本一をめざすには、外部から広く支援を募ることが不可欠なんです。そこでこれまでの組織の形や運営のやり方を見直し、資金の流れや管理体制を明確にする必要がありました。チーム運営にかかわる予算規模を拡大して、監督やコーチ陣などの指導陣をはじめ、練習設備や用具も充実させようと、法人化に踏みきりました」

東大アメフト部・小笹理事一般社団法人東大ウォリアーズクラブ・理事、小笹和洋さん

法人化によってOB会や父母会だけでなく、一般の人や企業からも支援を受け入れられる環境を整えたのです。東大アメフト部の法人化の動きは、大学スポーツのあり方に一石を投じたと言われており、これから同様の動きが学内外で進んでいくことが予想されます。

「東大の一運動部というより、日本一という目標を実現するためのプロジェクトと考えてもらえばわかりやすいと思います。僕たちの思いに共感してくださる人が自由に応援し、参加できる活動であり組織なんです」

関主将から高校生の人たちへ

「学生日本一をめざす」という壮大な目標は、周囲を巻き込みながら、少しずつ大きなプロジェクトになっているところです。最後に東大アメフト部で新たに主将となった関選手に、高校生のみなさんに向けたメッセージをもらいました。

「東大に入って、本気でスポーツをしようと考えている人は多くないかもしれません。僕自身も最初はどこかのサークルに入って楽しい学生生活を過ごしたいと思っていました。でも日本一をめざすという真剣な思いに共感して入部を決めました。アメフトという競技はそれ自体、とてもおもしろいのですが、活動を通じてさまざまな人と関わることができるところも魅力です。東大の授業は大変な面もありますので、運動部に入ることを懸念する人もいるかもしれませんが、文武両道が可能な運動部であり、また未経験者にもチャンスのある競技です。大学に入って何かに打ち込みたいと思っている人には、ぜひアメフトに関心を持ってもらいたいです。僕たちとともに日本一という目標を達成しましょう!」

ナイター設備の整った本郷キャンパス内の練習グラウンド
知性と武性を組み合わせることで未来を切り拓く

フォトギャラリー にはまだまだ載せきれなかった写真がたくさんあります!写真を通して、素顔の東大生の魅力が伝わるとうれしいです!
ぜひご覧ください。

取材・撮影・構成/大島七々三
取材協力・写真提供(集合写真・試合写真)/東京大学運動会アメリカンフットボール部