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東大卒業生インタビュー・化学メーカー研究職―ドラえもんを作りたくて理科一類へ。でも東大で別の選択肢に気づいた

東大卒業生インタビュー・化学メーカー研究職―ドラえもんを作りたくて理科一類へ。でも東大で別の選択肢に気づいた

東大卒業生のいま

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卒業生 Tさん

東大卒業生インタビュー

東大生の卒業後のいろいろな進路をお伝えするインタビュー。東大卒業後に化学メーカーで働くTさんをご紹介します。未来の技術に興味をもって理科一類に入学したTさんは、東大での様々な出会いを通して価値観が変わったと話します。Tさんが気づいた別の「選択肢」は何だったのでしょうか。

PROFILE

Tさん

出身高校:久留米大学附設高等学校
東大入学後の進路:理科一類から農学部 生物素材化学専修へ進学。同学部卒業後、農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 高分子材料学研究室へ進学。修士課程を修了し、化学メーカーに就職して研究職として勤務。

卓球部主将になって「選択肢を増やす使命」に気づいた

 「選択肢を増やすのが理系の使命なのかな」。
 Tさんがそう思うようになったきっかけは、「卓球」だった。
 Tさんは学部生時代、運動会卓球部に所属していた。1学年上の先輩が忙しかったため、2年生から主将を努めることとなったが、「卓球が好きで好きで仕方がない」というほど部活に打ち込んでいたわけではなかった。むしろ、運動を楽しみたいという気持ちの方が強かった。だが部内の人間関係はぎくしゃくしており、「何のためにこんな時間とお金を割いて部活をやっているんだろう」と、辞めたくなる瞬間も多かったという。そんなときに、部活の先輩からこんなことを言われた。

 「選択肢ごと増やすっていうやり方もあるよ」。

 選択肢は、部活を「続ける」か「辞める」かの二つだけではない。「変える」という選択肢もあるのだ。そのことにTさんは気づかされた。そして、部員みんなが楽しく活動できる部活となるよう、主将として改革に乗り出した。実際に、レギュラーメンバーの決め方を公平感があるように変えたり、戦術のミーティングをする機会を増やしたり、みんなでご飯に行く回数を多くしてみたりするうちに、部内の人間関係が徐々に良くなり、部活に行くのが楽しくなってきたのだそう。

 選択肢は増やすことができる。その教訓を得た上で、世の中を見てみたときに思ったことこそが、選択肢を増やすのが理系の使命なのではないか、ということだった。

社会問題の解決を志し、理科一類から農学部へ

 小学生の頃から理科が大好きだったTさん。特にドラえもんやタイムマシンといった、未来の科学技術に興味があった。だから大学受験の時は、理工系学科の募集人数が多い理科一類を選んだ。いつか、ドラえもんやタイムマシンを実現させるために。

 しかし、果たしてそれで良いのだろうか、とTさんは考えるようになった。

 Tさんが高校2年生だった2011年3月11日、東日本大震災が起こった。もっとも、Tさんが住んでいた九州は大きな被害を受けなかったため、震災の深刻さを実感できたのはむしろ大学進学後だった。東大には、被災地である東北から進学してきた学生がいた。また先輩の中には、停電で家に帰ることができず、数日間大学に泊まり、真っ暗な体育館でバレーボールをして寂しさを紛らわせていたという人もいた。彼ら彼女らの話を聞いてはじめて、Tさんは問題の重大さを思い知った。

 「今の日本を含め、世界にはこんなに社会問題がたくさんあるのに、ドラえもんを作るとか、タイムマシンを作るとか、そういうことを言っていて良いのかな、って自分の中で思っちゃって。こんなに世の中に今マイナスの出来事があるのだから、ゼロからプラスにする前に、マイナスからゼロにする方が先なんじゃないかなって」。

 思えば卓球でも、個人戦よりも団体戦の方が得意だ。自分は、自分のためではなく誰かのために何かをする方が頑張れる。そう気づいたTさんは、小さい頃から夢見てきた理工系の学部ではなく、一番「現場」を大切にしていると感じた農学部に進学することを決めたのだった。

大学で広い世界を見れば、価値観は大きく変わりうる

 学部卒業後、修士課程まで進み、化学メーカーの研究職に就いたTさん。そんなTさんが高校生に伝えたいことは、「今のあなたの価値観で決めないで」ということだと語る。かつて高校生だった時のTさんは、自分の価値観はすでに完成されていると思い込んでいた。しかしそれは、毎日家と学校を往復するような、決まった生活を繰り返している中での狭い価値観に過ぎなかったと、当時の自分を振り返る。
 大学に入って広い世界を見ると、自分の価値観はガラッと変わりうる。「いつか考え方が変わるかもしれないけれど」と留保した上で、目の前の課題に向き合っていくことが、人間として成長していく秘訣なのかもしれない。

取材日:2018年12月19日

2019.6.13
インタビュー・構成/学生ライター・伊達摩彦