総合図書館、その歴史と建築―特集:知の拠点、東京大学の図書館 (2)

総合図書館、その歴史と建築―特集:知の拠点、東京大学の図書館 (2)

図書館特集2018

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まるで本棚に並んだ本を思わせる総合図書館の外観
前回は東京大学の総合図書館とともに、新設の別館の内部をバーチャルツアーでご紹介しました。第二回では、その総合図書館が歩んできた歴史とその建築物を、図書館関係者への取材と遺された資料からさかのぼってご紹介します!

関東大震災からの復興の象徴として

本郷キャンパスにある現在の東京大学総合図書館が建てられたのは、ちょうど90年前の1928年(昭和3年)。じつは東京大学で最初に建てられた図書館ではありません。明治期に建てられた最初の独立した図書館が1923年(大正12年)の関東大震災で焼失してしまったため、再建されたものなのです。

復興のためにと、ジョン・D・ロックフェラー・Jr.氏から400万円(現在の価値でおよそ100億円)という巨額の寄付を受け、それをもとに再建されたのが現在の総合図書館です。再建を手がけたのは当時の工学部教授で、後に東京帝国大学第14代総長となる内田祥三よしかず氏。多くの建物を設計した経験を持つ内田氏がキャンパス全体のバランスを考え、細かい部分にまで自身の案を取り入れて完成させた、入魂の建造物なのです。

重厚な「内田ゴシック」の外観

内田氏が震災の教訓を生かして、鉄骨鉄筋コンクリート造りの強固な構造を備えた建物として実現させたこの総合図書館は、地下1階、地上3階(中央部は5階)建てで、内側には7層の書庫が設けられました。ゴシック風の入り口のアーチ、淡褐色のスクラッチタイルの壁面、尖塔型の柱などの外観デザインは“内田ゴシック”と呼ばれて、まるで本棚に本が並んでいるかのようなデザインが総合図書館の象徴となりました。

今回の「新図書館計画」は、大規模な改修を施しながらも、伝統の外観デザインと基本構造に手を加えることなく、むしろ当時の姿を復元する方向で進められています。

九輪の噴水に寄せた思い

図書館の再建にあたり、内田氏が特に力を入れたのは、図書館敷地前の噴水でした。この噴水には、キャンパス内の三四郎池とつながる大掛かりな防火水槽の機能を持たせたのだそうです。日本の貴重な図書・資料を火災から守るための噴水を備えて再建された総合図書館は、震災復興の象徴ともなりました。


当時は図書館を火災から守る防火水槽として設置された噴水

やがて防火水槽としての役割は終わり、改修後は底のガラスが階下の「ライブラリープラザ」の天井になっているこの噴水は今も、総合図書館の象徴となっています。

その昔、「噴水から水が吹き出すのを見たら合格する」との言い伝えが受験生の間で広まったことがあるのだとか。附属図書館職員の方に確認したところ、現在は「平日の9時、12時、15時に噴水の水が放出されています」とのことでした。

漱石が小説で描いた図書館と宮崎駿監督が描いた旧図書館焼失シーン

現在の総合図書館ができる前の時代のことも触れておきましょう。東京大学にとって初めての独立した図書館が建設されたのは、東京大学創設から15年後の1892年(明治25年)。煉瓦造りで三角屋根の特徴的な建物でした。ところが前述したとおり、関東大震災によって貴重な蔵書ごと焼失してしまったのです。


夏目漱石も小説の中で描いた旧図書館

ちなみに、宮崎駿監督のアニメ映画『風立ちぬ』(2013)の中で、その炎上シーンが描かれていますので、一度チェックしてみてください。震災の被害を代表するほど衝撃的な出来事だったことがうかがえます。

ところで、夏目漱石の小説『三四郎』(1908年)にも東京大学の図書館が登場しているのをご存じでしょうか。広く長く、天井が高かった旧図書館の閲覧室の情景が描写されています。

森鴎外や徳川家から寄贈された蔵書を礎に再生

現在の総合図書館の話題に戻りましょう。震災による火事で大切な蔵書が焼失してしまった東京大学の図書館ですが、その復興のために内外の多くの人たちから蔵書寄贈の申し出を受けたと言います。なかでも徳川家から寄贈された「南葵文庫」は、図書館再生の根幹となったと言います。
森鴎外の蔵書を遺族から受贈した「鴎外文庫」も蔵書の一つで、そこには鴎外自筆の写本や鴎外の書き込みのある本が多数あります。
また甲州の素封家、渡辺家三代にわたる旧蔵書が寄贈された「青洲文庫」も、震災後の復興の礎になっているとのことです。

Q&A 東大図書館にはどんな古い本があるの?

関東大震災で一度蔵書を焼失したとはいえ、東京大学には価値の高い資料や書籍が多数集積しており、特に江戸時代の貴重な蔵書が豊富。図書館の人に「東京大学ならではの蔵書を見せて」とお願いしたところ、古い本を机の上にずらりと並べてくれました。

たとえば、あの十返舍一九の『東海道中膝栗毛』や曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』など江戸時代のベストセラーを出版された当時の実物で閲覧できるほか、誰もが一度は教科書で目にする『解体新書』もそこに。


『道中膝栗毛』(十返舍一九編)
【享和2年(1802)-文化11年(1814)】

『南総里見八犬伝』(曲亭馬琴編;柳川重信画)【文化11年(1814)-天保12年(1841)】

『解体新書』(與般亜単闕児武思 [著] ;杉田玄白訳;中川淳庵校;石川玄常参;桂川甫周閲)【安永3年(1774)】
※與般亜単闕児武思は「ターヘル・アナトミア」の元となったドイツ語書籍の原作者 ヨハン・アダムス・クルムス(Johann Adam Kulmus))

さらには、モネやゴーギャンにも影響を与えたという葛飾北斎の絵手本『北斎漫画』、浮世絵師の歌川広重の色付き版画の表紙絵が見事な『義経一代記』なども所蔵しているのが総合図書館のすごいところ。


『北斎漫画』(葛飾北斎筆)【明治10年(1877】)

『義経一代記くまさか』(柳亭種彦作;歌川広重画)【文政4年(1821)】

しかもそれぞれに「請求記号」がついています。ということはつまり、東大生は教科書でしか見られないようなこれらの本を、自分の大学の図書館資料として利用できるというわけです。

総合図書館にはこのほかにも、国宝級の貴重書や文化的に価値の高い資料が数多く所蔵されています。今、そうした貴重な文献や各種資料をデジタルデータで保存する「東京大学デジタルアーカイブズ構築事業」が進んでいるところ。一般の人も東京大学附属図書館の公式ホームページから見られるようになっていますので、ぜひチェックしてみてください。

<参考リンク>
東京大学附属図書館「コレクション 」

(取材協力:東京大学附属図書館)

2018.10.31
取材・撮影・構成/ライター・大島七々三