みんなの力を借りながら卒論を書く―東大ゼミ訪問(5)
東大ゼミ訪問
2022.02.17
2021.12.21
「ゼミ」とは何か、東大の先生に聞いてみました!
前回に引き続き、第2回も文学部教授の村本由紀子先生(社会心理学)に話を聞きました。自称「神出鬼没のライター」タカハシカズコさんが、「卒論ゼミって何?」というギモンを徹底解明してくれます!



カズコ □村本先生、卒論ゼミのことも教えてもらいたいです!
村本先生 わかりました。カズコさんの疑問点をひとつずつ解決していきましょう。
カズコ 4年生の4月に指導教員、所属ラボが決まるっていう話だったんですけど、そのあとはどんな感じで進むんですか?
村本先生 社会心理学の卒論だと、基本的にデータを収集して分析するというものになるので、まずは、夏休みがあけたらできるだけ早くデータをとることに照準を合わせます。そうなると、4年生の前半は必然的にそのための準備をすることになりますね。4~5月にテーマを決めて、夏休みまで具体的な実証研究の計画を立てるという感じかな。早い段階で予備調査をすることもあります。
カズコ みんなそんなにうまく進めることができるんですか?
村本先生 企業への就職をめざしている人と、公務員をめざしている人とでは、就活に力を入れなければいけない時期が違うように、卒論も順調に進めることができる人もいれば、そうじゃない人も、もちろんいます。でも、ワーワー言いながら、結局みんなしっかりまとめていくんです。
カズコ 卒論に取り組む中で、一番難しいことって何ですか?やっぱり、何について書くかを決めることですか?
村本先生 まず、社会心理学のテーマは日常生活の中にあるので、みんな、どういった現象を扱いたいかということはかなり早い時点で出してきますね。やっぱり大変なのは、それを「問い」にするところ。これが第一関門ですね。「〇〇についてやりたい」っていうのは簡単だけど、それを「問い」のかたちにまでもっていくには、かなりのやり取りが必要になってくるかな。
カズコ 「大学では何を学ぶか」といった本を読むと、村本先生がおっしゃった「問い」っていう言葉がよく出てくるんですけど、正直よくわからなくて…。「問い」にするところが大変って、どういうことなのかもう少し知りたいです。
村本先生 では、少し説明を変えてみますね。もう一度言うけど「この現象に興味がある」というのは、割と早い段階から学生たちも出すことができるんです。でも、それを研究にするためには「なぜ、△△という現象が起きるのだろう?」、「これまで◎◎という現象については、■■の視点から説明されてきたけれど、ここに★★の視点を加えると、どのようなことが言えるのだろう?」といった「問い」にしなくちゃいけなくて、しかもその「問い」が学術的に意味のあるものである必要がある。こういった「問い」までたどりつくのが難しいって言ったらわかってもらえるかな?
カズコ それなら、なんとなくわかります!やっぱり、小学生のときにやった夏休みの自由研究とは全然違うんですね(笑)。

村本先生 ほかにも大事なことがあって、私は学生たちに「最初から研究になるものはどれかって、気にしなくていいよ」と伝えています。みんなが想像している以上に研究になるものだから「もっと柔軟に考えてみて」ってね。まずは、学生本人がわかっていないところですごくおもしろいことを話していることがあるから関心を話してもらうことが大事で、それに対して「そこ、おもしろいね!」っていうのが、自分の仕事かなと思っています。
カズコ 村本先生のその言葉がきっかけとなって、研究に対する考え方の幅もどんどん広がっていきそうですね!
村本先生 4年生のゼミでは、毎週リサーチミーティングというのをやっているんだけど、そこには大学院生も参加しています。ミーティングでは大学院生の研究相談もしているから、4年生は「この大学院生の研究は、私の関心に近いな」とか、そういうことを感じながら参加しているんじゃないかな。自分の研究もほかの人と共有することで別の視点に気づくこともあると思います。
カズコ 大学院生ともつながりがあるなんて、知らなかったです!
村本先生 たしかに、高校生はあまりそんなことを考えないかもしれないですね。私の研究室では、大学院生に4年生のアドバイザーになってもらっているんだけど、大学院生が4年生の関心を聞いて、「そういうことだったら、自分が最近読んだこの論文が近いというか、参考になるよ」とか、「こういう話もあるよ」とか、熱心に助言してくれていますよ。
カズコ 村本先生が4年生に伝えているアドバイスについて、もう少し具体的にお話をお聞きしたいです!
村本先生 まず、学生自身がおもしろいと思っていても、「問い」にまでなっていない段階であれば、「ここがおもしろい!」というところと、「なぜ、そこがおもしろいと思うのか」、「あなたの話のどこが研究の種として興味深いのか」を伝えるようにしています。「それは議論され始めているけど、まだ十分開拓されていないテーマだよ」とか、「あまり注目されてこなかったことだから、そこにこだわってごらん」とか、「今の発言は、従来言われてきたことと逆のことだから、そこを掘り下げていくとおもしろいかも」といったアドバイスをすることで、モヤモヤした学生の興味関心を引き出し、研究へとつながる機会をつくるようにしています。
カズコ イメージがわいてきました!
村本先生 「問い」にするには、先行研究のレビュー(※)をしたり、理論を知っておいたり、そういうことも大事になると伝えています。そうすると、学生たちは文献を読み、理論を勉強し、自分なりの問いをひねり出す。そしてまたゼミの場で議論して、「問い」が洗練されていく感じです。
(※)「先行研究のレビュー」とは、自分の知りたいことに似たテーマや、同じような対象を扱っている過去の研究を読み、先人がこれまでに何を明らかし、何が課題として残っているのかを整理すること。大学の研究はここからスタートする。
カズコ 村本先生が学生にテーマを与えるってことはしていないんですか?
村本先生 そういうやり方もあるとは思うんだけど、「いくつか候補を出す」というのが私のやり方かな。「これでいくのか、あれでいくのか、どっちもそれぞれおもしろそうだけど、あなたはどちらをやりたいのか考えてみたら?」と学生たちによく話しているように思います。
カズコ どんなものが研究テーマとなるのかがまだよくわかりません。たとえば、私はテニス部なんですけど、試合に負けるとなんだかメンバーの仲がぎくしゃくすることがあって、「どんなときも、ぎくしゃくしない方法」っていうのは、研究になりますか?
村本先生 うーん、なんて言えばいいかな。学術理論を使って、自分の部活で何が起きているのかということを説明するのは、それはそれでおもしろいんだけど、でもそれって「私が知りたい!」っていうことだよね?
カズコ そういうことです…。
村本先生 その「私が知りたい」というのは大事なんだけど、できれば、卒論は「私が知って終わり」にはしてほしくなくて、「私」だけじゃないオーディエンス(研究の読み手・聴き手)に向かって伝えるものにしてほしいと思っています。だから、カズコさんのその質問には「その研究でわかったことをどうするつもりなのか考えて、テーマや『問い』を考えなさい」っていうことになるかな。
カズコ オーディエンスに向かって伝えたいって考えたことがなかったです!
村本先生 「私」から始まる「問い」でもいいんだけど、その先にはオーディエンスを意識したほうがいいですね。言い換えると、カズコさんのテニス部のことを知らない人にとってもおもしろいものにするにはどうすればいいかっていうことを考えてほしいかな。もし、そこから、既存の研究に対して新しいことを言えたとしたら、それがベストですね。

カズコ テーマや「問い」が決まったら、あとは結構スムーズに進むものなんですか?
村本先生 「問い」が決まったら、そのあとは、調査や実験の計画になるんだけれど、実際に計画してみて「問い」を見つめ直すということも少なくないから、そこからも結構やりとりしながら進めていきます。
カズコ そうやって、卒論に向けて1年間進めていくというのが、4年生のゼミになるんですね!
第2回のまとめ
● 卒業論文の最初のハードルは「問い」を作ること。大変な作業だけれど、先生や先輩が、ゼミで助けてくれる。
● 身近な困りごとを卒論にする場合は、それを知らない人にも興味をもってもらうにはどうしたらよいのかを考える。
第3回に続く