「進学選択」って何?(4)―進学選択について、東大生に聞いてみた

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東大生ならば、必ず通る通過点。それが「進学選択」(通称「進振り」)です。将来の進路にも関わることもあり、受験を前に不安に感じている方も多いのでは?そこで今回は、進学選択をクローズアップしました。
第4回は進学選択を通じ、文科三類から理系学部へと大きく舵を切った先輩にインタビュー。進路を変えたきっかけや後期課程での学びについて話を聞きました。

PROFILE

農学部4年 堀内美佑さん
東京都出身。文科三類入学後、農学部 農業・資源経済学専修へ進学。農家のフィールドワークなどを通じて、農業と経済の関係を探究する傍ら、「キミの東大」学生ライターとしての活動にも尽力。自身のデンマーク留学友人のユニークな活動などを幅広く紹介したり、東大を目指す高校生に自身の進路選択の経験を伝えたりしている。

学ぶ分野を決めきれなかった高校時代

――堀内さんは今、農学部に在籍しています。農学というと農場に行ったり実験したりと、理系科目のイメージがあります。

確かにそうですよね。東大にも細胞や遺伝子、バイオマスの研究を行うところや生物多様性や環境保全にフォーカスしたところなど、いわゆる生命や生物に密接した専修が充実しています。けれども農学はそれだけではありません。森林について多面的な観点から学ぶ専修や、工学的手法で生命資源や自然環境について研究する専修など、東大には農学部だけで14の専修が揃っています。

――堀内さんの専修は何ですか。

私は農業・資源経済学専修に所属しています。意外かもしれませんが、農と経済は切っても切り離せない関係にあります。例えば日本とアメリカの貿易交渉では、よく農産物の輸入が焦点になっていますよね。ほかにも飽食や飢餓の問題、フェアトレード(途上国など立場の弱い国とも公正な価格で継続的に取り引きすること)の問題などもあります。さらにこれらの課題は、地域の環境や産業、国際情勢などが複雑に入り組んでいるのが特徴です。
私のいる専修では農業や資源の観点からお金の動きを考察し、課題解決につなげるための研究を行っています。

進学選択特集 堀内さん
自身の進学選択の経験を語ってくれた堀内美佑さん

――ひと口に農学といっても、いろんな切り口があるんですね。ということは、堀内さんは文科出身なのですか?

そうです。前期課程の所属は文科三類でした。農業・資源経済学専修の学生は、およそ3分の1が文科出身ですね。

――高校生の時は、どのようにして進路を決めたのですか。

高校2年生の時に文理選択をするのですが、英語や歴史、地理が好きだったので特に迷うことなく文系を選びました。絵を描くのが好きなので、理系だと芸術(美術や音楽)の授業がなくなるのが嫌だったのも大きかったですね(笑)。

――東大を選んだのは?

通っていた高校では毎年10人以上東大に進学するので、なんとなく関心はありました。意識し始めたのは高3の時ですね。模試の結果を見て、「もしかしたら行けるかも…」と思って。塾や予備校には通わず、学校の授業と自習で乗り切りました。
文科三類を選んだのは、後期課程に向けて進路の幅を広げておきたいと思ったからです。一類や二類だと、どうしても法学部や経済学部に絞られてしまうかな…と。高校生の時は、学びたい分野をまだ決めきれずにいたので、教育学部や文学部、教養学部など選択肢が多様な文科三類が魅力的に映りました。

意外な方向へ興味を結びつけた教養の授業

――前期課程ではどのようなことを学びましたか。

海外の文化に関心があったこともあり、歴史や語学にまつわる講座を中心に選択しました。嬉しかったのは、外国語の授業でイタリア語を選択できたこと! 大学では海外の文化や言語に触れてみたいと思っていた中で、特にイタリアは気になっていました。イタリア語を選択できる大学は意外と少ないので、とても嬉しかったですね。

――印象に残っている授業は?

主題科目(社会問題やテクノロジー、文化など、カリキュラムの枠組みを超えて1つのテーマを深掘りする科目)で受講した、農業実習ですね。実際に茨城にある附属牧場に3日間滞在して、動物の世話や乗馬などを体験しました。大学の教養科目で自然に触れられるとは思っていなかったから、驚きましたね。とても楽しかった記憶があります。

進学選択特集 堀内さん
2019年のオープンキャンパスでは、イタリア語の授業や主題科目の楽しさを写真を交えて紹介してくれた

――やはりこの時の経験が、農学部へ関心を持つきっかけとなったのですか。

直接的ではないですけど、関係していたかもしれません。
歴史や語学は好きでしたけど、研究テーマにするのは少し違和感があって。自分の関心が漠然としていたというか、もう少し実践的な角度で世界を見てみたいと考えるようになりました。
そうした時に、地理や世界史の授業で食糧問題に触れていたのを思い出したんです。自分は食べることが好きだったこともあり、食の課題を身近に感じることができました。災害時のフード・セキュリティー(食糧の安全保障)にも興味があって、そうしたことを学べるのはどこだろう…というと農学部だったんです。

――それで農業・資源経済学専修に決めたんですね。でも農学部というと、進学選択では理科二類のほうが有利ではないですか。

それは言えると思います。進学選択の第一段階では、ほとんどの専修で理科二類の定員が最も多くなっています。あとは理科全体、あるいは全科類枠のみを設けているという具合です。けれども農業・資源経済学専修は、農学部でも数少ない、文系の枠を設けている学科でした。
農学部で要求科目を設けている専修は一部に限られるので、文科でも農学部の他の専修に進むこともできなくもないですが、全科類枠での選考となると定員が限られるので成績で上位に入っていないと厳しいと思います。また第二段階になると、文科でも進学できる専修が本当に限られますね。

――となると、文科出身だと後期課程の勉強についていけなくなる…といったことが起こるのではないでしょうか。

専修で学ぶ内容や学生の意欲や態度によっても異なるので、一概には言えないと思います。私の場合にはなりますが、後期課程の学びについていけなくて困ったといったことはなかったですね。
また進学選択で農学部に進学が決まると、2年生の後半にあたるAセメスターから農学総合科目や農学基礎科目を履修することになります。食や生命、環境について広く学ぶだけでなく、専修に合わせて基礎固めも行っていきます。ですから心構えも含め、徐々に準備できた印象です。

実習に留学、多面的な学びは後期でも

――実際に農学部に進学していかがですか。

農業経済学や農業経営学、農政学といった講義もありますが、フィールドワークや実習が多いのも面白いです。附属農場に足を運んで、田植えや果樹の剪定、農作物の収穫なども体験しました。また3年の後半には学内の留学制度を利用して、デンマークのコペンハーゲンに行きました。デンマークの農業は生産性が高いことで知られていて、実際に農場を見た時は感動しましたね。

――東大農学部の好きなところは。

弥生キャンパスの居心地のよさかな。本郷キャンパスのすぐ隣ですが、規模もほどほどで落ち着いた雰囲気があります。緑も多いし、学食やカフェも揃っているし。弥生キャンパスだけで、日々の生活は事足りるくらい機能的でもあります。農学部に通う学生は、弥生キャンパスが好きな人が多いですよ。

進学選択特集 弥生キャンパス
農学部生が親しむ緑豊かな弥生キャンパスのシンボル・「ハチ公と上野英三郎博士像」

――4年生になった今は、どんなことを学んでいるのですか。

青果物の市場流通について研究しています。国内で生産されたほとんどの野菜は卸売市場を通って、スーパーマーケットなどの小売店を経てみなさんの元に届きます。しかし、直売所や生協の利用の普及、ITサービスの台頭など、青果物流通を取り巻く状況は日に日に変化しており、市場経由率は年々下がっています。需要の形も供給の形も多様化する中で、卸売市場が今後どのような立ち位置を取っていくべきなのか、このような議論に貢献ができる研究をしたいと思います。

――堀内さん自身は、進学選択に満足していますか。

そうですね。東大に入ったばかりの頃には、自分がまさか農学部に進学するとは思いもよりませんでした。自分で確かめながら進路を選んだという、手応えがありますね。
こうした形で進路を考えることができたのは、やはり前期課程の影響が大きいです。教養学部でさまざまな授業を受ける中でいろんな観点に触れ、興味を広げることができました。そのうえで何を学ぶかを決められたのは、ある意味ラッキーでしたね。

――最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。

高校生の段階で「これを学びたい」と強い志があることは、とても素晴らしいことです。けれども何を学ぶか迷っている場合でも、東大にはそれを受け入れるだけの懐の深さがある。教養に専門、そして実験実習や留学まで、あらゆる仕組みを活かして納得のいく学びを実現してほしいと思います。

――堀内さん、ご協力ありがとうございました!

進学選択特集 農学部の風景
インタビュー・構成/「キミの東大」企画・編集チーム