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「廃棄ミカンのアップサイクル活動で感じた違和感。『他者と分離して物事を捉える力』に迫る」―2023推薦生インタビュー 文学部

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PROFILE

  • 氏名:   岸ふみさん
  • 出身校:  諫早高等学校(長崎県)
  • 入学:   2023年 文科三類(文学部進学予定)

――文学部を選んだ理由を教えてください
私は他者や状況を正しく理解する力、物事の関係性を正しく理解する力は、その人が所属するコミュニティで共有されている価値観からどんなふうに影響を受けるのか、阻害されてしまうのかにすごく関心があったので、社会心理学を学びながら明らかにしたいと思って文学部を志望しました。

――興味をもつようになったきっかけは何だったんですか?
私の高校時代の活動に対する否定的な気づきから、このテーマへの興味が広がっていきました。具体的には、廃棄ミカンを別の商品に生まれ変わらせるというアップサイクルの活動をしていて、廃棄ミカンの皮から抽出した精油、いい香りがするアロマみたいなものなんですが、それで香りづけしたキャンドルを製造して販売していました。その活動自体は結構うまくいっていて、私は当時、この活動を環境にいいことをしているって思っていたんです。でも、客観的に考えたときに、「全然、環境にいいことしてなくない?」ということに気づきました。
実は、農作物を畑に捨てるということは、環境負荷の面から考えると、自然からできた物を自然に戻しているだけなので土壌などにはあまり悪影響はないということが、後から調べて分かったんです。その一方で、アップサイクルをするにはいろいろな処理が必要なんですが、例えば廃棄品をアップサイクルするために各処理場に運ぶ際に排出されるCO2や、精油の抽出に使う水や電力などを考慮すると、明らかにアップサイクルするほうが環境負荷が高いんじゃないかって。活動しているときは当然環境負荷を高めようと思っていたわけではなく、むしろ善意を持って活動していたので、課題の実態とは違う解決策が生まれるのは、どうしてなんだろうということに関心を持ち始めました。

――その活動を始めたきっかけや、関わり方を詳しく聞かせてください
『Taste The Waste』という動画があるんですが、それを見て、こんなに食べ物が捨てられるんだということを知りました。それ以上につらいなって思ったのは農家のみなさんが、本当は捨てたくないけど捨てざるを得ないと言っていたことです。地元長崎の特産品でもあるミカンは、実は日本で一番廃棄量が多い果物だということがわかり、ミカンを使って、私にも何かできることはないかなと考えたことがきっかけでした。
最初は、高校生対象のインキュベーションプログラムに参加して、社会人の方から、いろんなサポートを受けていましたが、プログラムが終わってからは、すべて自分たちで進めていかないといけなかったので、県内でミカン関連の化粧品を作っている方にアップサイクルに使用する蒸留器を貸していただきながら、活動を続けていました。

――学校推薦型選抜の文学部の社会心理に、どのようにつながっていったのですか?
自分の活動は、意図的ではなかったとしても、もしかしたらグリーンウォッシュだったんじゃないかと気になってしまって、そこに陥ってしまったのはなんでなんだろうとか、私と同じように、本来の解決とは違う方向で活動をしている高校生って意外と多いんじゃないかということに気づいたんです。どうして課題の実態と乖離した解決策が生まれるのか考えたときに、真の課題を正しく理解できていなかったことが一番の要因なのかなと思いました。
これまでのことを振り返ったときに、私が属していた中高生の頃の校外活動コミュニティって、とても居心地がよかったんです。でも、そのコミュニティ内で共有されていること、例えば、「社会問題ってひどいよね」、「社会問題解決しなきゃいけないよね」といった、そういう先入観、価値観から影響を受け過ぎて、それが自分の考えになってしまっていたのではないかなと感じました。規格外野菜や規格外ミカンについて農家さんにヒアリングをしたときから、もう既に自分の中に「規格外野菜の廃棄は悪いことなんだ」、「これは社会問題なんだ」っていうバイアスがかかった状態で、誘導的な質問も無意識のうちにしていたんじゃないかなと思ったんです。そこから、物事に対する理解力っていうのは、もしかしたらその人が属しているコミュニティの規範や価値観にすごく影響を受けて、物事を正しく理解できなくなることがあるかもしれないと考えて、社会心理学を学びたいと思いました。

――その気づきのメカニズムを明らかにしつつ、物事をバイアスが入らずに捉えていく方向を目指しているわけですね?
学校推薦型選抜のときに伝えたのは、自分と他者をきちんと分離して物事を捉える力について突き詰めたいということでした。例えば、物事を見たときに属している集団の価値観に強く影響を受け過ぎないとか、「私はこういう価値観持っているんだ」と自覚的になるとか、あるいはその問題を抱えている人に感情移入をしすぎないとか。自分と他者の間にきちんと境界線を引いた上で、その物事を理解しようとする力って、どんなふうに育めるのか、それがどういう要因でコミュニティの規範に阻害されてしまうのか、そういうことが知りたいです。そんなに簡単にはいかないとは思いますが、阻害されている要因があるなら、それを少し取り除くようなヒントもあるのではないかなと安直に考えてはいます。

――将来の夢を聞かせてください。
現段階では起業も一つの選択肢かなと考えていますが、研究も続けていきたいと考えています。まだ仮説にすぎないのですが、RRPG(リアルロールプレーイングゲーム)を利用したプログラムで、他者の視点を意識的に理解する力を育めるんじゃないかというアイデアがあって、そのプログラムを提供できるような起業をして、社会に還元できればと考えています。

――大学で挑戦したいと思っていることはありますか?
デザイン系のサークルが気になっていて入ろうかなって思っています。デザインの力ってすごく人を引き付ける力があるので、デザインできるようになりたいです。また、表象的なデザインだけでなく、デザインする前の「デザインリサーチ」も挑戦してみたいと考えています。加えて、別分野ではあるのですが、台湾の日本語世代の方々についてもとても関心があるので、中国語の勉強も頑張って、彼らと交流できるようになりたいです。

――最後に高校生へのメッセージをお願いします。
東大の学校推薦型選抜と聞くと、自分にはできないって思ってしまう人も多いと思うし、実際に自分もそうだったので、結構ぎりぎりまで出願を悩んでいました。でも、出願の準備をする過程で、自分がやってきた活動や研究を客観視し、そこに一区切りつけたり、自分が抱えていたもやもやした気持ちにもきちんと向き合って、「何がよくなかったんだろう」と自分なりの仮説を立てたりすることができました。学校推薦型選抜の準備を通して、大学でどんなことを学びたいのかが見えてきたので、みなさんにもぜひ頑張って挑戦してほしいなと思います。

――これからのご活躍を応援しています!ありがとうございました。

取材/2023年4月
インタビュー・構成/「キミの東大」企画・編集チーム